武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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エディト君ちゃん江戸時代のボンボンなだけあってナチュラルに男尊女卑だし上下関係や差別意識に関してはドライなんですよね…悪気はないんだけど結構冷たく映るかもです。


いざ決戦

「……汝の求める所に大いなる炎の加護あらん、勇猛なる灯火の熱さを、今ここに『火球』」

 

 

────やはり何も起きない、ギレーヌは父様に師事すれば解決すると言っていたが恐らく私に魔術の才は無いのだろう。簡単なものを使うだけで小間使いの数刻分の働きを果たす魔術が身に付けられないのは非常に口惜しい事である。

だが鍛錬自体は無駄ではない、ギレーヌ曰く魔眼で見える魔力量自体は増えているそうだし詠唱のおかげで舌の回りも随分と良くなった。

読み書きも最低限買い物に困らぬ程度には身に付いた事だし慣れないながらも教えてくれたギレーヌには感謝してもし足りない。

剣の鍛錬も北神流の才こそ無かったものの小気味良く伸びて剣神流と水神流両方で初級の認可を与えられた、中級にもなれば一端の剣士と同等の実力だと言うのだから剣才に関しては母様譲りの天稟と言えるだろう。

 

そして母様もニナ様との最後の試合を乗り越えて剣王の認可を受けた、ついに生まれ育った剣の聖地から旅立って父様を迎えに行けるのである。

父様が住むというシャリーアは此処より一月程の場所でそれなりの長旅だ、馬を用立てに行ったギレーヌを見送り母様と並んで旅装を整えた。

元々母様に剣神流との戦い方を教えるために呼ばれた水神様とその孫イゾルテ様も同時に剣の聖地を立つらしく、途中までは旅の道連れになるのだとか。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、エディト、本当におかしくないかしら?」

「大丈夫ですよ母様、どこから見ても立派な剣神流の高弟です。」

「何回同じ事聞くのよエリス、エディトも疲れてきてるじゃない。」

 

そうニナ様が割り込んでくれたのを幸いに数歩下がってため息をつく、何度も何度も聞かされたが本音を言えばあんな素足の覗くような下品な格好は数年ぶりに夫と会う格好では決してない。(まつろわぬ民、特に剣神流にとってはごく自然な格好だが。)

父様に会えるからと浮き足立つ母様の相手に疲れた私は何やら口論を始めたニナ様と母様を遠巻きにしてギレーヌを待つ。

 

(3人寄れば姦しいとは言うがたった2人でも女は十分に騒がしいようだ…あっ、また母様が殴った。)

 

そうこうしている内に馬を引き連れたギレーヌが水神様とイゾルテ様を伴って戻ってきた。

 

 

「待たせたな、また喧嘩か?」

「ニナが悪いのよ。」

 

「やれやれ、ガルの坊やは見送りにも来ないのかね」

 

 

そう、剣神様はこの場にいない。

別れの挨拶をしたかったが昨晩にかなりの酒を召されたせいで大いに二日酔いに苦しんでいる、今会いに行っても不況を買って斬り捨てられるだけだろう。

そうして母様とニナ様、イゾルテ様の3人で別れを惜しんで語らい合う。ニナ様と私は既に別れの挨拶を済ましているので3人の話に入り込むつもりはない。

流派も性格も全く違う3人だが同じ場所で時を過ごし剣を高め合った仲、積もる思いもあるだろう。

 

 

「エリス、そろそろ行きましょう。」

「わかったわ!」

 

 

話も終わったのか母様は少し離れていた私に駆け寄り首根っこを掴んで馬に飛び乗った、余りに乱暴に跨るものだから馬は身震いで抗議をしたが母様に軽く首を叩かれて仕舞えばどんなじゃじゃ馬も諦めざるを得ない。

 

 

「みんな、達者で。」

 

 

