武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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為せば成る

プルセナがシャリーアに引き取られて早数日、彼女はリニアーナを補佐として傭兵団の副所長の地位に就いた。

盗人で奴隷の下僕が上に立つ事に不満が出るかと危惧したが意外にも反発はなく、現場の護衛を務める団員も裏方で事務に務める団員も口を揃えて『いつかはやると思っていた』と言いながら受け入れていた。

……人間、ダメさも突き抜けると逆に人望となるものなのかも知れない。

 

「むぐ、もごっ…、エディト…詰めすぎなの…!」

「あぁ…はい…おかわりもありますよプルセナ…」

「もごぉぉぉ……たふけへ…ひにあぁ…」

 

私は今日も一日真面目に働いたプルセナを労わり、頭を撫でたり干し肉を与えたりしながら物思いにふけっていた。

リニアーナとプルセナの事である、父様が『二人は揃っていた方がいい』と言う言葉通りに、彼女らは二人で並ぶと一気に厄介さが跳ね上がるのだ。

一人ならば素手でも余裕を持って殴り伏せる事が出来るのに対し、二人相手では完全に武装を整えても苦戦をするほどに。

 

「首入ってる、首入ってるニャ、エディト。」

「おっと…すみませんプルセナ、少し考え事をしていました。」

 

体質ゆえに魔術の使えない私に対してリニアーナは火魔術、プルセナは治癒魔術を上級まで収めており魔法大学主席卒業の経歴持ちだ。

獣族としての優れた五感に加えて種族固有の吠魔術を操り、大森林の獣族主家それぞれの長女という地位の高さと求心力も併せ持つ、ハッキリ言って能力が高すぎる。

 

「泡吹いちまってるニャ…怪力もエリス様譲りかニャ。」

「締め落とした私が言うのもアレですけど、白目を剥いたまま食べ続ける食い意地は逆にもう怖いですね。」

 

このまま行けば間違いなく彼女達を持て余す事になるだろう。

二人は父様の家族という事で私達の言う事も聞くしそれなりに敬意は持っているが、全ては父様への忠誠心と言う前提ありきだ。

手綱を握り切れない相手の言う事を本気で聞いてくれるほど物分かりが良くは無い。

 

「私ももっと…強くならねばなりませんね!」

「冗談じゃないニャ!これ以上エリス様みたいなのが増えたらいつか本当に締め殺されちまうニャ!」

「こんな扱いあんまりなの!こんなのが続くなら実家に帰らせて欲しいの!」

 

うっかり締めてしまったのは申し訳ないが、叶うのなら本当に大森林に帰って欲しいのが本音である。

アイシャ姉様は二人を家の中に住ませなければそれで満足だから彼女達を持て余しても特に気にもしないだろう、そのまま彼女達の立場が宙ぶらりんなまま居続ければ…

目に浮かぶようだ、彼女達の名の下に獣族や荒くれ者が集まり、実力も礼儀作法も半端に身につけたごろつきに魔法都市シャリーアが占領される姿を。

 

(そんな事になれば父様が悲鳴を上げて街に寄り付かなくなってしまう。)

 

「獣族は本当に…扱いが単純なだけに逆に難しい…

獣族…獣…あれ、もしかして私にも…できるんじゃないですか?」 

「…?何か考え事ニャかエディト?」

「いえ、いや…はい、考え事をしていました。

リニアーナ、プルセナ、私に…吠魔術を教えてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後───

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴルルルルルォォオアァッッ!!!』

「ッ……!ビリって来たニャ…!」

「私達のとも…ボスのとも違うけど、本当にできてるの!」

 

 

 

「「なんで……?」」

 

 

 

結論から言えば、やはり私には吠魔術も習得することは叶わなかった。

父様が魔力と闘気はほぼ同じだと言っていた事から、闘気を操れる今なら肉体に寄った魔術であれば使えるのではないかと思ったのだが。

本当にどうしようもないのだろう、魔術として形を成す前に何かが霧散して成功しない、吠魔術ですらそうなら諦めるしかない。

 

「完璧に痺れさせる事はできませんが、代用にはなりますね。」

「いや意味わかんねーニャお前。」

「なんでそれができて普通の魔術が使えないの。」

「仕方ないでしょう。できないものはできないんですから。」

 

吠魔術の習得を諦めた私は、単純にその術理を真似る事に力を注いだ。

何度も何度も吠魔術をその身に受け、感じ、喉に意識的に闘気を纏わせる事で音の揺れや大きさを真似るようにしたのだ。

獣族達のように完全に体を痺れさせたり遠くの仲間との意思疎通はできないが、ほんの数瞬体を硬直させたり物に音を当てて場所を探り当てる事なら出来る。

ほとんど別物ではあるが間違いなく役に立つ物に成っただろう。

 

「…深く、考えすぎていたのかも知れませんね。」

 

確かに私はできない事だらけだが、それなら別にできる事を作れば良いのだ。

彼女達は街の傭兵集団が抱えるには大きすぎる力で、借金で身分を差し押さえられた奴隷と盗みで信頼を失った罪人だ。

しかし悪人では…悪い人では……うん…少なくとも、鬼畜ではない。

父様やシルフィ母様に見せる情も本物だし、ろくでなしならろくでなしなりに不足を助け合って行ける程度のダメさだ。

 

「なんだ、結局納得し切れていなかったのか、私は。」

「「何の事ニャ(なの)?」」

「いえ……父様達が二人を拾ってきて良かったと、今更になって思ったのです。」

 

不安は山ほどあるが、所詮はやろうと思えば解決できる程度の物ばかり。

本音のところで私は、彼女達を受け入れる程の器が無かったのだ。

父様が見捨てず居てくれたおかげで私はそれに気づき、納得する事が出来た。

甘い考えだし、損をすることの方が多い気もするが、少なくとも私は二人を好きになれそうな今を純粋に嬉しく思う。

 

(どうせ持て余すくらいなら、この二人と一緒にとことん傭兵団を大きくしてしまおう。

紛争まみれで奴隷市も無くならない北方大地を統一すれば、彼女達の…ひいては彼女達を支配する父様や龍神様の持つ兵団として格も釣り合うと言う物だ。)

 

以前父様への嫌がらせに刺客を送りつけて来た隣国の伯爵令息やそれを利用しトカゲの尻尾が如く令息を切り捨て伯爵家に泣き寝入りさせたミリス教導騎士団。

あのような手合いが二度と寄り付けないほどの勢力を、明確な統治者の居ないこの地に作り上げるのだ。

…目の前の二人に話したら調子に乗せてしまいそうだし、アイシャ姉様と龍神様に構想だけでも伝えておこう。

 

それから数日、私の吠魔術もどきは龍神様の案で『雷震』と名付けられ…主に我が家の失せ物探しに大活躍。

ウィ・ター師匠にも見せたところ奇抜派上級の認可を授かり、その日一日は『雷震』の術理と技のコツを根掘り葉掘り聞きまくられる事となった。




エディト君ちゃんの編み出した『雷震』(らいしん)は、吠魔術の音を闘気でゴリ押しで真似た結果クジラのエコーロケーションみたいな代物に仕上がった謎技です。
スタン効果はルーデウスの未完成吠魔術とほぼ同等ですが剣士でもセンスがあって訓練を積めば使えそうなのでウィ・ターは大はしゃぎです。
あと、ルード傭兵団が将来鬼神帝国として達成する北方大地の統一を現段階で視野に入れています。
エディト君ちゃんの当座の大目標はこれに向けての暗躍です。
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