武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
────ルーク視点────
俺は今、2人の剣王に睨まれながらルーデウスの枕元に座っている。
一応テントの外に出て2人きりにしてくれてはいるが、当主を殺した男の身内が家族に近づくのだ。
俺が少しでも妙な真似をすれば即座に首を落としに来るだろう。
ルーデウス…正直に言って俺はこいつが苦手だ。
本人は気にしていないが俺の父がこいつの血筋を恐れたせいで散々な苦労をかけた事もあるし、何よりこいつは優秀すぎる。
アリエル様が誰一人として引き抜けなかったラノアの特別生を一人残らず味方につけて不死の魔王を討ち倒し、俺達からシルフィを奪い去って妻にした。
せめてもの意地で決闘を申し込めば剣士の土俵で一蹴されて、歯牙にも掛けてもらえなかった。
それからもこいつは転移迷宮の攻略や水王級魔術の会得、更には七大列強二位の男と戦いその力を認めさせて偉業を更新し続けた。
今回、世界最大の国であるアスラの王位継承争いにしても中心にいるのは間違いなくこいつだ。
産まれでの気まずさや劣等感、真意の見えない最近の行動の不気味さも相まって、どうしても心の底から信じる気にはなれなかった。
そうして俺が仕様のない悩みを堂々巡りをさせる内に、出血のショックで寝込んでいたルーデウスが意識を取り戻した。
「ん…、んう……!状況は!?」
「起きたか…お前達のお陰でこちらに死傷者はいない、敵も何人か取り逃したがほとんどはお前の魔術で死んだ。
お前を斬ったウィ・ターもあの出血なら助からないだろう。」
「そう、ですか…よかっ……うっ…、う、ぅうぇ……」
状況を伝えるや否や気持ち悪そうな声で嗚咽を漏らし始めた。
最初は傷がぶり返したのかと思ったが、違う。俺もこれには覚えがある。
こいつは…人を殺した事が無かったのか。しかも俺が見てきた限りでは、殺し合い自体がダメな人種の反応だ。
「なぁ、ルーデウス…どうして俺達について来たんだ?」
気づけば、そんな疑問が口をついて出て来た。
「なんでって…シルフィが心配で…」
「それは何度も聞いたが…そもそもシルフィに行くなと言えば済む話じゃないのか?」
「…え?」
「シルフィはお前の妻で、子供だって産んだばかりなんだ。夫のお前からすればこんな戦い、同行させる理由自体ないだろう。」
我ながら何を言っているのか。
アリエル様を王にするために、シルフィの幸せを壊す覚悟で同行させた俺達が…どの口でこんな事を言っているのか。
「お前に命令を出したオルステッドにしたってそうだ、アリエル様の権力に肖りたいならどうしてこんな回りくどくて顰蹙を買うようなやり方をする?」
「は……?いや、なんで知って…」
「お前がオルステッドの命令で動いてる事なんてこの旅のメンバー全員が知ってる。
というかお前も本気で隠して無かっただろう、オルステッドの関与を隠す気がないのに、なんで本人は連れてこないんだ。」
俺は父の裏切りを棚に上げてルーデウスの行動への不信感を指摘し続けた。そこに納得ができない限り、本心からルーデウスを信じられなくなる気がして。
「仮にオルステッドの呪いが本当でも、こんな隠し事だらけで誰とも話し合わずに全部決めて、結局身体を張り過ぎて死にかけて…本末転倒じゃないか。」
こんなのはお前らしくない、普段のお前なら…お前なら…
「お前ならもっと……上手くやれるだろ…?」
もっと上手くやれて…父上だって、殺さなくていいように……
そんな、身勝手極まりない縋るような言葉を聞いて。
何故かルーデウスは懐かしそうな顔で苦笑を浮かべた。
「できませんよ…分かってるんですよ、このままじゃ上手くいかない事ぐらい。
でも、話し合って決めようとする度に腰が引けて、怖くなって、話せなくなるんですよ…!
誰かを殺す事を考えるだけで手が震えて、家族の命が掛かってもテンパったままで、今みたいになるんだよ…!
シルフィを裏切り続けて、エリスの気持ちにも気付かず、俺は周りが俺のためにしてくれた事に、気づけてもいなかった……!
俺が何か話す度に今以上に傷つけて、今以上に悪くなるような、そんな不安が、消えてくれないんだよ!」
そう叫び終えたルーデウスは頭を抱えたまま、小さく蹲った。
卑屈な顔で、言葉で、ダメな事が分かってるのに動く事もできないと、そんな弱音を溢すルーデウスに、不思議と親近感のようなものを感じた。
「なぁ…ルーデウス、お前は自分で思っているより、ずっと良くやってると思うぞ?
身内も友人もミリス教徒だから思い詰めてるかもしれないがな…抱いた女の事にちゃんと責任を取って、連れ子だって大事にしてるじゃないか。」
「いや、責任も取らずに取っ替え引っ替えしてるルーク先輩に言われても…」
「……少なくとも俺達は、何度も一緒に死線を乗り越えたシルフィをお前になら任せていいと思っている。
そうやってダメだった事ばかり考えて首が回らなくなる前に、多少失言してでもシルフィ達に相談してやればいいんだよ。」
随分と辛辣な本音が聞こえたがひとまず聞きしておく、こいつの減らず口が気にならないぐらい、こいつと話せて良かったと思う自分がいたからだ。
卑屈そうな顔で悲観的に塞ぎ込むこいつは、父に良く似ていた。
そうだ、優秀過ぎて実感が持てなかっただけだ。
俺にとってのこいつは親友の旦那で、女に振られて不能になるような、俺より歳下のただの従兄弟だった。
(あぁ……父上とも、生きてこんな風に話したいな。)
気づけば、一方的に感じていた気まずさや苦手意識のようなものは綺麗さっぱり無くなっていた。
「ルーデウス…俺は父上に死んでほしくない。
殺さなくて済むように、力を貸してくれないか?」
(俺の言い分は、面倒の増えるだけなワガママだろうが。
なんでそんなに……ホッとしたような顔になるんだよ。)
「分かりました、ルーク先輩。
オルステッド様とギレーヌに話して…なんとかして見せます。」
きっとこれが最初で最後だろう、俺もこいつをとことん信じてみよう。
どんな結果に終わっても…きっと納得して最後まで戦える。
状況に流されるままだった俺も、ようやく覚悟を決める事が出来た。
感想欄で混乱している方がいましたが本作は『無職転生』という作品を知っている前提で書いてあります。
混乱する事もあるでしょうし気になったら是非原作の方も読んでみてください。