試作した地底内駆除兵器・バグのテストとして、インディアン・スプリングス西部で発見した巣穴の入り口から五機を投下。それぞれに熱源サーチ・超音波振動によるオートマッピング・簡易メンテナンス機能を搭載することで、人力を介さずにどこまで成果を挙げられるかを実験したのだが。
『これは……想像以上だな』
「正直、アイデアを出した私も驚いている」
照明ひとつない真っ暗闇の中、どこまで広がっているかもわからない地底世界を慎重に進みながら、無数の巨大生物を駆逐する。たとえ訓練された兵士であっても、生存率は一割を切る。
無人機は違う。カメラレンズが使えないなら振動サーチによって障害物や地形の高低を把握し、周囲に潜む巨大生物の熱源目掛けてチェーンソーで切り刻む。人間のように不安や恐怖で判断を鈍らせることなく、ひたすらシステマチックに稼働し続けるのだ。
投下された五機のバグは、愚直にその性能を発揮した。手始めとしてトンネル状の通路にいた巨大蟻十匹をバラバラに解体してのけると、その先に広がる東京ドームほどの大空間に詰まっていた群れを轢殺。五つに別れた横穴にそれぞれ突入していき、最終的に最奥の主をビーム砲で葬った。
被害は三機が小破、一機が中破。ボスを仕留めた一機が大破したが、これはチェーンソーによる切断中に噴き出した敵の体液が多過ぎたことで動作不良を起こし、その隙を突かれて地面に叩きつけられたのが原因である。12004的にはそのまま停止せずにビームへと切り替えた臨機応変さが優秀だと評価している。
『…………』
「どうした、プロフェッサー? 確かにチェーンソーの詰まりは改善の余地有りだが、初テストにしては上出来だと思うぞ」
今日のプロフェッサーはセントリーガンではなく、青色のボーリング球大の球体メカ、いわゆるハロ・ボディで12004に同行していた。途中までは『ふむ』とか『なるほど、しかし……』などと楽しそうに分析していたが、地底の底に進むにつれて言葉少なになり、とうとう無言になってしまった。
「プロフェッサー」
『あぁ……うん。研究者として認めよう。これは、効果的だ。試作でありながら、もはや兵器として完成されている。いや、これ以上付け足す必要がない。それほどまでに素晴らしい』
手放しに褒めながら、しかしその声は沈んでいた。ただ事ではない様子に12004も気付き、ハロのモニターに映るプロフェッサーを見つめる。
『12004。正直にいって、私は恐怖さえ覚えている』
「恐怖だと?」
『ああ、そうだ。これは……この兵器は、あまりにも効果的過ぎる。ただひたすらに殺す。殺して、殺して、殺し続ける。動くものがゼロになるまで止まらない。これは、そのために特化された、殺戮兵器そのものだ』
電子の海のデータである男の目には、ろくでもない未来を垣間見たように、暗い光が灯っていた。
『科学者として断言する。バグは、人間に向けて使われてはならない。良識を持った異星人や生命体にもだ。あくまでもフォーリナーや害なすものに対してのみ使用を許可する、そのためのブラックボックスを内部に設ける。それほどまでに危険な代物だよ』
でなければ、と続けて。
『いずれこいつは、何千万もの命を奪うことになるだろう』
698:12004
転生スレというチート頼みの私よりもプロフェッサーの方がよほど有能だと思う
699:転生すれば名無し
× 一を聞いて十を知る
〇 未来視までやってのける
有能なんて次元じゃねぇよこの科学者
700:転生すれば名無し
本物の天才相手にワイらなんて生まれ変わったくらいの個性しかないんや
701:転生すれば名無し
実際にヤバイからなバグは
702:転生すれば名無し
本体もやけど内蔵の子バグが厄介過ぎる
703:転生すれば名無し
コロニー住民ン千万の命を奪えとかさぁ……
704:転生すれば名無し
最終目標はこれが地球投下されるんやろ?
705:転生すれば名無し
貴族主義は頭がおかしい(確信)
706:転生すれば名無し
マジでおかしくなった人の発明だから何もいえねぇ
707:転生すれば名無し
鉄仮面「人類の90%を抹殺しろといわれればこうもなろう!」
708:転生すれば名無し
そっすね……
709:転生すれば名無し
おいたわしい
710:転生すれば名無し
元を辿れば浮気した上に蒸発かました嫁さんのせいだが
711:12004
作った者が歪んでいようと、作られた目的が血に塗れていようと
突き詰めれば道具は道具に過ぎない
私達がどう使うかでこの世界での評価も変わるだろうさ
712:転生すれば名無し
……お、おう
713:転生すれば名無し
独裁者とマッドサイエンティストのエゴで産まれたクローン兵士がいうと皮肉っすねwww
と思ったのは内緒にしようと心に秘めるワイであった
714:転生すれば名無し
草
715:12004
からかうのはともかく舐めてもらっては困る
716:転生すれば名無し
ぎゃああああああああ!!!
