武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
────ウィ・ター視点────
ギレーヌへの追撃をかけようとするも泥沼から『岩砲弾』が飛び、なんとか回避した次の瞬間には『水流』で地面に撒いたトリモチを押し流される。やはり此奴が鬼門か…!
森で脱ぎ捨てたあの鎧は小人族の私の体躯よりもかなりぶかぶかな大きさと形に調整してあった、気休め程度の誤魔化しだったが貫通力の高い『岩砲弾』には効果覿面でまんまと死んだ刺客の一人を身代わりに死を偽装出来た。
毒武器を受けたエリスに代わって泥沼が前に出る、とうとう奴をオーベールの前に引きずり出すことに成功する。
「俺がオーベールから解毒薬を奪うから、エリスはギレーヌの方を。」
「…!分かったわ!」
さしもの狂犬も夫の言葉には逆らえぬのか、大人しく引き下がる。
「…龍神配下『泥沼』のルーデウス・グレイラットだ。」
泥沼が首に手の平を当てながら名乗りをあげる。……あれは泥沼の流派特有の作法なのだろうか?
「!某の名は北帝『孔雀剣』のオーベ『ウオオオオォォォォォン!』
オーベールが名乗りに応えようとした瞬間、泥沼から凄まじい音量の雄叫びが響き体が硬直する。
「『岩砲弾』!」
「ぐ!?ぬ、うおおぉぉぉぉ!」
なんという卑劣!風変わりな作法ではなく『吠魔術』の準備動作の偽装だったか!尋常なる名乗り合いの場で騙し討ちを敢行するとは!
泥沼が獣族ではないからか、幸いにも不完全だった『吠魔術』は一瞬身体を竦ませる程度で収まる。
オーベールは咄嗟に『岩砲弾』に右手を差し出して無理矢理軌道を変える事に成功するが、直撃を避けた代償に右手はマトモに剣を握れる状態ではなくなった。
泥沼の脅威を再認識した私は焦りを押し殺しながらエリスと片腕のギレーヌに向き直った。
「醜態だなギレーヌよ!お主が私にかかずらって一体何度勝機を逃した!?『狂剣王』が毒を受け『泥沼』が再度オーベールの前に出張らされた、今度は奴の首が飛ぶかもしれんなぁ!?」
「ガアアァァァァ!ガアッ!アアァァッ!」
水神流の如く挑発を投げかけながらギレーヌの懐に潜り込んで浅い切り傷をつけ続ける。
私が北王へと昇り詰めるきっかけを与えてくれたのは兄弟弟子であるオーベールだ、昼は光で目を潰し夜は暗闇に身を沈める。敵よりも低い視点から戦場を掻き回せる私にとってこの戦法は体格差と腕力のハンデを綺麗に埋めてくれていた。
当然ながら欠点もある、私の戦法は敵方に腕効きの魔術師が一人いるだけで破綻するもの。実際に光と闇のまやかしが通じぬ戦いでは私は何度も矮躯の不利を突き付けられてきた。
剣の聖地から帰ってきたオーベールは我等を集めて修業を付け直してくれた。鎧が壊れるか魔術師の妨害を受けた際に勝ち切れるよう、強さの引き出しを増やしてくれたのだ。
二代目様の妻にして当時の北神三剣士が一人『死神騎士シャイナ』様の伝説を参考にした回避に特化させた戦法は、元々敵の動きの起こりを読んで目潰しと盾で防いできたものを回避に回すだけで安易に身につけられるものであった。
他種族の子供ほどしかない身体であれば相手が満足に剣を振れない距離に肉薄しても問題なく戦える。右目は魔眼なせいで眼帯で封じ左腕を失ったギレーヌになす術は無く、私とギレーヌの位置が完全に重なっているせいでエリスも攻めきれない、千日手だ。
(ギレーヌは片腕で大量の失血、エリスは毒を受けた。
時間は私に味方している、どちらもオーベールの元へは行かせぬ!)
次の瞬間、ギレーヌが私の振るった刃を自分から当たりに行って脇腹に剣が飲み込まれる。
ギレーヌは十分致命傷足り得る怪我を気にも止めずに私を掴んで握り潰そうとしてきた、
「ぐぶっ、が、お嬢様っ!」
「おのれ…っ心中には付き合わぬぞ!」
ギレーヌに刺さった剣を捨て腕から逃れた次の瞬間、まだ離れた位置にいるはずのエリスから風切り音が聞こえる。
エリスはオーベール最後の弟子にして北聖、つまり…
「ちぃぃぃ!」
エリスが腰に差していた短剣が咄嗟に横に飛んだ私の耳元を掠める、ギレーヌから引き剥がされ…!?「しまっ…!」
エリスは私に背を向けて泥沼とオーベールの元へと走り出していた!不味い、オーベールが殺される!
