武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
地雷タグがあった時はどうかご容赦を。
まともに野山を駆け回れる身体に産まれたとは言え忌子は忌子。
剣の聖地と呼ばれ武芸者の集まるこの土地でも私と話してくれる人間は数えるほどしかいなかったが、前世では父母と小間使いとしか人付き合いの無かった私にとっては十分すぎる人数だった。
まず初めに母であるエリス。
次に剣の師であるギレーヌ。
北帝を名乗り奇剣を操る天狗のオーベール殿。
剣の聖地を支配する剣神ガル・ファリオン様とその娘ニナ様。
最後に此処から山脈を越えた先にある南の国に仕える水神レイダ様とその孫イゾルテ様である。
家族である二人を除き全員ここ幾月で初めて話すようになった相手だ。
きっかけはそう、剣神様に当座の間へと呼びつけられた時だろう。
「お嬢様は本当に剣を眺めるのが好きだな。」
「エディトは目がいいのよ!流石ルーデウスの子だわ!」
(色や意匠こそ風変わりだが何度見ても間違えようがなく刀だな…やはり此処は蝦夷地で母様とギレーヌはまつろわぬ民か。奇怪な見た目や名前、そして女とは思えぬ肌を晒した格好にも得心がいった。)
前世の母に聞かされた海という塩の大河を跨いだ先にあるという北の土地、そこには神君家康公と皇族の威光に平伏さぬまつろわぬ民が住むとされる。
おおかた蝦夷地に根を下ろす藩の人間から刀鍛治の技が流れでもしたのだろう。
(恐るべきはまつろわぬ民の血か、焼き魚ならまだしも獣の肉なぞが平然と膳に並べられて平らげても病魔の一つにも罹らぬとは…)
粥や湯葉ばかり出されていた頃と比べれば頭の痛くなるほど豪快な食事に感慨深くなっているとギレーヌに着替えさせられ固く礼儀作法を念押しされてから剣神というギレーヌとエリスの師匠の元へ連れて行かれた。
「お前がエリスの一人娘か、ハッ!本当に緑の頭してやがる。
おうエリス!お前本当は仲間だったとかいうスペルド族にも抱かれたんじゃねえのか?豪勢な女だぜ。」
「死にたいのなら最初からそう言いなさいよ。」
「噛み付くんじゃねえよめんどくせぇ、ちょっとした冗談だろうが。
額の魔眼もなきゃ尻尾もねぇ、間違いなく愛しの王子様との子だろうよ。縁起が良くて結構じゃねえか…って何やってんだこのガキ?」
気づけば立てていた片膝も下ろし額を床に擦り付けていた。
確信があった、剣神ガル・ファリオンの名は思い上がりでもなんでもない言葉通りのものだと。
その男は圧倒的で、絶対的で、そして何より完璧だった。
(毘沙門天の生まれ変わりと呼ばれた彼の上杉公はきっとこのような方だったのだろう、剣神…いや剣神様は武の神だ。)
「おい。」
「はい。」
「おいって。」
「はい!」
「……あー、頭上げていいぞ。」
「はい!」ガバッ
「何やってるのよエディト…」
「これがあの山猿の娘か…?」「ギレーヌ殿がよほど上手く躾けたのだろう。」「きっと父親の血が良かったのだろうな。」
「エリスに育てられて何がどうなればこうなるの…?」
ヒソヒソと高弟達の話し声が聞こえるが気にしない、今は神前だ。
すると、まじまじと私を眺めていた剣神様は深くため息をつくと投げ槍にこう言った。
『目の良さはかなりなもんだがこりゃダメだな、格上に噛みつこうって気概がハナからありやがらねぇ。
鍛えれば剣王くらいにはなれるだろうが牙の使い方も知らないガキを見る気はねぇ、下がらせろ。』
そのままその日は帰らされ、次の日には話を聞いた水神様とも目通りがあってまた床に頭を擦り付ける事となった。
「いや何やってんだいこの子?」
「そう言えばルーデウスもたまにエディトみたいにしてたわね!」
…どうやら蝦夷地では土下座は余り知られていないらしい。
母様曰く御家に仕えていた頃の父様はたまに土下座をしていたようだし母様自体が礼儀作法に疎いのかも知れん。
そして、切り捨てるような追い返し方とは裏腹に稽古で出た疑問でギレーヌにも答えられない事があると剣神様は身体で言葉で上手く教え込んでくださり、一月もする頃には剣神流初級の認可を与えられる事となった。
「あー、そういやお前なんでいつも端ばっか歩いてんだ?」
「まんなかはけんしんさまのとおるみちです、けんせいのにんかのないわたしにはあるけません。」
「はぁ?」
六面世界を北海道と勘違いしてるエディト君ちゃんの転生チートは異常なまでの洞察眼です。
前世が世間知らずな病弱っ子だから現実と空想の分別がほとんどついておらず異世界ファンタジーも割とすんなり受け入れてます。