武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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姉としての自覚

三女ララが産まれてからはや幾月、我が家の雰囲気は色々と変化を見せ始めていた。

ルーシーは初めて妹が出来た事とシルフィ母様の教育のおかげで目に見えて急成長し、人間語も会話ならほとんど話せるようになり、じきに読み書きや魔術の習得にも取り掛かるらしい。

長女の私が御家を背負えず魔術まで使えないので彼女にかけられる負担は随分と重い物になってしまうかと思ったが、何かと慌しい家族を見て育ったルーシーにとって分かりやすく取り組める事ができたのはむしろ嬉しかったようだ。

 

ララと時期を同じくしてクリフ殿の奥方も出産し、めでたく男子のクライブ殿が産まれた。長命のエルフである奥方のエリナリーゼ殿は子を授かりにくいので1人目で跡継ぎが産まれた事はとても運が良いらしく、その幸せそうな姿は今でもよく覚えている。

 

一方で、そんなエリナリーゼ殿の話を聞いたエリス母様はロキシー母様の出産と入れ替わるように父様と睦み合うようになり、自分が跡継ぎを産むのだと意気込み出した。

エルフの混血であるシルフィ母様と長命の魔族であるロキシー母様は、どちらも子を授かりにくく身体も細い。当然子を産む際にも苦労をするので多くの子は望めない。

これまでに産まれた三人の子供が全員女子だった事も考えれば避けてはいられない話ではある、身体も頑丈で子を授かりやすいエリス母様が張り切るのも分かる、だからと言ってお二人の前で堂々と『自分が跡継ぎを産む』などと言って良いのだろうか…

 

そう不安に思っていたのだがどうやら二人とも異論はないらしく、意外にも中々二人目を授かれないエリス母様の相談にもよく付き合っていた。

確かに父様の立場を考えれば跡継ぎは純粋な人族であり血筋も確かなエリス母様が産んだ方が角は立たない、それぞれ役割も気質も大きく違う母様方は意外と上下関係や競争もなく支え合えているのだ。

因みに不妊の原因はエリス母様が身体を酷使し過ぎていたせいだとか、エリス母様が『エディトの時は普通に産まれたから分からなかったわ!』と恐ろしい事を懐かしそうに語った時ほど自分のしぶとさに感謝した時はないだろう。

 

そんなエリス母様も周りの忠告を受け入れて家で大人しくするようになり、無事に二人目を身籠る事となった。

父様の仕事も落ち着きオルステッド様への挨拶もつつがなく済んでララも産まれた、エリス母様も二人目の懐妊で仕事を休むようになり、慌しかった我が家にも漸く暇のようなものが出来る。

それを知ってか知らずかアスラ王国から一通の手紙が届いたのが一昨日の事、手紙の内容はアスラのアリエル陛下からの招待状であり、父様とシルフィ母様がアスラでの知人達への挨拶回りを行う事となった。

アリエル陛下は父様と同じくオルステッド様の配下、シルフィ母様が護衛を辞した後も我が家と深い交流があると示す事はどちらにとっても大切な事…この前の一件でもシルフィ母様はアリエル陛下に別れを告げそびれていた、この機会に会いに行ったほうがいいとは父様の言である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだああああぁぁぁぁ!いってらっしゃいいや!パーパだけいってきますして!!」

「ルーシー、そんな言い方をしては「いってきますしないの!ルーシーとおべんきょうするの!!マーマといっしょにいるの!!」

「どうしようルディ、ルーシーがこんなにごねるなんて思ってなかったよ…」

「パパは…?ルーシー、パパも…パパもいっちゃ嫌だよな…?」

 

───そして現在、旅支度を済ませ玄関に集まった父様達は予想だにしない足止めに遭っていた。いつも通りに見送りに来ていたはずのルーシーが、シルフィ母様が玄関側に立った途端に大泣きを始めてしまったのである。

 

シルフィ母様が家に居着くようになりだした頃、ちょうどその頃からルーシーは物心がつき始め、そんなルーシーの遊び相手と言えばもっぱらシルフィ母様だったのだ。

彼女が護衛の仕事に専念していた頃からこの家はアイシャさんとリーリャさんの二人で問題なく回せており、私とシルフィ母様まで参加しても手が余ってしまう事が多い。どうせ手が余るならと言う事で私達は優先的に仕事を受け持ち、シルフィ母様がルーシーと一緒にいられる時間をできるだけ増やすように心掛けてきた。

 

家族でお見送りをした後の父様は中々帰ってこない、ルーシーなりにそれを理解したからこそシルフィ母様が『お見送りされる側』にいた事でこれまでにないほどの大泣きをしてしまったのだ。

それにしても一人だけ引き留めるどころか行ってこいと突き放されてしまった父様が余りにも気の毒だ、半泣き半笑いになりながらルーシーをあやす姿はお労しくてとても直視できそうにない。

それにこのままではシルフィ母様が家に残りかねない、護衛のために家を空けていた事を負い目に感じていた彼女の事だ、ルーシーが泣き続ければ最後には自分を後回しにしてまうだろう…

 

「…父様、父様、エディトはお土産にアスラの御伽草子が欲しいです。よろしいでしょうか…?」

「後生だよルーシーたん……えっ、土産?いいけど急にどうしたんだ?」

「ありがとうございます父様!ほら、ルーシーは何になさいますか?」

「おみあげ…?」

「そう、お土産です!お菓子になさいますか?それともお人形さんですか?」

 

