武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
────ルーデウス視点────
王都に入る際、アリエルは盗賊団を先行させて帰還の噂を流し滞在予定の別邸までの道に町人を呼び寄せた。大々的にアリエル一行が帰ってきたと喧伝してピレモンにプレッシャーをかける目的らしい。
俺達はかなりの強行軍でここまでやってきた。身軽な少人数とは言えオーベール達も王都に戻ってきて1週間もしていないだろう、戦力を揃え直せていないピレモンは慌てて別邸に閉じ篭るはずだと言っていた。
政敵である王子達と歳が離れていた影響で初動が遅れ貴族の味方の少なかったアリエルは持ち前のカリスマを活かして町人や兵士などを中心に味方につけたらしく、アリエル一行を出迎える人々の熱気は凄まじかった。
前世での選挙カーや皇族の視察なんかじゃこうはならない。どちらかと言うとアイドルのような扱われ方で、自信満々に愛想を振り撒くルークや困惑して対応に悩むシルフィはラノア大学にいた頃のようだった。
貴族達の別邸が立ち並ぶ地区に入ってから少しして、町中の見回りをしていた見習い騎士が一人走り寄って来る。彼女は剣の聖地にいた頃の友達のイゾルテというらしく、物静かな美人の印象とは裏腹にエリスに近況やエディトが元気にしてるのかとか凄い勢いで質問攻めにしていた。
俺も挨拶をしようと思ったが途中で割り込んで口説こうとしたルークを俺だと勘違いして俺(ルーク)への陰口を言い始めたせいでタイミングを逃してしまう。『エディトの事もあるし強く言えないかも知れないが、食い物にされるようならこっちで仕事を紹介する。』そう言われてとても居た堪れない気分になった。
その日の晩、俺達はピレモンの滞在するノトス家別邸に襲撃をかけた。
前持って潜入させた盗賊団が抑えた警備の巡回路を避けて俺とルークとギレーヌの3人で屋敷に押し入り、エリスとシルフィは予めラノアで味方につけてアスラ王国に送り込んだ上級の剣士と魔術師達と共にアリエル達の護衛をしながら後を追う形だ。
屋敷の勝手を知るルークと優れた嗅覚で探索を請け負ったギレーヌに先導される形で屋敷を探す事数分、数人の剣士に連れられて脱出を図るピレモンを発見したと同時に屋敷の外にまで響く警鐘が鳴り響き、天井のシャンデリアの上に潜んでいたオーベールとナックルガードの片割れが立ち塞がった。
以前の襲撃時よりも強い柑橘系の匂い漂わせるオーベールにギレーヌが嫌そうな顔を浮かべる…この匂いで隠し持った毒か薬品の匂いでも誤魔化しているのだろうか?
「まさか王都に着いたその日の内に屋敷にまで押しかけるとはな…お主らの思い切りの良さを甘く見た某の失態か…
いや、後詰めの刺客を掻い潜って密入国された時点でどうしようもなかっただろうな。」
「なんだ、フィッツとエリスは来てないんだね…それなら先に旦那の方を仕留めておこうかな?一応ウィ・ターの仇だし。」
「俺達にピレモン様を殺すつもりはない。
今アリエル様の下に戻るなら不問にできる、降伏しろ。」
そう呼びかけながら、ザリフの義手の中で居場所を知らせる魔道具を起動させる。
「もう少しマシな嘘をつくのだなルーデウスよ、あのギレーヌがみすみす仇を見逃して我慢などするものか。」
「残念だったなオーベール…ルーデウスは首謀者を討たせると約束した、あたしはもうピレモンを狙わん。」
「なんと…ギレーヌお主、嘘をつく頭があったのか!
まぁ、どの道お主らが第一王子派に敗れればピレモン殿も連座で殺される。負け戦に付き合わされるのも殺されるのも大差なかろう。」
まるでアリエルに勝ち目がないような口ぶりにルークは眉を顰めるが、実際に勝てなくて俺達が介入しアリエルもオルステッドの庇護に入ったのだから仕方の無い評価だろう。
事情を知らないオーベール達からすればピレモンの死ぬ結果が変わらない以上引き渡すわけにはいかないのかも知れない。だが…
「…何でそこまでしてピレモン様を守ろうとするんだ?