ニナ様は目に涙を浮かべていた。彼女は私が産まれる前から母様と関わってきたのだ、思い人はいるようだが1人この地に残って同志を送り出す彼女を思うといっその事彼女も連れて行きたくなる。

しかし言うまでもなくそんな野暮な事は口にしない、ニナ様は父である剣神様を超える道を選ばれた。

母様達との修業の日々を糧にそんな偉業へと挑んでくれるのだ、これは決して寂しい別れでも悲しむ事でもない。万感の思いで視線を交わす3人は…「ちわーす。郵便です、サインお願いします。」

 

なんだこの空気の読めない闖入者は…情緒というものが分からぬ不作法者に胡乱げな目を向けると、その男は母様をボレアス・グレイラットの名前で呼びながら手紙を差し出した。

 

 

「ルーデウス・グレイラット様からです。」

「ルーデウス!」

「父様!」

 

 

どうやら父様の手紙だったらしい、引き渡しが済んで意気揚々と帰っていく男を頭の隅に追いやって馬上から母様が読み上げるのを待つ。

……が、どうやら母様はこの5年で字の読み方を忘れてしまったらしい。呆れてはいるがニナ様は元々読み書きができないようで結局手紙はイゾルテ様に回された。

手紙を読んでいたイゾルテ様の顔はどんどん険しいものとなり読み終わると同時に怒気の篭った声を張り上げた。

 

 

「……なんなんですか、この人は!」

「な、何よ。何が書いてあるの?」

「エリスさん。エディトちゃん。あなた達、こんな人のために、今まで頑張ってきたんですか……ああ、なんて可愛そうな……ミリス様、お救いを……

悪いことは言いません。2人とも。シャリーアなどに行かず、私達と一緒にアスラに行きましょう。あなたのような方が、悪い男に騙される事はありません、エディトちゃんのためにもこんな父親とは縁を切ってしまいましょう。」

「いいから、何が書いてあるか教えなさいよ! ぶった斬るわよ!」

「わかりました。いいですか、こう書いてあります」

 

 

いきなり哀れみの目を向けて勝手なことを言い始めるイゾルテ様に母様が怒ると、イゾルテ様も負けじと怒りながら手紙を読み上げた。

 

 

 

『前略 エリス様。

 ルーデウス・グレイラットです。

 我々が別れてから、早いものでもう五年になります。

 私の事を、覚えているでしょうか。

 私はあの時の事を、忘れる事はないでしょう。

 あなたとの初めての夜。私はあなたと添い遂げようと心に誓っておりました。

 しかし、朝目覚めた時、あなたはいなかった。

 その時の喪失感、虚脱感は私の心に深い闇をもたらしました。

 辛く、切なく、儚い三年間でした……。

 無論、今はその事を恨むつもりはありません。

 ですが、深く落ち込んだ私の気持ちも理解していただければ、幸いに思います。

 

 さて、こうして筆を取ったのは、ある人物にエリスの気持ちと現状について言われたからです。

 私はてっきり、あなた様は私を切り捨て、一人で旅立ってしまわれたものだと思っていました。

 ですが、その人物は、それは私の勘違いで、その心は常に私に向いていて、その上エリスはあの日に私との子供を身籠って、ずっとその子供を育ていたと言うのです。

 

 私には現在、二人の妻がいます。

 どちらも暗く落ち込んだ私を救い上げてくれた方です。

 エリスとの事が私の勘違いだったとしても、本当に私達との間に子供ができているのだとしても、私が深く落ち込んだのは事実であり、彼女らが私を救ってくれたのもまた事実です。

 

 ですが、もし、エリスが本当に、以前と変わらぬ気持ちでいてくださっているのなら。

 私と結婚し、私と一緒に暮らしたいと思ってくださっているのなら。

 私には受け入れる準備があります。

 エリスにとっては不本意でしょうが、今の二人と別れるつもりは無いため、三番目の妻という形になります。

 

