武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
まだ未定ですが筆が乗れば閑話形式で老デウス時空を描写する事もあるかもです。
「───いいなエディト、今から唱える詠唱をしっかりと覚えるのだぞ。」
「はい、ししょう」
「汝の求める所に大いなる炎の加護あらん、勇猛なる灯火の熱さを今ここに『火球』」
そう唱え終えると同時にごう、と音を立ててギレーヌの手の平に大玉の火球が生み出される。
『魔術』と呼ばれるそれは母様も使う事ができ、周りから後ろ指を指される事もないこの地での『普通』であった。
私のこの頭のせいで小間使いを雇うわけにも行かず、家事に苦労していたギレーヌは『決められた詠唱を唱える』だけで『火を起こせる』この『火球』を良く使っていた。
火起こしの苦労を知らぬ私は初めの頃こそギレーヌが物臭に見えていたが今では魔術への忌避感などすっかりと消えた、一度魔術を使わぬ火起こしを見たがこの北国でいちいちあんな苦労をするなど正気ではない。
そうして魔術を見て育ったからか、たどたどしいがハッキリと喋れるようになった私は自然とギレーヌに魔術の教えを乞うていた。
ギレーヌは初めこそ未熟な自分が教えるのは気が引けると乗り気ではなかったが私が本気で魔術を学びたがっていると知ると困ったように、しかしどこか喜ぶような声で『やはりルーデウスの子だな』と読み書きの勉強もするという条件付きで受け入れてくれた。
母様とギレーヌ曰く父様は魔術の天才で、二人に魔術と読み書き・算術を教えたのもまだ8つだった父様なのだとか。
師匠に恵まれず伸び悩みながらもその力量は凄まじく、つ離れもする頃には空模様を書き換えるほどの魔術を操り剣の間合いの外ではギレーヌにも勝ちかねないほどだったという。
聞けば聞くほど途方もない話に心を躍らせながら私は魔術の鍛錬に臨むのだった。
……読み書きと魔術に関しては剣術と打って変わって要領を得ない教え方になり、教えているギレーヌの方が何度も混乱していたのは二人だけの秘密だ。
「なんじのもとめるところにおおいなるほのおのかごあらん、ゆうもうなるともしびのあつさをいまここに『ふぁいあぼーる』」
「………むぅ、駄目か。」
ものの見事に何も起きなかった…
詠唱を唱えきった後身体中に何か熱のようなものが走り軽く力の抜けるようなものは感じたが、何度試してもそれが形になる事は終ぞ無かった。
(母様やギレーヌも初めの頃は上手く扱えなかったようだし焦っても仕方がない、もうすこ、しだけ……)
「…エディト?どうしたんだエディトお嬢様、おじょう………」
「エリス様!エディトが目を覚ましたぞ!」
「起きたのねエディト!いきなり倒れたって聞いたから心配したわよ!」
気がつくと私は仰向けに転がされ、母様と眼帯を外したギレーヌに見下ろされていた。
聞けば魔術の鍛錬中に突然私が倒れ、心配したギレーヌが修業中の母様も呼び戻してずっと看病をしていたという。
「ぎれーぬ…みぎめ……つぶれてない…?」
最初こそ修業の邪魔になった申し訳なさで黙り込んでいたが、眼帯をしていた方の目でジロジロと隅なく見られるせいでつい聞いてしまっていた。
ギレーヌの右目は魔眼というらしく、産まれつき彼女の右目は魔力を見通す力があるそうな。
『エディトお嬢様が倒れた時、お嬢様の身体の中の魔力がかなり減っていた。起きた時にはある程度戻っていたのを見るに魔力を使いすぎるとこうなるのだろう。』しばらく私を見つめていたギレーヌはそう結論付けた。
眼帯は潰れた目を隠すためではなく制御しきれない魔眼を塞いで快適に過ごすためだと教えられた。
因みに父様は11の頃に魔界大帝という存在から未来の見える魔眼を与えられてものの数日で完全に制御できるようになったのだとか、神童とは聞いていたが出る話がどれも凄まじいものばかりな人である。
「ルーデウス曰く、魔力も使えば使うほどに鍛えられるらしい。
今度からは使い切らない程度に魔力を使うようにしよう、私の目で見ていれば倒れる事もあるまい。」
「ありがとう、ぎれーぬ。」
そうして毎日眠る前に詠唱を唱えて魔力を使うようになり、ギレーヌの目から見ても私の魔力はかなり増えたようだが一向に魔術が成功する気配はなかった。
エディト君ちゃんの呪い要素は魔術を扱えない事です。(一部魔道具の起動は可能)
彼女の中のルーデウス像がどんどん膨れ上がっていく…