「行かせん!行かせんぞぉぉぉぉ!」
そう叫んでエリスの背中を追った後で、私は自分の失敗に気付いた。
鋭いステップで体勢を切り返したエリスが振り向き様に『無音の太刀』を放ち、全速力で走っていた私は頭から転倒するようにして回避したがそこが限界だった。
後ろから追いついたギレーヌに挟まれ、体勢を崩した私は死に物狂いで二人の猛攻を避け続けるも最後はエリスに片足を掴まれてしまった。
「…よせ、やめろ…」
「ダアアァァァァァ!!!!」
エリスは私の足を掴んだまま全力で腕を振り抜いて壁に叩きつけた、ドロドロに歪んだ私の視界に剣王達の拳が迫る。
「すまん…おーべ…」
ごしゃ、と鈍い音が私の言葉を遮った。
────ルーデウス視点────
これで二度目になるオーベールとの一騎打ち。一方的に手札を知っていた初戦とは違い、ある程度お互いの手の内を明かし合った上での戦いは意外にも俺の優勢で進んでいた。
本音では『吠魔術』の不意打ちで仕留めたかったとはいえ先に片腕を潰したアドバンテージはそれだけ大きかったのだろう。
短剣の投擲は予見眼で回避して落涙弾や赤墨は『衝撃波』で押し返し、近寄られる度に『泥沼』と『電撃』で足を止めて土槍で距離を取る。
隙があれば『岩砲弾』を打ち込み続ける事で片腕のオーベールは完全に攻め手を失っていた。
「剣士の間合いで二度までも…見事、見事だ。『泥沼』のルーデウス!」
オーベールが正眼に剣を構え直して突撃する。
「いざ、北神流奥義……『朧十文字』!」
『剣の一本を正面に全力で投げ、もう一本を斜め上空にふわりとほうる。』
俺はザリフの義手で『泥沼』を発動しながら正面から飛んで来る剣を叩き落とし、突撃するオーベールに『電撃』を撃つ。
『『四足の型』で『泥沼』を渡りきり、斜め上空に放り投げた剣を掴んで『電撃』を切り裂いて肉薄する。』
渾身の力で作った『土盾』で防ぐとオーベールは盾と剣をぶつかり合わせた衝撃を活かして回転し、もう一度剣を中空に放って最後の一本を抜刀する。来た、ここだ!
『オーベールは抜刀した剣を地面に突き立てその上に足を引っ掛けるように着地し、カウンターで放った『岩砲弾』を回避した。』
「………え?」
「取った!」
オーベールは今まで一切使っていなかった砕けた右手を中空に放られていた剣に引っ掛け、砕けた拳が更にぐちゃぐちゃになるのにも関わらずそのまま振り抜いた。読み合いで完全に負けていたのだ。
剣を振る手が砕けていた事と咄嗟に作った『土砦』で足場を塗り替え無理矢理距離を離したお陰で即死はしなかったものの胸を大きく切り裂かれ凄まじい勢いで力が失われる感覚に襲われる。
治癒魔術で傷を塞がれる事を危惧したオーベールは『四足の型』で乱れた足場をカサカサと動きながら距離を詰める、冒険者時代に苦戦したスノウドレイクを遥かに超える速度だ。こいつ手足に吸盤でもついてるんじゃないか?
『回転しながらザリフの義手を切り落とし、そのままの勢いで回し蹴りを放ってくる。』
予見眼で見えた通りにザリフの義手を切り落とされる。さっき斬った感触で俺の身体の脆さを見抜いたのか、迷いなく繰り出された回し蹴りは十分俺の首をへし折れる威力だろう。
回避も防御も間に合わない、だが…ザリフの義手を切り落としたところで生身の左腕がなくなるわけじゃない、生身の左拳には義手の中で隠されながら既に作りあげられた『岩砲弾』が握られていた。
「ぐはっ!?」
ノーモーションで放たれた『岩砲弾』がオーベールの胸を貫き、『電撃』で最後の悪あがきを封じる。
数秒間『電撃』を浴びせ続けて完全に動きが止まったのを確認した俺は治癒魔術で失血を止めた。
オーベールの死に顔は、なんの心残りもないような清々しいものだった。
オーベールの敗因はルーデウスの名乗りに乗って片腕を潰された事とザリフの義手の性能をよく知らなかった事と、ルーデウスが無詠唱治癒できると思って前のめりに攻め過ぎてしまった事です。
ウィ・ターの敗因はルーデウスを過大評価し過ぎて二人の足止めに拘り剣王二人に挟み討ちされる状況を作ってしまった事、『光の太刀』が放てる手足は雑に振るだけで小人族にとっては即死攻撃なので回避特化の新しい戦法では攻撃される頻度が上がるだけですぐに手詰まりになります。