急に欲しいものを聞かれたルーシーが混乱している内に父様達に目で意図を伝える、父様が良くやっているういんくと言う合図らしい。

 

「そ、そうだねルーシー!何が欲しい?」

「えっと、えっとね、おにんぎょうしゃん!」

「分かった、じゃあいい子にお留守番しててねルーシー!」

「えっ?」

「パパ達もなるべくすぐ帰って来るからなー!」

 

土産の意味も分からぬまま話が進んでいく内に混乱するルーシーを剥がし、申し訳なさそうにきょとんとした顔を一瞥してから父様達は出かけて行ってしまった。

 

「パーパ?マーマ…?」

 

バタン、と玄関の戸が閉められた所で漸くルーシーは状況を理解し、呆然とした顔で立ち尽くす事になる。

ルーシーがもう少し大きければ話し合って納得もしてもらえただろうが今はどうしようもない、この子は出て行ってほしくなくて泣いているのだから、出かけねばならない父様達は早々に行ってしまう方が良いのだ。

───まあ、こう言うやり方をしてしまうと…

 

「うあああぁぁぁぁん!!!やだあぁぁぁぁ!!!やぁだ!いや!!うぶぇ、うぇぇぇぇぇえええん!!!」

 

当然こうなるのだが。

ルーシーは地団駄を踏んで扉をバンバンと叩いた後、取手に手が届かない事に拗ねて床に突っ伏しながら泣き出した。

うつ伏せでは声も出し辛いだろうに、じたばたと暴れながら大泣きし続けている。変な所で器用な事をする子だ…

 

私もルーシーの気持ちは分かるつもりだ、留守番は寂しいし、とても不安になる。いて当然だと思っていたお母様が何日もいなくなるのだから泣いて嫌がるのも仕方のない事だろう。

今世での私も、乳飲み子の頃にギレーヌが用事で居なくなって大泣きをした事がある、漸く生まれ変わった身体や奇天烈な見た目のエリス母様達に慣れた矢先だった。

もぞもぞと這うことしか出来ぬ身で床に伏せている事実が、どうしようもなく前世と重なってしまったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『か……っぐ…じい、や、どうして………』

『貴方様が身罷られれば…養子を迎える事が出来るのです、跡継ぎを迎え、御家を守れるのです…!私を、どうか私だけを恨んでくださいませ…!若様……っ』

 

 

 

 

 

 

 

 

「恨めと言うのなら、あのまま締め殺してくれれば良かったと言うのに…」

「エディトー、聞いてるエディト?」

「っ、アイシャさん?…すみません、少し呆けておりました。」

「びぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

「お、落ち着きなさいルーシー!」

「やあだあぁぁぁぁぁ!!!」

「この状況で…?こうなったらあたしじゃどうしようもないから…ルーシーちゃんの方はお願いするね?」

「そうですね…エリス母様もダメみたいですし。」

 

因みにではあるがシルフィ母様の次にルーシーの遊び相手を任されるのが私だ、ロキシー母様はララにかかりきりで、エリス母様も幼子相手では泣き出された時にダメになってしまう。今も大泣きするルーシーの周りを忙しなく歩き回って途方に暮れている。

こうなったルーシーを宥められるのは私とゼニスお婆様だけだろう、私は不器用な母様に少し苦笑してからルーシーを抱きしめた。

 

「えーでぇ…ひっ、ぐす…マーマが…うあぁぁぁぁぁん」

「大丈夫、大丈夫ですよルーシー。二人ともすぐに帰ってきますからねー」

 

ルーシーは私のお腹に顔を埋めてこの世の終わりのように泣き続ける。

少し不味いな…このままではルーシーが留守番を嫌いになってしまう。

気持ちは理解できるし、自然な事だろう。親が家を空けて悲しくない子供などいない、外との繋がりの無いルーシーにとっては尚更そうだ。

だが、ルーシーは私とは違う。あと幾年も経てば外に飛び出して遊び、師や友人、許婚との繋がりを持てるようになるはずだ。その時に留守番嫌いが高じて外を怖がるようにはなって欲しくない。

 

「ルーシー、ルーシー、お庭に行ってみましょうか。」

「ずびっ…おにわ?」

「そうです、お婆様と一緒に庭のお手入れをするのです。ルーシーも手伝ってくれませんか?」

「うん…分かった。」

「ありがとう、良い子ですよルーシー。ほら、エリス母様も手伝ってください。」

「わ…分かったわ!」

 

これからも父様達が家を空ける機会は増え続けるはずだ。

そんな時、私はルーシー達の遊び相手になろう、家事の手伝いや修行は少し疎かになってしまうが仕方ない。

前世の私には、母以外に側に居てくれる人はいなかった、爺やの一件で父と母以外が私と同じ部屋に居る事を禁じられていたから。

下の子達には同じような思いはさせたくない。

 

「えーでー?」

「どうしたのよエディト?」

「…いえ、なんでもありませんよ。」

 

やっと自覚の芽生えた私は、無性に嬉しくなってルーシーとエリス母様のお腹を撫でていた、後でララの顔も見に行こう。

父様達がいない間でも、色んな楽しい事があるのだと教えてあげよう。

父様達以外にも、色んな人が周りにいてくれているのだと教えてあげよう。私はもう、この子達の姉なのだから。




悩みに悩んだ末エディト君ちゃんが将来的に結婚すると決まったので今回から精神的BLタグをつけるようにしました。
まだまだ先の事だけど見切り発車で書いてるから後出しみたいになる前に早めにつけておこうと思います。
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