用心棒だったウィ・ターはまだしもアンタ達がそこまで肩入れをするのは…ヒトガミの指示を受けたからなんじゃないのか?」
「ヒトガミ…?誰だそれは?」
「あれ?」
本当に名前すら聞いた事も無さそうな反応だ、ピレモンかオーベールがヒトガミの使徒じゃなかったのか?それともウィ・ターが使徒で、誰にも打ち明けないまま死んだのか?
「ヒトガミとやらは知らんが、強いて言えばエリス達の影響であろうなあ。」
「エリス達の…?」
「然様…剣神様に遠く及ばぬ身で龍神を討とう足掻き、某の剣を教えても上達するほどに死期を早めるばかりの狂った獣よ。あれほど思い通りにならん弟子は初めてだった。
娘のエディトもそうだ。母親譲りの阿呆でも無いのに遠回しな自殺に付き合わせるエリスに不満一つ漏らさず、産まれるとも分からぬ弟妹のために剣を振る可哀想な子だ。」
いきなり散々な言われようで言葉に詰まるが、意外と腹は立たなかった。
その言葉の中には罵倒も侮辱もなく、師匠として真摯にエリス達と向き合ったからこその親しみが篭っている気がしたからだ。
「あの子達はロクな死に方をできぬだろうが…それでも最後は満足げに死んでいく事だろう、己の成すべき本懐を持ってそれに全霊で打ち込めているからだ。
北神流の剣士とはそうあるべきなのだ、あのような弟子を持てて某は誇らしい。」
そう言った後、オーベールはどこか寂しげな顔でこちらを見た。
「だが当の師匠はどうだ?
不死の血を引き英雄の称号に振り回される宗家を否定したはいいものの、勝利と生存に拘る余り剣士とは名ばかり殺し屋に身を窶して同じ北神流にすら蔑まれるものへと奇抜派の名を貶める始末。
なんの事は無い、某もまた北神流の名に振り回されて本懐を見落としていたに過ぎんのだ。」
確かに、強いは強いけどニンジャだもんな。俺もこの前の戦いでパウロが北神流は剣士じゃ無いと言っていた意味が嫌というほど理解できた。
現在北神の称号を持つ剣士は全員不死魔王アトーフェの血を引いている。自分達のトップがアトーフェもどきだと思うと反発したい気持ちも分かるし、アトーフェの子供を超えるなんてそうそう出来ないから迷走の一つや二つもするだろう。
「焦りを覚えた某は筆頭の兄弟弟子を集めて己の剣を見つめ直した、もう一度我等こそが北神流の頂点であると胸を張るために。そこでウィ・ターに頼まれたのだ、裏稼業から足を洗うのなら雇い主を助けてほしいとな。
聞けばピレモン殿は『泥沼』のルーデウスに『狂剣王』エリス、『黒狼』のギレーヌに狙われているそうではないか。到底ウィ・ター一人で勝てる戦いでは無い、既に遺言となってしまったあの言葉に背いて仕舞えば某は二度と弟子達に胸を張れぬと思ったのだ。
故に引かぬ、第一王子派を下せるというなら我等を倒して力を証明して見せよ!」
「…わたし?わたしは細かい事はどうだっていいよ、ナクル兄ちゃんの仇を取らずに降参なんて死んでもしてやんない。」
北神流の事情を知らない俺には半分も理解できなかったが、要するに剣士の意地という奴だ。殺し合いになってまで拘る事かと思わないでもないが、『ここで踏みとどまらなければ後悔する』と彼らは確信しているのだろう。
前世と未来の俺はそれが分かっていたのに踏みとどまれず後悔しながら死ぬ事になった。勝つだけならピレモンを見捨てて水神と合流した方が確実だろうにここで戦うと言い切るオーベール達を見て、俺は説得を諦めた。
話し終わるのとほぼ同時に後ろからついてきていたエリス達が到着する、どうやらオーベール達もエリスが合流するまで待つつもりだったらしい。
「なによ!せっかく急いで来たのにまだ始めてなかったの!?」
「この場の全員お主待ちだエリスよ。
さぁ、ルーデウス一行よ!この前の雪辱を果たさせてもらおうぞ!」
エディト君ちゃんの話を書きたいのに書こうと思えば思うほど横道に逸れてしまうジレンマ。