暗黒期に『アエデス・ウェスタ』を観せるのは間違っているだろうか?   作:リーグロード

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英雄幻想

 あの敗戦の夜。あるいは未来の英雄が希望を示した夜明け。

 人々は絶望と希望の狭間で戸惑い、どうすればいいのか分からないまま、徹夜で疲れ果てた体を休めるため、多くの者が眠りについた。

 

 だがそれは民衆が大半で、冒険者やギルド職員らは未だ敗戦によって出た被害や闇派閥の襲撃を食い止める為に働いていた。

 

 そして、それを指揮するのはギルド本部にいるフィンだ。

 そのフィンがいる会議室には神ロキと病み上がりのガレス、そしてギルド長のロイマンが席に着いていた。

 

「さて、現状を確認しておくとしようか」

 

「確認もなにもあるか!敵はゼウスとヘラの生き残りを!【暴喰】と【静寂】を引き連れ、九のファミリアが消滅!他にも主神は無事でも、眷属が全滅したファミリアも複数だ!……このオラリオ史上、最悪の事態を前に何を悠長な!!」

 

 興奮するロイマンの声に、フィンは冷静な態度を崩すことなく告げる。

 

「確かに、敵の狙い通り、今のオラリオは最悪の事態に陥っている。だけどそれは、今の被害だけを見ればの話だ」

 

「どういうことじゃい、フィン?」

 

「簡単なことさ、ガレス。本来なら今頃、恐怖や不安に駆られて都市を出ようとする民衆が闇派閥に襲撃され、その結果として暴動を始める民衆を鎮圧する可能性があっただろう。でも、昨日の未来の英雄の戦う姿を見て、人々は希望を見出したんだ。だから、その暴走の危険性はほとんどなくなった。それに加えて、英雄エピメテウスの堕ちた理由が原因だろうね。僕らが犠牲者を救えなかったことへの反発も驚くほど少ないよ」

 

「せやな。それにそれだけやない。昨日のあの白髪の小僧が言うてた言葉。『勝者は常に敗者の中に存在する』これがまだ民衆が負けたウチらのことを信用して暴動に走らせんよう繋ぎ止めたんや。……あの小僧、本当に何者やねん」

 

「それは僕も知りたいな。ただ、あの言葉のおかげで闇派閥の襲撃があったとしても、民衆が冒険者を信じてくれているのもあって、避難もスムーズに進んでいる。もしあの夜にあの映像が流されていなければ、ここまで順調に事が進むことはなかっただろう」

 

 フィンとロキが冷静に今のオラリオの状況を話す中、一人ロイマンだけは何か言いたげだった。

 

「確かにあの映像で民衆の冒険者への印象は大きく回復した。だが、問題となるのは敵の主力となるゼウスとヘラの眷属がまだ残ってるということだ!」

 

「確かに、敵の主力が残っているという君の懸念は間違ってはいない。ただ、こちらも余裕はない。目の前の問題を片付けるばかりに手を取られてしまっているせいで、全てが後回しになってしまっている」

 

「ならどうするというのだ!?」

 

「……暴喰の方は既に手は打ってある。というか、既に暴喰に唯一対抗できそうな人物が討伐するために特訓を行っている」

 

「特訓?まさか……!?」

 

「ああ、そうだ。現在、フレイヤファミリアのオッタルを筆頭とする第一級冒険者である全員を警護に回さず、ステイタス向上のために特訓に専念させてある」

 

 事実、フィンの言う通り、フレイヤファミリアの第一級冒険者ら全員をオッタルの強化に回してある。

 それも、全員が全員、全力の本気でオッタルを潰す勢いで挑みかかっている。そんな特訓ともいえるかどうかの殺意の中で、オッタルは臆することもなく、自身の未熟さによる怒りと、過去の因縁にケリをつけんとする気概。そして、未来の英雄に感化された英雄願望を持って、オッタルは戦い続けていた。

 

「暴喰の方に手が回っているのは分かった。だが、静寂はどうするつもりだ?いくら猛者といえど、ザルドとアルフィアを同時に倒すのは不可能だ!」

 

「静寂は僕たちロキファミリアで対処するよ。ガレスとリヴェリア、さらに彼女たちにも協力してもらうつもりだ」

 

「彼女たち?」

 

「ああ、この街で最も正義の味方をしている彼女たちにね」

 

 正義という言葉を聞き、ロイマンはフィンが指している彼女たちが誰なのかを悟った。

 

「まさか……! アストレアファミリアか!」

 

「その通りだ、ロイマン」

 

「馬鹿な!?あのファミリアの平均レベルは3だったはずだ。とてもレベル7との戦いに投入できる戦力ではないぞ……!?」

 

