武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
──うるさい。
「ルディは言ってたよ。ロキシーは1番大切な事を教えてくれたって!なんかすごい事教えたんでしょ!ルディが好きそうな、エッチな事とか!」
────とても、うるさい。
(姦しいどころの話ではない、これが女所帯の恐ろしさか…!)
私は2階の寝室から響く母様方のはしたない会話に必死に耳を塞いでいた。なんという事だ、父様のあの乱れ様は普段通りのもので、母様方も別に満更でもなかっただなんて知りたくなかった。
恐ろしいまでのふしだらさだ、元々徳川幕府に属さない野蛮な民だと覚悟していたがこれにはついて行けそうにない。布団の中で丸まって枕を頭に挟む事で出来るだけ話し声を遮断する。
(このまま寝てしまおう…明日になれば母様達も普段通りに戻ってくれている、こんな会話は悪夢だと思って忘れて仕舞えばいいの「何さみんなして私を除け者にして!エディト、私達も二人で女子会しよう!」
そんな、そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
一人だけ会話に混ぜてもらえず、不貞腐れたアイシャさんの話し相手に引き摺り出されて丑三つ時まで長話に付き合わされた。
しかも一緒に寝ていたレオに寝小便まで引っ掛けられる始末、厄日にも程がある……
「アイシャ、エディト、朝早くから洗濯物をしてるの?」
「あっエリス姉!これは…」
「………分かったわ!私も何度かしちゃった事があるわ、気にしなくていいのよ!」
「いやエリス姉、手伝ってくれるのは嬉しいけど私が漏らしたわけじゃ…」
「分かってるわ!」
(むごい……)
「…エリス母様、昨日はアイシャさんの部屋で一緒に寝て、それで私が……漏らしてしまったんです。」「エディト!?」
「そうだったの。あなたもまだ小さいものね、ちゃんとアイシャには謝っておきなさい!」
「………………分かりました、エリス母様。」
「ありがとうエディト…ごめんね?」
寝小便の被害にあった諸々の洗濯が済んでようやく朝を迎える事ができた。エリス母様とロキシー母様以外はまだ寝室で転がったままで起きてくる気配もないので、朝食は簡単に済ませて魔法大学に出勤するロキシー母様に弁当を持たせて見送った。
(まだ、朝なのか……)
色んな意味で疲れ切った私は帰ってきた父様の膝を占領し、夕方になるまで一緒にだらけたりルーシー様を構い倒して疲れた心を癒した。(アイシャさんが気を回してくれたのかだらけていても誰にも叱られなかった)
それからも父様が戦に向けて姉様方に説明と一時の別れを惜しもうとするも女性関係で信用を失ったせいで冷めた反応で揶揄われたり、ロキシー母様に先に名前だけでもと頼まれて男ならロロ、女ならララと産まれてくる子供の名前が決まったり。
そんな騒がしくも穏やかな日々を過ごしていく内に、とうとう出陣の朝が来た。
「それじゃあエディト、パパ達が帰ってくるまでロキシーとリーリャさんの言う事をよく聞くんだぞ。それと一人では出歩かないようにして、変な人に声かけられてもついて行ったり(心配性すぎて同じような注意を延々とされたので途中から聞き流した)」
「エディト…帰ってきたら…ううん、ボクがルディもエリスもちゃんと連れて帰るから、元気で待っててね…!」
「行ってくるわ!私がいない間もしっかりと頑張るのよ、エディト!」
父様とシルフィ母様、エリス母様から出発前の言葉をかけられる。
本当に行ってしまうのだ。水神様とオーベール殿、どちらも私にとっては雲の上の存在だが父様が魔術師として容赦なく戦う事ができれば負ける事はないだろう。
父様は殺し合いどころか喧嘩すらも嫌いだから心配だが、それを支えるためのエリス母様だ。シルフィ母様も同行するし心配ない、心配ないのだ。
「エディトおじょう…いや、エディト。少し早いが5才になる祝いだ。」
父様達の挨拶が終わったのを見計らってギレーヌが声をかけてくる。
5才の祝い…私はまだ5才ではない。父様達の戦いが終わって帰ってきてもまだ間に合うだろうに、前倒しで祝うということは、そう言う事なのだろう。
私の世話役としてではなく師匠としての呼びかけで、祝いの品は魔剣ではないが立派な業物の短剣だった。師匠としてこれからの私に必要なものを送ってくれたのだ。
「ギレーヌ師匠。ありがたく頂戴いたします。……御武運を。」
「うむ。最後になるが…お前の父も母も髪の色など気にしない、思いもしない行き違いもあったが…それでもそこは変わっていない、幸せになれ、エディトお嬢様。」
そう言ってとうとう全員が旅立って行った。
私は心配していない、父様もシルフィ母様もエリス母様も全員生きて帰ってくる、そこは疑っていない。
だが、ギレーヌとはこれで最後だ。
これからも会おうとすれば会えるのだろうが、これで本当に私達は家族でなくなったのだ。
思えば彼女には苦労をかけてばかりだった。
主君の娘だと言うのに忌子に産まれてきて、前世の記憶があったせいで彼女達の生活にも馴染めずに何度も何度も悩ませてしまった。
それでもした事もない子育てに全力を尽くしてくれて、私が母様の修行の足を引っ張らないように最後まで面倒を見てくれた。
不器用で無口だったが彼女からの愛情も優しさも、そして剣士としての根幹も、全てを与えて貰った。
部屋に戻って魂が抜けたように座り込んでいると、お婆様がやってきて抱き締めてくれた。
お婆様はかつて冒険者としてお爺様やギレーヌと共に旅をしていたらしい、彼女も寂しいだろうに今はただ私を抱きしめて優しく撫でてくれている。気づけば涙が溢れ出していた。
「ありがとう……ずっと、ずっと…ありがとうございました、ギレーヌ………さようなら。」
剣の聖地にいた頃からずっと、幸せでしたよギレーヌ。
あなたが愛してくれて、父様達が愛してくれると言い続けてくれて、私はずっと、幸せでした。
設定は拾うつもりですが書籍エピソードをあんまり書きすぎるのも良くないと思うので描写したりしなかったり気まぐれです、ご容赦を。