武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記 作:斑模様のキャットフィッシュ
なろう版を読み返してる内に新作のオーク英雄の方にハマってしまい更新が遅くなってしまいました。
久しぶりの投稿であれなんですが、今回はエディト君ちゃんの面倒臭いところがかなり強めに出ています。
獣族…その中でも『ドルディア』の名を持つ二つの主家は獣族のみならずミリス大陸の右半分を占める大森林全体の盟主として知られ、有事の総大将を任される存在である。
その歴史は長く数千年前という太古の大戦の後、戦勝の勢いに乗って進軍する人族を跳ね除けた獣神ギーガーの伝説にまで遡る。
そう、かのアスラの建国王である勇者アルスが打倒した魔界大帝を始め、恐らく鎧を着た父様や三大流派の当主の方々のような武神に匹敵し得る五大魔王が率いる魔族軍に勝利した人族の侵攻を。
正直とても気になる、ララが大きくなったら聞かせてもらおう。
心身共に屈強であり鋭利な五感による森中でも統率の取れた遊撃戦の強さは圧倒的で、アスラ王国と肩を並べる大国ミリスとも相互不可侵の形を取れるほどの戦力を有した狩猟民族である。
その戦闘力と好戦的な気性に反して大森林以外の支配地を持たず他所への戦を起こさない理由こそが我が家の三女ララであり、守護魔獣のレオなのだ。
厄災から世界を救うとされる救世主とそれに付き従う聖獣。
獣族は大森林の奥地にて聖獣が産まれるという御神木を守り、長い年月をかけて成長する聖獣を救世主と共に送り出す事を使命としている。
大樹に覆われ、畑も家畜も満足に持てず、雨季と呼ばれる季節には自慢の五感も活かせず魔獣に囲まれた樹上でしか暮らせない程に雨の降る地で、何千年もの間先祖代々守り継いだ土地と御神木を守り続ける誇り高い一族が獣族なのだ。
聖獣レオの主人であるララの父とは言え無断でレオを召喚し便りの一つも出さなかった父様が謝罪と報告に向かうのは当然である。
せっかくの休日だったと言うのに帰宅早々出掛けてしまわれるのは寂しいがそこには納得していたが………
「父様。」
「…うん。」
「捨てて来てください。」
「…うん、気持ちはよく分かるぞエディト。」
「ボスまで酷いの!親子揃ってあんまりなの!」
失望していた。
もうなんというか本当に、本当に私は失望しているのだ。
「リニアーナはまだ仕方ない所もありますが…この犬畜生はダメでしょう、ウチでは引き取れません。」
「うわ…初対面で名前すら呼んでもらえてねーニャ。
流石のあちしも同情するニャ…」
プルセナと名乗る目の前の犬畜生はリニアーナと対をなすアドルディアの姫にして『六魔練』の一人、プルセナ・アドルディアである…のだが…
そんな立派な名で呼ぶ価値は無いだろう、保存食か襲って来た魔獣くらいしか食べられるもののない雨季に食糧庫を荒らす輩には。
父様にいもしない犯人探しの無駄手間を取らせ、その父様の温情につけ込んで牢屋から抜け出しシャリーアにまでついて来た図太さには眩暈すら覚える。
「傭兵団は立ち上げたばかりなのです、刑期も終えていない盗人なぞを入れれば信用は他に落ちてしまいます。
団員の食い扶持もかかっている話では父様の頼みでも聞けません。」
そう、幾らなんでもダメなのだ、本来なら投獄でも済まない。
雨季は厳冬期に相当する危険な時期、そんな時期に食糧庫を荒らすような輩は馬に繋いで引き回した後に犬にでも食わせてしまえと菩薩のようだった前世の母が鬼の形相で念押す重罪なのだ。
飢饉でどうしようもなかったのなら酌量もできよう、それまでの働きと族長の血筋を考えれば投獄で済むのもまだ分かる。
だが次期戦士長としての箔付けに仕事を任され食糧庫の警備に就きながら、負傷した相方を言いくるめて離席させた隙に事に及んだとあれば…どう譲っても傭兵団に席を持てる来歴ではなかった。
「あの日は本当にお腹が空いてたの…仕方がなかったの…!」
「…融通の効かない掟のせいで食事を取れなかったのは気の毒だったと思っています。いますが……」
気持ちは分かるのだ、腹が減ってはまともに頭が働かぬ事もあろう。
ひもじさの余り裏切りに手を染めてしまっても心根まで責めるべきではない。
「…どうして盗みを働く前に一言頼めなかったのですか。
どうして、それほど腹が減っていたのに仕事に名乗り出てしまったんです…
腹が減っていたにしても、盗むにしても、やり方というものがあるでしょう…?」
「分かってるの…私だって本当に反省してるの……」
…ならば大人しく牢屋に戻って欲しい。
言っている私まで悲しくなってくる、せめて村で信用を取り戻してから来てくれないと、雇う側としては断るしかない。
事件を起こすまでは本当に、本当に真摯に働いていたらしいのだ、こうして殺されずに済んでいるのだから疑う余地も無い。
大学で学び、父様に師事し、リニアーナを打ち倒した力で惜しみなく仲間に手を差し伸べていたのだろう。
ほんのもう少し誠実であってくれたなら、私が団員達に頭を下げても良かったのだ。
「…どうして自分がやっていないなどと、誰かに罪を擦りつけるような事を言ったのですか…」
「………………」
不毛だ…誰も幸せにならない問答が堂々巡りになっている。
「いっその事父様の紹介でボレアス本家に送りつけては?
