武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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Q.殺気だけで殺しに行くのは無法では?
A.両方ともリアルで無礼打ちの許される立場出身なので生活圏内に入った不審者は見つけ次第拘束が当たり前と考えています、ツッコミ不在です。
一応ザノバが話しかけた時に素性を明かして白ならセーフでした、ザノバに殺気を向けたからアウトだったけど。


初仕事の終わり

────エディト視点────

レオの背から放たれた一撃で魔術師の一人が吹き飛び、いきなり懐に入り込まれた残り二人の魔術師は一拍遅れて剣を抜いた。

 

「レオ!戻ってください!」

「ウォンッ!」

「熾烈なる炎の精霊にして焦土のは…くっ!」

「あくまでザノバ・シーローンの盾に徹するか!」

 

後ろに置き去りにした剣士達が私を追わずザノバ殿に視線を向けたので引き返して見れば火系統魔術と思われる詠唱の真っ最中だった。

(なるほど、全員が魔法剣士というわけか。厄介な…)

無理矢理舞い戻ったせいで隙を晒し、左右から挟み込む形で斬りかかられる。後ろでは既に後衛達が詠唱を始めている。

 

「後ろ!」

「ワン!」

「なあっ!?」

「水神流奇術『猪鼓』、奥義…『流』!」

 

レオに号令をかける事で体勢を横転させて速度を殺して機をずらし、下段から切り上げていた方の剣士の顔面を『猪鼓』で撃ち抜いて上段からの切り下ろしは不完全な『流』では受け流し切れずに背中から転がり落ちる。

既に停止していたレオは迷いなく後方の魔術師達に噛みつきに走る。私は落馬…落犬?した隙に追撃をかけようとした剣士の爪先に盾の縁を振り下ろして砕き、体勢を崩したところを思い切り殴り抜いて意識を刈り取った。

 

「あと…三人!」

「邪魔くせぇぞチビが!」

「ぐぅっ…!?」

 

刃は通らず、後衛達の魔術は届かず、落涙弾は使おうとした端に防がれる、痺れを切らした『北聖』ストーグルがザノバ殿を無視して私を落としにかかる。

体格差のせいで初撃を防がれた瞬間にストーグルは対応を変え、体重差に任せて私を中空に持ち上げるように蹴り上げた。

踏み込みができず構えも取れない中空に迫るストーグルの刺突をなんとか全霊の防御で逸らすも脇腹に突き刺さり、そのまま両断されそうになったところで盾と短剣を投げつけて時間を稼ぐ。

 

一度剣を手放したストーグルは自由になった腕で盾を叩き落とし、『四足の型』で短剣を避けて私にトドメを刺そうとし…私が短剣を投げつけた真後ろから追いかけて来たザノバ殿に肩を掴まれた。

 

 

「クソっ放、せ…は…ぁ?」

 

 

ストーグルは勘違いをしていた、エリス母様ですら両断できない身体を持つザノバ殿に私の攻撃を気にかけて立ち回る必要はない。

なんの躊躇も恐怖もなく、私の投げつけた短剣を顔面で弾き返しながら最短距離でストーグルを捕まえる事ができるのだ。

そしてもう一つ…ザノバ殿は体質のせいで身体を鍛える事ができない。技量も素人同然なら足も遅く、体力も剣士より遥かに低い。

いくら剣が通じない程頑強な肉体でも指の二、三本が触れた程度なら『北聖』の技を持ってすれば抜け出せると勘違いしてしまうのも仕方のない事だろう。

 

「ぎぁぁぁぁぁぁ!?はっ、やめっ!」

 

掴まれた肩は身動ぎ一つできずに握り潰され、そのまま顔面を掴まれたストーグルはぶちりと首を引き抜かれた。

戦士としての単純な技量ではどれほど天地が覆ろうがザノバ殿がストーグルに勝つ術は無い、だからこそストーグルの間違いは致命的だった。

天地が覆ろうと揺らぐはずのない実力差、それを踏み倒してしまえるからザノバ殿は『怪力の神子』なのだ。

 

「無事ですかエディト殿!」

「問題…ありません、このまま抜かずに治療を待ちます…」

 

そこからは一方的だった。剣を持てばザノバ殿が全てを跳ね返しながら突撃し、詠唱を唱えようとすればレオの牙が喉笛を噛みちぎろうとする。

ストーグルを失った襲撃者達はものの数分で壊滅した。

 

 

 

 

 

 

「君がついていながらこの怪我はなんだザノバ!エディト君もだ!幾ら才能があるからと言って無茶を繰り返せば親であるルーデウス達が泣く事になるんだぞ!」

 

 

 

それらしばらくしてクリフ殿が合流して私と生き残っていた五人の襲撃者達の治療を済ませ、一言一句反論のしようの無い説教を浴びせてから私とレオを屋敷まで連れて行ってくれた。

