武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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父との出会い 二度目の産声

精魂尽き果てた表情で2人の妻に支えられた青年は、傷一つない身体とは不釣り合いな血塗れの服を纏っていた。

私と同じ位置にある泣き黒子とつむじの一本だけ逆立った癖毛を持つ彼は…いや、父様は、龍神オルステッドに負けたのだろう。

龍神オルステッドは剣神様が彼奴と比べれば自分は雑魚だと言い切ってしまうほどの剣士であり、父様が見た事も無かった魔術の数々を使っていたと言う理外の化け物だ。

未だ剣神流としては剣王ギレーヌを超えていない母様とこの5年間家長として身を固めていた父様ではこの結果も必然と言えるだろう、その父様がこうして治療を施されて帰ってきたと言う事は…

 

 

「ルーデウスは、オルステッドの軍門に降ったわ…」

 

 

……覚悟していた事だ、剣神様達の話を聞くにオルステッドは長命の存在。つまりは産まれながらの神でありその悠久の時を武に生きた存在なのだ。

まだ20も生きていない父様達が、初対面の相手を話の途中で殺そうとするような危険な男に配下に加えようと思わせただけでもこの5年間の研鑽の価値は揺るがない。

ならば私がする事は一つ。力をつけオルステッドを殺すにせよ、龍神の軍門で栄えるにせよ、武神すら生還を諦める死地から舞い戻った家族をただ労わればいい。

 

 

「シルフィエット様、父様を連れ戻してくださりありがとうございます。」

「ううん、ルディをあんなに危ないところに1人で行かせて…ごめんねエディト。」

 

「ロキシー様、まずはゆっくりと休んでください、お腹に障りはありませんか?」

「…気づいていたんですか?これぐらいなら大丈夫です。後で触ってあげてください、この子も挨拶したがってるはずです。」

 

「ギレーヌ、いつもありがとうございます。」

「うむ。」

 

 

母様には声をかけない、彼女は龍神を倒し切れなかった己の無力と父様を1人で戦わせかけた過ちを呪っているからだ。

今の私に母様にかけられる言葉もかけていい言葉もない、彼女を救えるとすれば…父様を置いて他にはいない。

 

 

「父様………」

「エディト、なのか……?」

 

 

思ったよりもずっと柔和な印象の人だ…魔術師はそもそも学者側の人間であるから当然の話だが。

彼の目には私はどう映っているのだろうか?責任を取ると言ってもらえた以上尻込みせず家族として振る舞っているが、父様からすれば私は忠義を踏み躙られた苦い思い出そのものとも言える不義の塊である。

知らぬ間に湧きあがっていた唾を飲み下し身を強ばらせていると、父様は泣きながら私に抱きついてきた。

 

 

「エディト…エディト……ごめんな…こんなパパで…気づかなくて、会いに行かなくて…ずっと…ずっと、ごめんな……」

 

 

 

 

 

 

 

──────私は、これを知っている。

この、確かめるように、怯えるように、それでも私を包み込んで大事に抱える、この腕の温もりを知っている。

前世での父がそうであった、普段からロクな会話もなく身体の調子が良ければ竹刀ばかり振らせて私が完全に床に伏せれば滅多に会う事もなかった。

だが、それは愛情がなかったわけではない。家長として働き家を支えながら、私の病を癒す手立てをずっと探していた事くらい私は知っていた。

最後に父と会った日、父は意識も朧気な私を割物でも扱うかのように恐る恐る撫でていた。震える手と声で、私に語りかけていた、『治してやれずすまない』と。

 

 

「無事で…良かった…!会えて良かった…!ずっと、ずっと…!会いたかった…父様……!」

 

 

 

張り詰めていた糸が切れるような感覚があった、これまでずっと、産まれてきて良かったのかという思いがあった。

あれだけ良くしてくれた両親に何も報いる事ができず、今世でも足を引くばかりの私が、本当に受け入れられるのか確信がなかった。

 

 

 

 

 

 

もう大丈夫、そう言われたような気がして、私はようやっと心の底から泣く事ができた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝………

 

「はーい、エディトたん。朝でちゅよー。おっきしましょうねー。」

「…………」

 

私は死んだ目で父様に起こされていた。

父様は素直に愛情を伝える人だ、本当に素直で、素直すぎて子煩悩の域を完全に飛び越している、正直かなり暑苦しい。

4年分の空白を埋めるかのようにそれはそれは執拗に私を構い倒し、ルーシー様がぐずり出すまで解放されなかったほどだ。

ギレーヌは元々この家まで私達を送り届けるまでが仕事だったといい早々に別の宿を取った、私達に気を使ったのだろうが一刻も早く戻ってきてほしい。

母様はシルフィ母様とロキシー母様に昨日の夜から色々と説明されている、これからも家族としてやっていくならば母様は絶対に御二方に逆らってはいけない。いつか魔物の肉を焼いただけのようなものではなく、ちゃんとした母様の手料理が食べられる日が来る事を願っている。

 

 

「父様、朝早くからどちらに?」

「ああ、ノルン…金髪の方の妹と剣の稽古をするんだよ。」

「私も混ぜてください!」

「エディトも…?いやでも、まだ4才だろう…」

「もう剣神流と水神流で初級の認可を貰っています、打ち込み稽古も大丈夫です!」

「もうそんなに!?エリスの子だなぁ……分かった、ノルンに頼んで見るよ。」

 

 

父様がノルン姉様を呼びに行く間に私も稽古の支度を始める。近い内にギレーヌはお爺様達の仇討ちに旅立つ、もう彼女に稽古をつけてもらえる事などそうはないだろう。

元々決まっていた事だ。母様がボレアス・グレイラットの名を捨て父様の妻として生きる事を選んだ以上、ギレーヌと私達が寄り添い生きる道は無いのだから。

寂しさを堪えるように帽子を目深に被り、庭へと降りる。




差別や政治的な諍いや御家問題に振り回されて寄り集まったグレイラット家において差別や御家問題が当たり前にあってそれを前提に生きるエディト君ちゃんは割とガチの異物してる。
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