「確かに、常識的に考えればレベル差4つも離れている相手をぶつけるのは勝負を捨てていると言われても仕方ないだろうね。でも、もしそのレベル差を覆す策があるとしたら?」

 

「なっ!?あ、あるというのか、あの静寂を打倒する策が!?」

 

「勿論、勝率はそれを加味してもとても低い。今の時点では上手くいく可能性は微々たるものだ」

 

「だったら──!?」

 

「だけど、もうそれに賭けるほか道はない」

 

 別の策を考えろと言いかけたロイマンの言葉を遮って、フィンが断言する。

 それは諦めたから出た言葉ではないと、フィンの瞳が雄弁に語っている。

 

「他に策を練っている暇はない。というより、今後の策は極力減らさなければならない」

 

「な、何故だ……?」

 

 この危機的な状況では、策は多ければ多いほど良いはずだ。だが、フィンはそう考えず、策をできるだけ少なくするべきだと主張している。

 つまり、それがフィンの目論見通りに進まなければ、最悪の場合オラリオが崩壊するということを意味する。その真偽を確かめるため、ロイマンは理由を尋ねた。

 

「単純な話さ。今のオラリオがギリギリで無事を保てているのは、彼らが僕たち冒険者に英雄幻想を抱いているおかげにすぎない」

 

「英雄幻想……」

 

「そう。そのため、これからの戦いでは絶対に負けるわけにはいかない」

 

「そ、そんなの、当たり前だろぉ!!」

 

 あまりに当然すぎる答えに、ロイマンは思わず声を荒げる。

 

「確かに、負けを考えないのは当然だ。でも、その重みが違うんだ」

 

「──ッ!?」

 

 フィンの鋭い眼差しに、ロイマンは怒りを抑え込まれ、思わずたじろいだ。

 

「あの敗北した夜が明けた日から、この闇派閥との戦争が終わるまで、次に僕ら冒険者が負けるということは、本当に取り返しのつかないことになるんだ」

 

 フィンの言いたいことが、長い付き合いのロイマンにもようやく理解出来た。

 なるほど、今のオラリオの民衆が足枷になっていないのは、まだ冒険者が闇派閥に勝てると信じられているからだ。だが、もし次負けてしまえばどうなるか?

 今度こそ民衆は統率を失い、誰も彼もがパニックに陥ってしまう。

 そうなれば、最悪オラリオは終わるだろう。

 だが、それを未然に防ぐためには──、

 

「勝たねばならんということか……」

 

「その通り。たった1度の敗北さえ許されないというのならば、守りに徹して勝てる可能性の一番ある場面に全戦力を投入し、劇的に勝つしかない」

 

「なるほどのう、ワシらの負けはオラリオ全体の負けになる。希望を担い、期待を背負い、未来を示して戦うんであれば、最終決戦まで僅かでも敗北の可能性のある戦いを挑まず、力を蓄える必要性があるというわけじゃな」

 

 2人のやり取りでこの戦争の勝ち筋を理解したガレスが納得した。

 そして立ち上がり、フィン達に背を向ける。

 

「うむ!これでワシらがどう動けばいいのか理解できたわい。なら、ワシもいつまでもここで油を売っておるわけにはいかんのう」

 

「どうするつもりだい、ガレス?」

 

 目を覚まし、動ける程度には回復したものの、まだ重傷のままだ。そんな状態で何をするつもりなのか、返ってくる答えを半ば確信しながら、フィンはガレスに問いかける。

 

「決まっておろう。未だ闇派閥は健在じゃ。まだそこいらに敵の兵が紛れ込んでおるじゃろうからな」

 

 ガレスは手に持った兜を被り、部屋の扉を開ける。

 

「ようするに、負けなければいいということじゃろう。この程度の傷で、ワシが雑兵ごときに遅れをとるなんて思っちゃおらんよな、フィン」

 

「もちろんさ。君がその程度の傷で倒れるようなら、僕とリヴェリアはとっくにダンジョンで命を落としているよ」

 

「がっはっはっは!こんな時でも生意気な口は健在じゃな、フィン。それじゃあ、ロキ。ワシは行くぞ。考えるのはお主ら3人に任せる。頑丈さだけが取り柄のドワーフは、肉体労働に励むとするわい」

 

 そうやって格好つけてガレスは会議室から出ていった。

 それを見送ったロキは嬉しそうに口角を上げ、フィンとガレスのやり取りを見ていたロイマンは呆れたように溜息を吐いた。

 そしてロキがニヤニヤしながら口を開く。

 

「闇派閥にいいようにされとるっちゅう状況は癪に障るが、子供らが輝く時っちゅうんわ、こういう逼迫した状況の時なんよな~」

 

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