武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
────とある分隊長視点────
我々ミリス教導騎士団の斥候分隊は現在、魔法三大国の象徴とも言えるシャリーアに来ている。
目的はもちろんこの街に住む悪魔憑きの子供と悪魔憑きを増やしかねない身重の魔族を殺すためだ。
緑髪の子を持つ家庭、中央大陸の町中で堂々と家と土地を買って子を増やそうとする魔族、どちらも我等教導騎士団の審問対象であり無事に済ます理由はない。
魔族という穢れた害虫はどれだけ抑えつけ殺し回っても網をすり抜け湧き出し人族の支配圏に根を下ろそうとする。あてどなくその日暮らしを繰り返し細々と死んでくれるなら我等とて無闇に殺そうとはしない、三大国に安全を保証され寮生活が許された者も見逃さざるを得ない。
そもそも小国の立ち並ぶ僻地だけあって北方大地は魔族にも寛容だ、口惜しい話だが中々大手を振って殺すことはできない。
それでもミリス名家の血を引きながら重婚し、魔族を娶り、あまつさえ緑髪の悪魔を産み出したグレイラット家を許す事は出来なかった。
ただでさえ魔族に甘く技術水準だけは無駄に高い魔法三大国の中でグレイラット家が権力を拡大させれば我々排斥派にとって北方大地は活動し辛い土地となるだろう。
だからこそ夢のお告げを受けただなどと我々の前で言い切ったあのバカからの支援要請は好都合だった、ネリス公国伯爵家の次男が商会の人身売買の部門から北聖を雇って我等にグレイラット家を襲えと言ってくれたのだ。
アスラの王族とも親交深く魔法三大国が今誰よりも注目している魔術師に喧嘩を売る意味が理解できないのだからこの手のバカは扱いやすくて助かる。
家長であり今やシャリーア最強と名高い『泥沼』のルーデウス、アリエル王女の守護術師『無言のフィッツ』、剣の聖地から降り立った魔獣『狂剣王』エリス、どれも小国なら全勢力で挑まねばならない怪物だ。斥候を担当する部隊だけに我等はその恐ろしさを理解している。
それらがアスラ王国に旅立ち、グレイラット家も龍神などという素性の知れぬ武人の配下でしかない今が最初で最後の好機なのは間違いない。
標的の一人である魔族も吟遊詩人に謳われたほどの実力者で水王級魔術師だが今は身重だ、北聖がいれば問題なく殺せる。
全てが終わった時には伯爵家ごと巻き込んで大手を振って名前を出したバカ息子に責任を擦りつければ良い。泥沼は家族絡みで森を焼いたほどの狂人だ、伯爵家とも存分に争ってくれることだろう。
悪魔憑きと有力な魔族を殺し背教者のグレイラット家と魔法三大国の関係にヒビを入れる。我等全員が捨て石となり死んでも惜しくない大戦果に今から胸が躍る。
「待て、貴様らはこの街の人間ではないな?冒険者でも無ければ正規の騎士にも見えん。名前と所属、目的を言え。」
「ざっ、ザノバ・シーローン…!」
厄介な奴が現れた、怪力の神子にして現在シャリーアに二人のみ滞在する『六魔練』の片割れ…何故よりにもよってここで目をつけられる!
『六魔練』はただでさえ当代の魔法大学生の内最強の六人なのだ。目の前のザノバも魔術に弱い体質故に魔法大学内での評価は低いがその実力は折り紙つきの武闘派、実戦での脅威度ではあのクリフ・グリモルが最弱と目される怪物集団の一人に運悪く遭遇した私は舌打ちを抑えられなかった。
(どうすれば…先にこいつから殺しますか?)
(待て早まるな!往来の真ん中で小国とはいえ留学中の王族を殺せば騒ぎは避けられない、魔族を殺す余裕は無くなるぞ!)
(ならばどうするというのです!?すでに我等は疑われている、クリフ・グリモルや泥沼と縁のある冒険者を呼ばれれば全滅だ!)
