武士娘転生 剣の聖地にTS転生した忠犬の奮闘記   作:斑模様のキャットフィッシュ

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姉のような叔母達 前編

私が父様との稽古に混ざりたかったのは本心である。しかし、足取りが弾んでしまうほど喜んでいる父様には申し訳ないが稽古に参加したかったのには別の目的もある。

グレイラットの屋敷内で最も距離感を図りかねているノルン姉様と、なんとか交流を持つ機会が欲しかったのだ。

 

何故なら彼女はミリス教を信奉し、私の緑髪に最も過敏に反応している。ギレーヌと母様に守られていなければ何度ミリス教徒に殺されていたか分からないだけに無視はできない。

無論ノルン姉様は妻を3人も迎える父様を顔を顰めるだけで見逃し、母様とも和やかに話しているからある程度信頼はしている。

イゾルテ様や水神様がそうだったように掲げる神がその人の全てを決めるわけではない、だが掲げる神がその人の大きな指針となるのも確かだ。

私が彼女を知り、私を彼女に知ってもらわなければ私が本当の意味でグレイラット家に馴染む事はないだろう。

 

 

何度も断られて殴られる事も覚悟していたがノルン姉様は私の割り込みを許してくれた。私の帽子を見て苦い顔こそするがそれだけだ、器の広い人である。

 

 

「ハッ……ハッ……!………ッ!!エディト、ちゃん、本当に強い…!」

「剣を持った時間の差です、魔術も混ぜればノルン姉様が勝ちます。」

「4才のエディトちゃんにも言われても…はぁ、やっぱり兄さんの子だね。」

 

聞けばノルン姉様は剣を持って一年かそこらだという。普段も魔法大学の生徒として勉学と魔術の鍛錬に励んでいる合間の時間でこの強さだ、よほど真摯に鍛えてきたのだろう。

なによりも強さの質が高い、打たれる痛みに強く人を打つ事に明確な目的と意思を持っている。剣を持たねばならない時に生き残って守るための強さだ、純粋な剣士ではない父様に頼み込んでここまで鍛え上げた覚悟を思うと胸が熱くなる。

まぁ、私以上に感動した父様が駆け寄ってきてそんな思いも吹き飛んだのだが。あっ…ノルン姉様、躱し慣れてるな……

また赤子をあやすような言葉遣いで頬擦りされる、蛇に飲み込まれる前の卵はこんな気分なのだろうか。

 

 

「おーよちよち、えらいでちゅよーエディトたん。」

「……………」

「兄さん、エディトちゃんがどう言ったらいいのか分からない顔になってます。放してください。」

「あっ…あああぁぁぁぁ………」

「そんなこの世の終わりみたいな顔しないでください!向こうに行きましょうね、エディトちゃん。」

 

 

ごめんなさい父様、嬉しいけどずっと頬擦りされるのは嫌なんです。

そうしてノルン姉様と並んで軽く水を浴びた後、ノルン姉様の部屋へと連れ込まれた。

 

 

「…この剣はねエディトちゃん、私達の父さんの形見なの。

あなたのお爺ちゃんだった人でね、もちろんダメなところも多かったけど…ずっと私達を守ってくれた強くて立派な人。私も兄さんも大好きだったの。」

 

 

そう言って壁に掛けられた長剣に手を合わせながら、私にお爺様の事を教えてくれた。

お婆様がノルン姉様を身籠っている時にリーリャさんに手を出したせいでアイシャさんと双子のようになったという話には頭が痛くなったが、それ以外は災害に揉まれ家族とすれ違いながらも戦い続けた強い父親の話であった。

 

災害の時にノルン姉様を抱き上げていたお爺様は2人でフィットア領の程近くに飛ばされ、馬を飛ばして最短でフィットア領に舞い戻ったらしい。

そこで災害の実態と家族が見つかっていない事を知ったお爺様は被災者の捜索隊を結成、被災者を奴隷にする下劣な輩と何度も何度も争い憔悴していった。

お爺様が父様を叱責したのはその時の事で、酔いも回っていたからか父様に完敗して馬乗りになって殴られていたらしい。その時の衝撃でノルン姉様が父様と打ち解けるにもかなり苦労したそうな。(……勝手なんて言ってごめんなさい、お爺様)

 

そしてお爺様の張り出した情報で魔大陸へと向かったロキシー母様(父様とは行き違いだった)が魔界大帝と遭遇、彼女の魔眼で最後の行方不明者だったお婆様の居場所を割り出したらしい。

ノルン姉様達を偶然居合わせたルイジェルド殿に頼んでこの屋敷へと送ってもらい、お爺様達はベガリット大陸にある転移迷宮の奥へとお婆様を探しに行った。

しかし転移迷宮は最悪の迷宮の一つとも呼ばれる危険なもので探索は難航、父様に助力を求める事になる。

魔法大学で転移事件について調べていた父様は転移迷宮に挑んだ冒険者の書を発見しており、お爺様達を助けると決めた父様は冒険者時代と大学内で高めていた地位によってその本を持ち出す形で借りる事が許された。

 

父様と貴重な経験者の知識の記された本が加わった事により探索は大いに前進、お婆様を発見するも迷宮の核である結晶の中に閉じ込められていた彼女を助け出すには迷宮の主を倒さなければならなかった。

幾つもの頭を持ち遠くからの魔術を打ち消して切り落とした首を生やす多頭竜に父様達は大いに苦戦するものの、切り落とした首を打ち消しが間に合わないほどの距離から魔術で焼いて潰すという捨て身の作戦で活路を開いた。

 

 

しかし…魔術師が最前列で戦うということは命を投げ出す暴挙に等しく、多頭竜に潰されかけた父様を庇ってお爺様は生き絶えたらしい。

ノルン姉様を守り、多くの被災者を救い出して、お婆様を捕らえる多頭竜を倒し、最期は父様の命をも守り抜いた。

気が付けば目頭が熱くなっていた。嬉しかったのだ、母様から聞いた話では生家に居場所が無いようだった父様がお爺様に心の底から愛されていた事が。そして、そんな大事な話をノルン姉様が伝えようとしてくれた事が。

 

 

「私はミリス教徒だから兄さんのしている事は凄く嫌だけど…兄さんはミリス教徒じゃないし、そうなるだけの理由もあったんだと今では分かるよ。それでも妊娠してるシルフィ姉さんがいるのに浮気したのは許せないけど…あれも私達がなんでも頼り過ぎたせいもあったんだと思う。

兄さんもエリスさんもエディトちゃんも幸せになってほしい、だから私の事で遠慮なんかしないで。エディトちゃん。

私達もちゃんと家族になろう。」

 

 

私は帽子を下ろして、お爺様の使っていた長剣に深く手を合わせた。

 

 

 

「ありがとうございます。ノルン姉様。」

「様はつけなくていいんだけど……」




エディト君ちゃんと抱き合って泣くルーデウスと自分を怖がって家でも帽子を被るエディト君ちゃんを見てノルンは色々飲み込んで歩み寄る事を決意しました。
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