父様が釘を刺せば無体もされないでしょうし向こうで奴隷にされた方達の扱いも良くなるでしょう。」
「…エリスを見たら分かるだろ?脅して引き離すならまだしも、屋敷の中に入れたらすぐに手を出されておめでたの手紙が飛んでくるぞ。」
我慢できないのか…できないだろうな、母様も毎日リニアーナを閨に連れ込んでいるし、ボレアスの血筋は獣族が絡むと駄目なのだろう。
流石にそこまでの目には遭わせるのは可哀想だ。
「助けて欲しいのボス!このままだと本当に何処かに売り飛ばされてファックされちゃうの!」
「子供の前でファックとか言うなバカ!」
プルセナが胸を押し付けるようにして父様に抱き縋るが、よほど不味い事を言ったのか鼻の下すら伸ばさなかった父様に一蹴された。
だが、良くも悪くもこうやって泣きつかれればその内折れてしまうのが父様で、心底疲れ果てた顔で私に向き直る。
「なぁ、エディト、どうしてプルセナはダメなんだ?
リニアも同じくらいダメ人間だし、プルセナはまだウチの物を何も壊してないじゃないか。」
「そもそも駄目な人間を拾ってきて欲しくないのですが…
プルセナはお勤めの終わっていない盗人です、団員が不満に思いますし、父様の醜聞になります。」
「そこはパパが頭を下げるよ…悪い噂が立つのも今更だし、俺のわがままでエディトが無理に悩まなくていいんだぞ。」
「わがままですか…」
…そう言われると私はとても弱ってしまう。
私自身が父様の威光のお陰で大手を振って娘を名乗れている立場、父様のわがままは私の命よりも重たい。
父様が全てを背負う覚悟なら、それがどんなわがままであれ、私だけはそれに味方をするべきなのだ。
プルセナは父様の御友人であり教え子の一人、醜聞に繋がってでも挽回の機会を与えたいのだろう。
だが、私はリニアーナのように止むをえぬ事情でも切迫した立場でもないプルセナを、父様がそうまでして庇うのが嫌だった。
父様の負担を減らすためにルード傭兵団で働き始めたというのに、私の力では団員達に彼女の一件を納得させられない事が嫌だった。
父様が泥を被ってまで御友人を救おうという時に、手が届く筈の場所でわがままの一助になれない事が嫌だった。
ついでに本音を言うとこれ以上妹達の教育に悪そうな人間が家に入り浸るのも嫌だ、アイシャ姉様も嫌そうな顔をするし。
全ては私のわがままで、誰の力にも助けにも繋がらない身勝手な不満であった。
今の私にはプルセナに迷いなく手を伸ばす度量も、父様が被る泥を減らす力も、その決定に口を挟む資格も無い。
「…承知致しました、父様。
御友人を…プルセナを悪く言ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「そこは俺じゃなくてプルセナ本人に…いや、そもそも謝らなくて良いぞエディト、こいつどう見ても反省が足りないし。
というか傭兵団の事は気にせずやりたいようにやって良いんだぞ?小さい内から働き詰めになんて不健全だからな。」
…父様がそれを言うのは色々矛盾している気がします。
「リニアーナも、相方を悪く言ってすみません。」
「全部ホントの事だし別に気にしてねーニャ、というかそうじゃなくてもエディトは色々気にしすぎニャ。
つべこべ言ってくる奴はあちしがぶん殴ってやるから、ボスもエディトも頭なんか下げる必要ないニャ。」
散々な言われように抗議するプルセナを無視しながら二人は私を気にかけてくれる。
プルセナを引き取る一件で私は力になれない、ならば一日も早く彼女が認めてもらえるよう傭兵団の実績を増やしていこう。
あと、これ以上盗み食いをさせぬようこまめな餌付けも心掛ける。
「これからよろしくお願いしますプルセナ。
ちゃんとお腹を空かせないように手は回しますから、ギュエス殿に許していただけるよう頑張って行きましょうね。」
「優しさが染みるの…これからお願いしますなの…」
「そう言えばエディト、こいつあちしが口利きして連れてきたから、あちしの下僕扱いでお願いするニャ!」
「リニアァー!!」
「ニャッハハハハハ!」
こうしてプルセナは奴隷のリニアーナの下僕としてルード傭兵団に引き取られる事となり、翌日以降私の懐には大量の干し肉が溜め込まれるようになった。
エディト的にはリニアよりもぶっちぎりでアウトラインを超えてるプルセナをルーデウスが頭下げて助ける事にはかなり不服を感じています。
ルーデウス以外の口利きなら少なくとも傭兵団入りは断るくらいには拒否反応が強いです。