武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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師匠との対面

私は現在、家の庭先で修行に勤しんでいる。相手をしてくださるのはノトス家の座敷童ウィ・ター殿。

そう、私は今…本物の座敷童に剣の手解きを受けているのである。

彼は前回の戦いで父様達と争った末に生き残りアリエル陛下の軍門に降った北神流の達人だ。

 

エリス母様の師であり私に北神流の知識を授けてくれた天狗のオーベール殿の兄弟弟子にして現在の奇抜派筆頭の彼は、様々な縁から討ち死にしたオーベール殿の代わりに北神流の指導を引き継いだ。

父様とオルステッド様がアスラ王国と父様が魔術で建てた龍神神社とを転移魔法陣を繋げた事で今ようやっと顔合わせが叶ったのである。

 

「踏み込みが浅いぞエディト!盾を持つ手に意識を割きすぎで攻めと守りのメリハリができておらん!」

「…っはい!」

「今度は足が止まっている!剣を流し切れん相手に無闇に構えを取れば地力で押し切られるぞ!常に戦況を転がして実力勝負に持ち込ませるな!」

「はい!分かりました!」

 

剣神流と水神流はどちらも術理の完成された奥義を修め、それに沿った戦法と己の力量を押し付けるもの。未だ幼く肉体そのものが未熟な私はその土俵で勝つ事は叶わない。

それ故にウィ・ター殿の指導は大きな糧となる確信がある。王級剣士の力量を持ちながら私と大差ない背格好、敵に奥義を使わせない体術と立ち回り、すぐさま実となるものが多く技量も勿論戦士としての練度と経験値を惜しみなく私に見せてくださるのだ。

 

右から袈裟懸けに降ろされる剣を盾で受け、丸みで滑らせる様に弾き飛ばそうとしたがアッサリと持ち手を離して左手で掴み直し、空いた右腕で鞘を半ば投げ飛ばす様に引き抜き最短距離で喉元に突き付けられる。まずは一本だ。

ウィ・ター殿はそのまま喉元にやった鞘で額をぱこんと叩いてから腰に戻して距離を取り、仕切り直す。

 

低姿勢で前のめりに突撃して抜刀と同時に斬り上げて来たところを『腕落とし』で潰しにかかるが…斬り上げる勢いと剣の重みを利用し私の剣が届く二歩前で急停止と同時に回転、回りながら利き足で砂を蹴り目潰ししてくる。

咄嗟に『断投牙』で石礫に等しい砂を防いだものの前に突き出した盾を左腕ごと弾き飛ばされる。防御に回そうとした右腕を空いた腕で抑えられ、盾を弾き飛ばした剣をそのまま振り落ろして肩で寸止めし、峰で小突いてから仕切り直される。早くも二本。

 

私は一度剣を鞘に納刀し、その瞬間を狙って仕掛けようとしたウィ・ター殿を渾身の『猪鼓』で迎え撃つ。しかし足を緩める事すらなく遠当てを拳で撃ち落として剣を引き抜き投げ付けてくる。

なんとか盾で受け流して丸腰で突っ込んで来るウィ・ター殿を『無影剣』で斬ろうとするが、抜刀の動きに合わせて柄を踏んで私の体勢を崩した勢いのままもう片方の足で蹴り上げて顎に爪先を当てて寸止めされる。三本…当然だが完敗だ。

 

「よし、今日はここまで!休憩を挟んでから帰る様に!」

「は…っ、はっ…!…ありがとうございました!」

 

完全武装だった私に対してウィ・ター殿は薄着のまま剣一本と体術だけで私を圧倒した。ギレーヌを追い詰めた鎧も投げ物や予備武器も一切なし、元々自分より大柄な相手とばかり戦って来た上でこれだ。

私より少ない武装で私の土俵の戦法で完全に上回られた事実に圧倒される。

 

「己の背丈の半分ほどしかないウィ・ター殿が目潰しを交えながら…ギレーヌもさぞ苦心したでしょうね…」

「逆を言えばあれほど強みを活かせたのに最後まで仕留め切れなかったのだ、やはり剣王の力は凄まじい。

そんな私とは裏腹にオーベールやナックルガードは悉く己の強みを潰されておったな…『泥沼』と『無言のフィッツ』、彼ら…いや、フィッツ殿は女性だったか?あれほどの実力と引き出しを持った無詠唱魔術師が相手では絶対的な奥義の無い北神流は大いに苦しむ事となるだろう。

剣士も魔術師の対策を練らねばならん時代か…」

 

ウィ・ター殿は疲れ果てたような、それでいて楽しそうな顔で愚痴をこぼす。父様達は魔術師の歴史を大きく塗り替えるであろう麒麟児達だ、多彩さが強みの北神流にとっては厄介な追い上げに見えるだろうが…逆を言えば一番父様達の魔術と張り合えるのも北神流なのである。

 

「アリエル陛下は前の戦いで壊れた鎧を作り直してくださるそうだ。鎧を脱いだ時の戦法にも見合った武装を模索せねばな…奇抜派はまだまだ強くなるぞ、エディトよ。」

 

それは自信と使命感に満ち溢れた…派閥を率いる者の言葉だった。

こんなに良い座敷童が居着いて忠誠を誓うのだからノトス本家の大叔父様達も言われてるほど悪い人では無いのだろう。

 

「うむ、良い面構えだ。

お前は盾使いでありながら安い材木の盾を都度都度壊しながら戦っていると聞く、私が使っていた盾を譲ろう。」

「愛用の盾を!?良いのですか…?」

「元々私が盾を使うのは鎧を着た時だけだ、鎧と共に盾も新調されるという事だからどうせならお前が使ってやってくれ。

己の軸となる武器は実力に見合った良い物を使うべきだからな。」

「ウィ・ター殿…ありがとうございます!」

 

私は帰っていくウィ・ター殿を何度もお礼を言いながら見送り、汗を洗い流してから夕方からの家事に参加するべき家に戻る。

 

「えーでー、おわった…?」

「わ、わっ!ルーシー様、ずっと待っていたんですか!?」

 

玄関のすぐそばで不機嫌そうに頬を膨らませたルーシー様が待ち構えていた。

もうじき三つになるルーシー様は足腰もしっかりし始め、家中を元気に走り回っている。今日も自分で玄関のドアを開けて修行風景を眺めていたのだろう。

(一人だけ知らない人と外で遊んでるように見えたのかも知れない…)

 

「エディトー晩御飯は私達で作っておくからルーシーちゃんと遊んであげてー」

「申し訳ありませんアイシャさん、お願いします!」

 

アイシャさんにはいつも助けてもらってばかりだな…と申し訳なく思いながらルーシー様の機嫌を取り戻そうと苦心するが、中々笑顔を見せてくれない。

どうしたものかと頭を悩ませているとルーシー様は私の袖をギュッと掴んで心配そうな顔をしていた。

 

「えーでー、いたいいたいじゃないの…?」

 

違った…不機嫌だったのではなく、修行で叩かれている私を心配していたのだ、ルーシー様にも見える場所で修行をすると怖がらせてしまうかも知れない。

 

「痛くないですよルーシー様、ありがとうございます。」

 

私はルーシー様が安心できる様に肩車をしながら、今度会いに来てくれるギレーヌが怖がられない様に頭を悩ませる事となった。




やってる事はめちゃくちゃ健全な修行なのにルーシー視点だと自分達より年上のガキ大将がお姉ちゃんをボコボコにしてる図にしか見えないという…
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