武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
少し今世での私の母様の話をしよう。
名前は『エリス・グレイラット』
既に齢19にもなる彼女を一言で表すなら魔獣である。
野蛮なまつろわぬ民の剣士である以上仕方ないとは言え不器用で乱暴なギレーヌより更に輪をかけて乱暴な人で、ニナ様とイゾルテ様に身嗜みを注意されるまでは女とは思えぬ獣臭を漂わせ私やギレーヌ以外とはマトモに話も成立しなかったほどだ。
しかしそんな生き様とは裏腹にかつては『ボレアス・グレイラット』というフィットア領を支配する名家直流の娘であったらしく、2つ歳下の父様との馴れ初めも傍流の家系に産まれた彼を護衛兼師匠として彼女らの父様方(私にとっては今世のお爺様方)が宛てがったのがきっかけらしい。
奉公に出された頃の父は7つにして水聖級魔術師であり小さな国(精々幾つかの部落村の集まりだろうが)ならば抱え込んで指南役にするほどの達人、そんな彼を直流とは言え女に読み書きと魔術を教えるために呼びつけあまつさえ同僚のギレーヌの指南までさせる扱いと言えばどれほど強大な家だったのか分かるだろう。
当時ギレーヌ以外の指南役の教えを何一つ聞かず手を上げればそれ以上の報復で返して匙を投げられていた母様を前に、父様は決してやり返す事なく言葉と実演で納得させて読み書きと算術と初歩的な魔術(あと何故か踊り)を伝授したようだ。
基本的には生家に送られ手持ちに残る給金も少ない中で魔術の会得を祝って自作の杖を送るほどの弟子想いでもあった父様は母の生家でも認められ、十になる日(まつろわぬ民の七五三のようなもの)には彼の生家に代わってボレアス・グレイラット家総出で祝い特注の杖を下賜するまでになった。
奉公に出された当初に乱暴な母様に手を焼かされてギレーヌを頼った一度以外は泣いた事のなかった父様もその日は涙を堪え切れないほど喜んだそうな。
そんな父様を哀れに思ったお爺様方は彼を入婿に迎える事を決め母様を閨に送り、2人はその場で5年後の父様の元服の日に結ばれる約束をした。
しかし幸せは長く続かなかった。
ある日父様の奥義である『豪雷積層雲』を実演するために町外れの丘に出かけていた(空いっぱいに雷雲を呼び出し大水害を起こす魔術である為町中では使えない)父様と母様とギレーヌの3人。
そこで悍ましい色をした空から光が降り注いだ次の瞬間、父様と母様は魔大陸という此処以上に過酷な魔境に飛ばされていた。
転移災害という母様達の生まれ故郷のフィットア領を丸ごと消し飛ばした大天災である。
其処で二人はルイジェルド・スペルディアというスペルド族の戦士に命を救われ、魔神ラプラスと並んで緑髪の悪名の元となり悪魔や怪物と呼ばれるスペルド族の真実を聞いた。
父様は呪われ操られた末に被せられた汚名に負けず自分達を救ってくれたルイジェルド殿に胸を打たれ母様をフィットア領に送り返す道中でスペルド族の汚名を雪ぐと誓い、衝突しながらも絆を深めた3人は『デッドエンド』という一団として魔大陸に名を馳せた。(父様が魔眼を貰ったのもこの時である)
1年と少しの長旅の末にミリスと言う国に辿り着いた父様は7つの時に奉公に出されたきりの父方のお爺様に再会したが、お爺様は転移災害の規模を知らなかった父様を生まれの家族を後回しにして母様に現を抜かした薄情者として酷く叱責した。(自分で奉公に出しておいて勝手極まりない人だ)
そうして深く傷ついた父様を一晩寄り添って慰めた時(元服までの誓いを破らなかった二人を心底尊敬する)、守られるがままだった母様の中に変化が生まれたという。
立ち直りお爺様と和解した父様は貰った路銀で海を渡り、其処で転移災害に便乗して人を攫っていた下衆からお爺様の妾とその娘を救い出した。
転移災害から3年が経ち母様が元服したのもこの頃であり、此処で3人は龍神オルステッドという強大な武人と遭遇する。
その男は父様と一つか二つほど言葉を交わした後いきなり襲いかかり、3人を完膚なきまでに叩きのめした。
ギレーヌ以上の戦士であったというルイジェルド殿と父様を打ち倒し当時ルイジェルド殿から剣聖と同等とお墨付きを受けていた母様を一蹴、オルステッドに手傷を負わせたのは父様ただ一人だったという。
オルステッドに胸を貫かれるも一命をとり留めた父様はめげることなくフィットア領へ向かい、その道すがらもオルステッドの使っていた技を己の物にして二度と負けぬよう研鑽を重ねていた。
歳下でありながら自分を守る為に励む父様の姿を見て母様は酷い無力感に苛まれたという。
フィットア領に辿り着き3年の旅路を共にしたルイジェルド殿と別れたのはそんな惨事のすぐ後の事だった。
寂しさを堪え帰郷した二人に待っていたのは荒れ果てたフィットア領と母様以外の家族が死に絶え取り潰しになったボレアス・グレイラット家だった。(此処で別の国に飛ばされたギレーヌと合流した)
お爺様とお婆様は転移先で殺され当主であった曾祖父様は災害に託けて御家争いを持ち掛けた外道共の謀で斬首、母様はフィットア領復興を条件に当主の座を奪った首謀者の妾になれと迫られた。
全てを失った夜、母様は元服までの誓いを破り心の穴を埋めるように父様と夫婦の契りを交わした。(私を身籠った日の事とはいえ3つの子供に聞かせる話ではない)
其処で母様は3年もの間誓いを守っていた父様の育ちきっていない身体を抱き潰した(女に抱き潰される方もどうかと思うが母様が相手なら責められない)自分を大いに恥じ、女の命である髪とボレアス・グレイラットの家名を捨てて共に龍神オルステッドと戦う力を手に入れるべく修業の旅に出た。
『どんなに強そうに見える人にも弱い所はあるわ。守ってもらうばかりなのを変えたくて旅に出て、エディトには寂しい思いをさせているわね…不甲斐ないお母様でごめんなさい。』
無口な彼女が唯一饒舌に語る2人の馴れ初めはいつも決まってこの言葉で締め括られる。
母様は魔獣だ。不器用で乱暴で言葉より先に手が出る恐ろしい人だ。
しかし、私はそんな母を心から尊敬している。
女の立場にも産まれ持った身分にも甘えず愛すると誓った男の為に全てを捨てて力を求める強さと覚悟に私は憧れている。
「かあさま、ふたりでつよくなってとうさまをむかえにいきましょう。」
「あなたは強い子ねエディト…流石は私達の娘よ。」
私は母様と2人、今日もまだ見ぬ父への誓いを立てる。
というわけでエディト君ちゃん視点のエリスとルーデウスでした。
情報源がエリスとギレーヌなのでだいぶ美化されている上に食い違いが激しい。
せっかく呪いが効かないのにエディト君ちゃんから見たオルステッド像が最悪すぎる。