ザノバ殿は拘束した襲撃者達と交渉があるので残るとの事。

 

そして屋敷に帰った私はクリフ殿から説明を受けたロキシー母様に抱き上げられ……

 

 

「エディト…ルディが帰ってくるまで外出禁止です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事がありました、ですが安心してください父様。ザノバ殿も私もレオも死んでおりません!」 

 

その日の晩にやって来たザノバ殿の報告で襲撃者は私とロキシー母様を狙ったミリスの教導騎士団と判明。国と真正面から争うわけにも行かず、ストーグルを雇い今回の襲撃の指示を出したヒトガミの使徒に騙されたという形で襲撃者達は衛兵に引き渡された。

数日後、隣国の伯爵家令息が謎の急死を遂げたのも無関係では無いだろう。

 

「いや…おかしいだろ…なんで『北聖』がいるって気づいて襲いに行くんだ…?」

「…良く…やったわねエディト。でもロキシーと相談する前に戦ったのはよく無いわ、反省しなさい!」

「そんな…どうしてそんな事…死んだかもしれないんだよ…?」

 

 

私が北神流の縄抜けが使える事もあり、ロキシー母様につけられた魔獣用の鎖の経緯も含めて些細に説明すると三者三様の反応が返って来た。

全員余り良い反応はしてくれなかった、クリフ殿や冒険者を呼びに行く間に誰かが殺されては遅かったのだ。あの場での最善の結果を出せた自信があっただけに少し悲しい。

 

「お願いエディト…次からは自分の安全を一番に考えて、もうこんな…危ない事はしないで。」

「ですがシルフィ母様。ルーシー様やロキシー母様にも累が及びかねない相手でした。私を優先するには…え?」

「もういいのエディト…ごめんね、ずっと逃げて…ごめんね。

ボクもうふらふらしないから、ちゃんと家にいて…みんなの事、守るから。ちゃんとエディトの事も守れるように…頼ってもらえるようにするから…だから…そんな悲しい事言わないで…」

 

気がつけば、シルフィ母様が泣きながら私を抱きしめていた。

私は…シルフィ母様には嫌われていると思っていたから頭の中で浮かべていたはずの言葉が散り散りになってしまう。

 

私はシルフィ母様にとって不愉快な存在のはずだ。エリス母様に傷つけられた父様を慰め寄り添ったのは間違いなくシルフィ母様で、最初に結婚して正妻として子を産んだはずなのにそれよりも前に生まれた私がルーシー様の前に割り込んでケチをつける形になった。

髪の色にしてもそうだ、アリエル様の護衛という立場のある身で忌子の私を迎え入れれば今回のような軋轢は必ず生まれる。事実、家の中でも私と目が合う度に苦しそうな顔で私の髪を見つめて去っていく事が多かった。

 

「もうしわ…ごめんなさい、シルフィ母様。

ごめんなさい…心配、してくださっていたのに…」

 

まさかシルフィ母様を泣かせてしまう事になるとは思わず、私は抱きしめられながらしばらく謝り続けた。

 

 

 

 

後日、まだ政争が終わり切る前に抜け出してしまったらしい父様とエリス母様はアスラ王国に舞い戻り…シルフィ母様はそのまま屋敷に残る事となった。

余談だが、父様とエリス母様の代わりに私達を見守ると言ってオルステッド様も居城に戻り目を光らせてくださっているようだ。意外と面倒見が良く義理堅い方なのかもしれない。




剣神流奇術『無影剣(むえいけん)』……ぶかぶかの外套とロングスカートで初動を極限まで隠しながら速さよりも挙動を少なくコンパクトに纏めた未完成の『無音の太刀』を放つ、初見では剣に手を伸ばした事すら気付くのは難しい。
水神流奇術『断投牙(だんとうが)』……盾でやる水神流の受け流し、本人が未熟である事と盾での受け流しなせいでカウンターに繋げられない弱点を持つ。飛び道具や低級魔術にはめっぽう強い。
北神流奇術『斬馬(ざんば)』……レオの背中に乗ってその上で構えを取った全力の横薙ぎ、パワー重視でありながらレオのおかげでスピードも回避能力もある。レオがいないと使えない上に背中の上で構えを取るせいで痛みで嫌な顔をされる。
水神流奇術『猪鼓(いのつづみ)』……剣士の飛ばす剣閃をシールドバッシュでやる打撃技、直撃しても殺傷力は無いので隙潰しや飛び道具対策にしか使えない。マトモに食らえば中級剣士は数分昏倒する。


どれも各流派の奥義や大技を使えた方が普通に強いけどまだ能力の足りないエディトが代用するための悪あがき、本人は皮肉を込めて奇術と呼んでいる。
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