 もし不本意であり、どうしても許せないというのなら、私にはあなたの拳を受け入れる覚悟があります。

 殺されない限りはどれだけ殴られようと構いません。

 でも、できれば、私はあなたと喧嘩はしたくありません。

それに子供には何の責任もありません、その子に関してはどうなろうと取れる限りの責任を取るつもりでいます、私が許せないと言う事であってもどうか一目だけでも会わせてください。

 仮に家族になれないのだとしても、その子の幸せのために力を尽くし合える関係でありたいと思っています。

 

 以上です。

 ルーデウス・グレイラットより』

 

 

絶句だ、私と母様とギレーヌは揃って天を仰ぎ絶句していた。手紙のことで口論を始めるニナ様とイゾルテ様の話も全く入って来ない。

どう言うことだ……?なんなのだ、この手紙は…意味が分からない、話が…話が違うじゃないか。

 

 

 

 

 

「いい加減にしろお前達!エディトも聞いているのだぞ!」

 

 

一足先に正気を取り戻したギレーヌの一喝で2人の口論も止まり、私の意識も空の彼方から帰ってきた。

 

 

「父様は…私が産まれた事も知っていなかった…」

 

 

真っ青な顔で私を慰める言葉をかける2人を尻目に、戻った意識に全力で鞭打ち手紙の内容から状況を推察した私は絶望的な事実に思い当たっていた。

 

 

「父様と、母様が別れた時…父様は…母様の家に、奉公に出された護衛でした。母様がギレーヌを、剣王ギレーヌを連れていなくなって、一度も手紙を出してなかったら…用済みで捨てられたと思うのでは?」

「……………ッ!!」

 

そこでイゾルテ様含め全員が納得したように黙り込んでしまった。

初夜の約束を前倒しに済ませて護衛だった自分と取り替えるようにギレーヌを連れて雲隠れした女を、それも居場所すら伝えず手紙も出さなかった女を、自分を愛して修行に励んでくれているなど思える筈がない。

 

 

 

(これは、無理だ、後ろ楯を失った母様との約束のために3年もの間旅を共にした母様に手を出さずにいた父様からすれば、母様のやった事は捧げた忠義を踏み躙る裏切りでしかない。)

 

 

「…………あっ!あーっ!もう一枚ありました!もう一枚手紙が入っていました!」

 

 

なんとか話を逸らすタネを探していたイゾルテ様は封筒から零れ落ちたもう一枚の手紙に飛びついて殊更に騒ぎ立て、そして再び手紙の内容に絶句していた。

 

 

『追伸。

 私はこれから、龍神オルステッドに戦いを挑みます。

 勝てるかどうかはわかりません。

 この手紙が届いた時、私はすでにこの世にはいないかもしれません。

 もし、生きて帰ってこれたら、話の続きをしましょう』

 

 

今度こそが全員が絶句し固まる中、私と母様だけが燃えるような熱が込み上げるのを感じていた。

そうだ、何を勝手に絶望している、父様は責任を取ると言っているじゃないか、母様と私の真意を知らず誤解で傷つけ合ったのは事実だ。

しかし、母様や私を責めることなく離別の原因を作った龍神オルステッドを討つと言い切った父様の言葉に嘘があろうはずもない!

 

 

「急ぎましょう母様、このままでは戦いに遅れてしまいます。」

「えぇ、…そうね!行くわよエディト!ギレーヌ!」

 

 

何も迷う事はない。龍神オルステッドを倒し、5年間のすれ違いを埋め合えばそれでいい。私達にはそれができる!

水神様とイゾルテ様の事も置き去りにして、私達は父様のいるシャリーアへと駆け出した。




これにて剣の聖地編は閉幕です。
初夜の約束や家同士の取り決めの重さをあの場の誰よりも理解しているエディト君ちゃんは危うく絶望しかけましたがエリス譲りの決めたら一直線なメンタルでシャリーアへと向かいました。
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