武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
────ルーデウス視点────
「来たか、ルーデウス・グレイラット。」
「はっ、参上致しました!」
俺は今、貴族街の端にある使用人達の地下墓所に呼び出されている。
相手は当然オルステッドで、俺は既に土下座に近い体勢だ。
「この度は誠に申し訳ございませんでした…」
「……………待て、何の話だ?」
「いや、その、度重なる無礼な態度と独断での方針変更の謝罪をと思いまして…」
今回、身内や友人が絡んでいたとは言え初仕事から上司のオルステッドを蚊帳の外に暴走してしまっている。当面の危機が去って頭が冷えた俺は本気で反省していた。
初めは雑な説明と適当な態度に腹を立てていたものの、オルステッドなりに纏めてくれた情報を半ば丸ごと放り投げてピレモンを助けるために動いた俺が言えた事ではどう考えてもない。信頼を得るための仕事で彼からの信頼を裏切ってしまった。
余裕が無かったとはいえなぁなぁにはしたくない。
「結果として上手くは行っただろう、流派全体の無罪放免と水神の助命のために水神流の大半がアリエル派閥に降った。
ここまで上手くいくとは思わなかった、お前に任せて正解だったな。」
対するオルステッドの言葉は非常に上機嫌で楽観的だ。実際そうだろう、元々王にする予定だったアリエルはオルステッド直属の配下として連携を取れるようになり、先日の一件でダリウスは死に水神レイダは拘束された。
あのお婆ちゃんは王城内で剣を抜いてアリエルを襲った。当然死罪だしアリエルが国王に就任するまでの何処かで処刑されると発表されたがそれよりも前に獄中での事故か老衰で書面上は死ぬ手筈になっている。
処刑の前に死んだなら仕方ないという事で話は終わり、レイダ当人は晴れて自由の身というわけだ。あんな事をしでかしたロックな婆さんだが人望は厚く、レイダの処刑が免れた水神流は馬車馬の如くアリエルに尽くすのは間違いないらしい。
元々アリエルの後ろ楯だったノトス家にも被害はなくオーベールから奇抜派を託された北王ウィ・ターごと吸収できた。オルステッドからすれば笑いが止まらない結果だろう。
まぁそれはそれだ、例えオルステッドが許してもいざという時に事後報告で勝手にするのが良しとされる関係は不健全だからな。
「次からはオルステッド様ともちゃんと話し合って決めさせてください。クリフ先輩だって呪いを緩和する研究を続けてくれています、きっと俺以外とだって相談して事を進められるようになるはずです。
オルステッド様が俺を信じて好きにさせてくれたように、俺もオルステッド様を信じて一緒にやっていきたいのです。
だからもう今回のような勝手はしません、本当にすみませんでした。」
「…そうか、分かった。次回からもよろしく頼む。」
俺の言いたかった事が伝わってくれたのか、オルステッドは見るからに嬉しそうな雰囲気を纏い始めた。顔は怖いままだが…
「俺からも一つ詫びよう。お前に嘘をつき、隠していた事がある。」
そうして切り出されたオルステッドの事情通の真相はやはりというかなんというか、未来予知ではなく強制発動型のタイムリープが原因だった。
今より100年近く前の時点から200年の間を繰り返し、オルステッドが死ぬかヒトガミを殺さなければ記憶を持ってやり直しというわけだ。
今は何度目か聞いてみたところ、本人も100から先は数えていないので分からないらしい。
これまでの経験則で第一王子派が盛り返す手段は無く、ヒトガミのこの盤面になれば手を引くのが分かっているらしい。アスラ国王を決める戦いは俺達の勝利で確定したという事だ。
「…待ってください、それなら結局最後の使徒は誰だったんですか?」
「何を言っている?ダリウスと水神で二人、最後は北神三剣士かピレモンではなかったのか。」
