絶望と夢のアーカイブ   作:戦艦備前

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冷たい雨

瓦礫と硝煙に包まれた会場に、最初の雫が落ちた。

 

空は重く、濁った灰色に塗り潰されている。降り出した雨は、激痛に叫ぶことさえ許されない死者たちの無念を代弁するように、静かに、しかし容赦なく地上を濡らし始めた。

 

「....あ、....ぁ.....」

 

ヨミは、泥と血に汚れた手をつき、膝をついたまま動けなかった。泥と硝煙にまみれた現場...生徒だったものの残骸...それらが視界の端に映りそれがヨミ先生の絶望をさらに深めた。

自分が見守ってきた少女たちの命が、その「神秘」が、物理的な暴力によって一つ、また一つと損なわれていく。

 

雨は次第に強まり、ヨミの頬を伝う涙と混じり合って地面に滴る。濡れた大理石の破片が、冷たい光を反射していた。

 

その沈黙を切り裂いて、濡れた軍靴の音が近づいてきた。

迷いのない、統制された歩法。爆炎を背負い、揺らめく陽炎の向こうから現れたのは、アリウスの先頭に立つ少女――錠前サオリであった。

 

サオリの瞳は、この世のあらゆる温もりを拒絶したかのように凍てついている。

彼女はヨミの前で足を止めると、機械的な動作でアサルトライフルを構えた。冷たく黒い銃口が、ヨミの額の数センチ先で静止する。

 

「標的確認........終わりだ。丹花ヨミ」

 

サオリの声には、憎しみさえも宿っていなかった。それはただ、あらかじめ決められた作業を完遂しようとする、死刑執行人の淡々とした宣告であった。

 

「貴様の言う『奇跡』も、『青春』も、この雨に打たれて消えた。....ここにあるのは、貴様が招いた結果という名の無残な屍だけだ。」

 

「....ちがう、...私は、みんなを...」

 

ヨミ先生の震える声は、雨音に掻き消されそうになるほどに弱い。サオリは眉ひとつ動かさず、銃口をさらに一歩、押し付けた。硬い銃身の感触が、ヨミ先生の肌に死の冷たさを伝える。

 

「否定は無意味だ。...貴様が信じた『ハッピーエンド』など、この世界のどこにも記述されていない。....Vanitas Vanitatum(虚しい、全てが虚しい)。貴様が愛した生徒も、貴様が守りたかった絆も、すべては最初から、こうして壊れるために用意された舞台装置に過ぎなかったのだから」

 

サオリの指が、トリガーに掛かる。

その背後で、雨に打たれるアリウスの兵士たちが、まるで葬列のように静かに佇んでいる。

 

「...恨む必要はない。痛みを感じる前に、貴様をこの『虚無』から解放してやる。」

 

サオリの瞳に、ほんの一瞬だけ、深い夜のような寂寥が宿った。

だが、その光もすぐに降りしきる雨のなかに溶け、消えた。

 

ヨミ先生は、自分に向けられた銃口の奥にある漆黒の闇を見つめた。そこには、救いも、答えもなかった。

あるのは、朝に囁かれた悪夢の成就と、完璧な絶望の証明だけ。

雨は冷たく、彼女の意識を白く塗り潰していく。

 

「さらばだ、先生。あとのことは、すべて『忘却』に預ければいい。それに貴様さえいなくなれば、私たちの悲願は叶う。」

 

サオリの宣告が、雨の降る大聖堂の跡地に、乾いた金属音と共に響き渡った。

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