(抑え役に北聖がいて我々も全員初級以上の魔術が使える現状、こいつ一人だけなら問題なく殺せます…逆に今を逃せば魔術師の後衛を呼ばれて手がつけられなくなります。ここが最後の機会かと。)
部下達は既にやるつもりらしい、確かに元々死を覚悟した強行軍だ。安全策のために成功率を落としては意味がない…やるか。
そう決意を固めた瞬間、私の足下に何かがぶつかる感覚があった。
見下ろした私の視界に入ってきたのはブカブカの帽子を頭の半分まで被ったロングスカートの少女だった。
「大丈夫かなお嬢ちゃん?おじさん達はこれから大事な話があるから少し離れ「剣神流奇術…『無影剣』」
ボソリとつぶやき声が聞こえ少女のロングスカートが揺れたと思った瞬間、私の両足は膝から下と泣き別れを果たしていた。
「ぐあああああっ!て、敵し「敵襲ーーーーツ!!!!」
私の声を塗り潰すように街全体に響く様な大声が響き渡り、次いで少女の抜いた短剣が私の首元に…「殺すな!エディト殿、そいつは生かしたままにしていただきたい!」
「ハッ!では残った腕を。」
そう言って少女は…いや、緑の髪を持つ悪魔憑きは容赦なく私の両腕を斬り落とし、拳で顎を打ち抜き私の意識を刈り取った。
「緑髪の…悪魔ァ……ッ!」
───エディト視点────
ザノバ殿と共に職人街の目新しい技術者や嗜好品を物色した帰り道、どうにも不審な集団を見かけた。
九人の集団のほぼ全員が場慣れした雰囲気を放つ、それも正規兵の様な空気を纏いながら素性を隠す様な格好と振る舞い。それに…後ろに控えているのは当座の間に上がる事を許された聖地の高弟方にも匹敵する強者の気配を漂わせていた。
溢れ出る殺気と昂りはここで事を起こすつもりだと雄弁に語ってくれていた。
「ザノバ殿、彼らはここで誰かを殺すつもりの様です。恐らくはヒトガミの使徒かと。」
「なんと…了解しましたぞエディト殿。
余が殺してきますのでエディト殿は屋敷に帰って報告を。」
「騙されませんよザノバ殿…足止めになって私を逃すつもりでしょう?魔術師も多くいます、逃げ切れる保証はありませんしザノバ殿が死んでも父様は悲しみますよ。」
「仕方ありませんな…では剣士は余が抑えますのでまずは大声で人を呼んでくだされ。それから魔術師の妨害を任せますぞ。」
「ありがとうございますザノバ殿。」
そして私の編み出した『無影剣』は綺麗に相手の足を断ち切った。
北神流の暗器の知識と抜刀術を未完成な『無音の太刀』と組み合わせた私の奇術、未だ身体が小さく闘気も筋力も技量に追いついていない私が各流派の強力な剣技に代用させるための小細工である。
(師を名乗れないなど…そんな事はありませんよオーベール殿。
あなたの教えは私の剣の中に力強く息づいていますとも。)
恐らく戦後の交渉のためであろう、殺すなと言われた男の意識を奪って他の襲撃者達に剣を振るう。他も殺すなと言われたわけではないが一応それなりの加減はしておく、それでも死んだのならザノバ殿も責めるまい。
中級相当と思われる剣士が四人、魔術が得意と思われるものが三人、彼等の邪魔をしながらザノバ殿を魔術から守る。
彼は肉体こそ頑強そのものでエリス母様ですら真っ二つにするのは厳しいと溢すほどだが魔術には頗る弱い、元々一人で戦って良い人ではないのだ。
「『首取り王子』のザノバだな。俺も元は紛争地帯の傭兵だ、お前の武勇伝はよく知っている…俺の名は『北聖』ストーグルだ。」
「うむ、ザノバ・シーローンである。貴様の相手は余だ。」
『北聖』ストーグルとザノバ殿の戦いも始まった、私はザノバ殿の背中を守って七人の襲撃者をあしらう形だ。
全員が個々では私より弱く私が三大流派全ての戦法を混ぜ合わせた多角的な強さを持つために攻めあぐねている。既に剣士を一人仕留めた、このまま行けばすぐに私の声を聞いたアイシャさんが冒険者かクリフ殿を呼んでくれる事だろう。
「ふざけやがってなんて硬さだ!…なら、北神流『落涙弾』!」
「『腕落とし』!」
「チィッ邪魔を…!」
「水神流奇術『断投牙』!」
ザノバ殿の硬さに剣だけでの勝利を諦めたストーグルが『落涙弾』で目潰しを図るが私が粉袋に向けて『腕落とし』を放って叩き落とした事で不発に終わるが代わりに掴んだ短剣を私の方に投げつけて来たので外套に隠していた盾で弾く。
両手を使い終わり、投げられた短剣の防御に意識を割かれた私に後ろから剣が迫る。
「終わりだ悪魔!」
「ワオオォォォォォン!」
「レオ!!」
声を聞きつけて真っ先に助けに来たらしいレオが、私に斬りかかった襲撃者の喉笛を噛みちぎった。
「レオ!乗せてください!」
「ワフッ!」
私は即座に靴を脱ぎ捨てレオの上に飛び乗り、凄まじい速度で駆けるレオの上で構えを取って通り過ぎざまに魔術師の一人を力いっぱい斬り飛ばした。
「北神流奇術『斬馬』!これであと、五人!」
一目見てガル坊やレイダの強さを見抜き不審な振る舞いやオーラを感じ取る観察眼…スペルド族では?
あと今更ですが彼女は敵を殺す事への忌避感は皆無です。
技の内容は次回にまとめて紹介します。