怨霊が! マイクラのスイーパーが全部リアル調の怨霊になった!!
717:転生すれば名無し
感覚切ってるくせに使うと容赦なさすぎだろこいつ……
718:転生すれば名無し
いまのは>>713が悪いわ
「危険な仕事をさせてしまった。無事に戻ってくれて嬉しい、ナナイ」
「ありがとうございます、ミネバ様。もったいないお言葉です」
スペースノイド・ユニオンのリーダーとしての装束──金色に輝くジオンのシンボルマークを中心に緑を基調とした軍服──に袖を通すミネバ・ラオ・ザビ自らの出迎えに、ナナイ・ミゲルが頭を下げる。
ミネバの言葉に嘘は無い。ほんの数日前まで、ラスベガスの北部エリアは巨大生物の大群が跋扈する、まさに死と隣り合わせの任務先だったからだ。偵察用ドローンで個体の減少を確認したとはいえ、分室の確認がしたいと焦るナナイを単身向かわせることだけは避けたかった。それでもユニオンの精鋭チームを護衛として同行させるのが限界であり、こうして無事な姿を確認できたおかげでようやく一安心できたのだ。
「それで──あなたの目から見て、どうであった?」
言葉の真意を汲み取り、ナナイは頷く。
「分室の同胞は、出来得る限りの仕事を成し遂げたようです。禍々しさは感じられませんでした。前時代の強化人間にみられるような歪みや怨念もありません」
「歪み? バルマー戦役のさなかに戦ったという者達か?」
「はい。強引にでもオールドタイプにニュータイプ適性を付与させるか、もしくはニュータイプの素養のある被験者を無理矢理に強化する際、精神が極めて不安定になります。かつてのムラサメ研究所やオーガスタ研究所でよく見た症例です。これを抑えるために、まったくの他人を近親者や恋人と思い込ませるマインドコントロールを施されるのですが」
「分室で目覚めた者は、違うと?」
「精神は極めて安定していました。同じくプル・シリーズの個体が共生していましたが、そちらも比較的健全です。精神年齢は幼いようですが、これはクローンの基となった少女が色濃く反映されたためと思われます」
ナナイの報告を受けて、ミネバはそうか、と頷いた。
「彼らはここに来るだろうか?」
「近日中に、必ずや。どんなに強靭な肉体を持とうと、崩壊した世界をたったふたりで生き抜くことは不可能です。遅かれ早かれ、彼らは人手を求めてラスベガスを訪れるでしょう」
ふたりの目線が執務室の窓に向く。高層階から一望できるラスベガスの町並みは、崩壊前よりも混沌として、むしろ活気づいている。
その日のパンを求めてさまよう浮浪者の一群。夜のお相手を強引に連れ込む男女の娼。カジノの外でも大小様々な賭けに励むグループ。勢力争いに血を流すマフィア・ヤクザ・半グレ・ストリートチルドレン。違法改造されたロボット同士が戦うコロシアム。血と汗と涙、あらゆる体液が街中で流されては、富と快楽と尊厳の洪水で洗い流される。
数十年が経とうと、この街は変わらなかった。いや、この街に生きる人々は変わりたくなどなかった。それまでに送っていた日常を維持することを選んだのだ。ドームの外がより過酷さを増していく現実から目を逸らして。
───とどのつまり。世界が崩壊する程度では、人間は変わらないのだ。
「会ってみたいな、私も」
「ゲートに人を手配しておきましょう。横槍が入らないよう、万全をもって」
今日もラスベガスの夜が更ける。ふたりの業務は、遅くまで終わることがなかった。
『当面の問題はこれで解決された。今後は解放したエリア毎に定点観測ポイントを設置し、地中に異変が見られればバグを投入する形で対処するとしよう。オートメーションもすぐに稼働される』
『分室からラスベガスまでの距離はおよそ105Kmだ。まずはルート上の群れを殲滅し、10Kmを目処に観測を重ねていく。残念ながらテリトリー外なので中継拠点は作れないが、いずれはラスベガスの有力者と交渉の場を持ちたいところだな』
『遠征中の武器弾薬はドローンによる空輸でその都度補充してくれ。ハーベスター・システムの存在を外部に知られるわけにはいかない。必ずや悪用する者が現れるだろう』
『……12004。それにプル・オルタ。このラスベガス遠征が、君達のこれからの社会経験に繋がるように祈っているよ』
おしまい