「いいえ、ピレモンとウィ・ター…オーベールも全員使徒ではありませんでした。」
オーベールがピレモンについたのは完全に兄弟弟子のよしみと腕試しだ、ピレモンはダリウスに脅された結果でしかなくウィ・ターは泣きついてきた雇い主を守ろうとしたに過ぎない。
そこである事に気づいた俺は、冷や水を浴びせられたような気分に襲われる。
「どの道ヒトガミは手を引いた、誰が使徒かは後で確認すれば済む話だろう。」
「違います、今回の戦い…ヒトガミの使徒はダリウスとレイダしか参加していません…ここから先で、アスラ王国に介入する手段がないのならそれがヒトガミの用意していた全戦力という事です。」
「つまり、何が言いたい…?」
「俺達が動いた影響でアスラ王国絡みで動かせるヒトガミの使徒が二人しかいなかったなら…使徒の枠が一つ余って、俺の家族を襲う分に回せます…!」
状況を理解したオルステッドは目を見開いて立ち上がった。
元々俺の介入の影響で使徒にできる人間が減り、第一王子派が敗色濃厚だったとしたのなら、ヒトガミは早々にアスラ王国以外に龍神陣営を脅かす手を打ってもおかしくは無い。
ここで俺の家族が殺されていれば俺とオルステッドの信頼関係は完全に崩れ去る、そして…タイムリープの中にいなかった俺の家族への襲撃は…経験の無いオルステッドには想定しきれない…!
「最悪だ…!あいつ…あいつ……!!」
「ルーデウス・グレイラット!今すぐケイオスブレイカーの転移魔法陣を使ってシャリーアに帰れ!アスラ王国の方は俺が見る!」
「…っ!ありがとうございます!ここはお願いします!!」
俺は墓所を抜け出し全速力でアリエルに貸し出された滞在用の屋敷に舞い戻った。
「シルフィ!エリス!今すぐ支度をしてくれ!」
「どうしたのルディ!?」「敵なのねルーデウス!?」
「違う!シャリーアの方にヒトガミの使徒がいるかもしれない!今すぐペルギウス様の空中城塞で帰ろう!」
それを聞いた瞬間に二人は簡単な装備だけ整え、俺と一緒に屋敷を飛び出した。
「来たなルーデウス・グレイラット、既にペルギウス様から許可は貰っている、受け取れ。」
外では空中城塞に召喚するための魔道具を預けられたアルマンフィが待ち構えていた。オルステッドが彼を呼び出し先に話をつけてくれたのだろう、ちゃんと後でお礼を言わなければ。
「いきなり申し訳ありませんペルギウス様!魔法陣、お借りします!」
「分かっている。まさかあのオルステッドが読み負けるとはな…」
いきなりアルマンファを呼び出しほぼアポなしで城に上がり込んだ俺達にシルヴァリルは心底嫌そうな顔をしていたが、ペルギウスは事が事なので文句一つ言わずに魔法陣を使わせてくれた。
「ルーデウス!シルフィ!時間が無いから私が運ぶわよ!」
シャリーアからすぐ近くの転移魔法陣に降り立った俺達はエリスに担がれて凄まじい速度でシャリーアに到着する。
エリスの足が速すぎる上に運び方が乱暴だったせいで俺達はすぐには走れない、俺とシルフィが息を整え治癒魔術で吐き気を治すのを尻目にエリスが先行して家へと走って行った。
すぐにエリスの後を追った俺達は傷一つ無いグレイラット家の屋敷を見て一安心し、開け放しになったドアから家に上がり込む。リビングの入り口ではエリスが困惑した空気を漂わせながら仁王立ちしていた。
一体、何があったというのか…
不安を押し殺して恐る恐るリビングを覗いた俺達の視界には信じられない光景が広がっていた。
「お帰りなさいませ父様!留守中、ヒトガミの使徒が来たので仕留めておきました!」
──そこには、両手足と首に鎖をかけられながらルーシーをあやすエディトの姿があった。
かなり長くなりましたが今回でアスラ王国編とルーデウス視点は一区切りです。
次回からようやくエディト視点に戻れます。