時系列的にはニカドリー倒しに行く辺りでの話ってイメージです!!!
「銀河を漂うただの二つの魂として......か」
プライベートルトロに戻った俺は、記憶の中で言われた一言を反芻していた。
新しく仲間になったこのピンクのケモ――――ミュリオンは不思議な奴だ。
モフりがいのあるいかにもマスコットなルックスで、ゴミのように(けなしてるわけじゃないぞ)宙に浮き、俺にだけわかる言葉をしゃべる。
それでいて俺の微かな記憶を元に幻覚まで見せてくる。
「こんなこと言われるなんて俺、やっぱりホタルとの間にフラグ立ってるよな......」
「お前はその桃色の生物に何を見せられたんだ......」
同居人であり、今では姫子のコーヒーのまずさを共有できるただ一人の友、丹恒が嫌味なく呆気にとられた目線を向けてくる。
俺は丹恒に、ミュリオンが見せてくれた幻覚の中でかつての仲間と出会ったことを話した。
「でもそう言われるとかえって気になっちゃうんだよなぁ、俺がホタルと一緒だったときのこと」
俺がミュリオンの幻覚で会った銀髪の少女――――ホタルは、かつて俺と一緒に旅をしていたらしい。
「らしい」というのは、俺がその頃の記憶を失っているからだ。
彼女とはその後ピノコニーという星でも出会ったが、それはあくまで夢の中でのことだったし、そこで彼女について知ったことといえば、「俺が護る!!」と言いたくなるような可憐な子だということ、そのくせして実は星核ハンターの一人で腕が立つこと、オークロールが大好きなこと、日々を全力で楽しもうとしている愛しい子だということ......ぐらいだ(といいつつ意外とあるか)。
俺とホタルの関係性――――いつ出会って、どれくらい一緒にいて、周りからはどんな間柄だと思われて、どうして仲間になれたのか............そういうことは、一切覚えていない。
「過去を掘り返しても仕方ないと、なのにも言わなかったか?」
「うっ......そういやブーメランか」
俺は思わぬ正論パンチに撃破されてベッドの上でうずくまった。
確かに過去を思い出そうとすることはいいことばかりじゃないかもしれない。
黒歴史だってあるかもしれないし(俺のことだ絶ツツツツツ対ある)、第一あの幻想の中で出会ったホタルも「今までのことはすべて忘れて」もう一度会いたいって言ってた。
むしろ彼女のことを想うなら忘れてしまうべきなのかもしれない。
けど........................
――人間とは、ダメとわかっていることほどやりたくなる生き物だ。
たしか天才クラブの誰かが「カリギュラ効果」って言ってたっけ?
ゴミ箱を漁る衝動すら抑えられない俺だ。ましてやホタルとの今まで、ホタルとの馴れ初めを思い出したい欲求なんて、絶対に抑えられない。
「丹恒」
「なんだ」
俺は思い立つと同時に、必死にスマホを弄りながら同居人に訊いた。
「お前、暇なときいっつもアーカイブの整理してるよな?」
「急にどうした」
「だったら、この手のデバイスの内臓データの場所とか、復元方法とか、わかったりするか??」
冷静に考えると、孫にPCやスマホの操作を教えてもらうおじいちゃんみたいだ。
「俺、記憶はなくしちゃってるし、スマホにもパッと見あの頃のデータは残ってないみたいなんだけどさ......ほら、削除したデータでも内臓チップに残ってて復元できるってことたまにあるだろ? だからあの頃のデータ—――メッセージのやり取りとかみんなで撮った写真とか、復元できたりしないかなって思うんだ。......もしかしたらそれがあれば俺、あいつらとのこと何か思い出せないかなって」
「............」
同居人はやれやれとばかりに気難しそうに黙り込む。
今は火追いの旅の真っ最中。コイツも疲れているだろうしもっと他にやるべきことがあると言われても仕方ない。
「......まぁ、人は過去への思いをそう簡単に切り捨てられるものではない、か」
――――が、コイツはそこまで非情でも堅物でもない。
クールキャラだがなんだかんだ友情は大切にしてくれる奴だ。
それに――――
「ほら、貸してみろ」
俺はスマホをパスする。
「............次天外に戻ったら、また鱗淵境に立ち寄ってみるのもいいかもしれないな」
それに、コイツ自身もかつての仲間達との間で色々あった身だ。
だから多少なりとも理解を示してくれるはず、それも見込んでここは頼んだ。
「これって............確かオークロール、、、だよな?」
しばらくして丹恒から返ってきたものは、一枚の写真だけだった。
それも俺とホタルの関係の核心に迫るような、期待通りの代物ではなかった。
映っていたのは真っ黒に焦げたお菓子だけ。
「すまないが、俺に見つけられたのはこれだけだ」
「............あ、ありがとう」
もっとこう、大事で決定的なものが見られると思ってた俺は、肩透かしにあったような気分だ。
ていうか他のデータはことごとく内臓データからも消されてるのに、なんでこの一枚だけが残ってるんだ?
一枚だけ残すなら、もっとあったろ...........こう、大事なやつが!!!!
「それは違うわ!」
「「!!!!!」」
そのとき俺の傍にまたミュリオンが現れた。
「これもまた、だいじなきおく............よびおこす!!!」
「!!!!!......これは」
丹恒から見たらまたコイツが「みゅうみゅう」言って俺の意識が遠のくだけなんだろう。
――だがコイツの力はパチモンじゃないらしい。
とたんに俺の口の中にほろ苦く、ほんのり甘い思い出が広がっていった。
そうか、頭では忘れてしまっても、身体は覚えていたんだ。この味は確か――――
「大変!!!」
息を切らした声とともに、勢いよくドアが開け放たれる。
物音に反応してそちらを向けば、そこには見慣れないエプロン姿でひどく焦った様子の――――
「ホタル!?!?!?!!? 本物!?!!?!?」
俺は何故か握っていたゲームのコントローラを置き、立ち上がって彼女に向き合った。
そして目の前の信じがたい光景が夢じゃないと確かめるべく、彼女の白んだ頬に手を伸ばす......。
「ちょっと......どうしたの!? 急に!!!!/////」
もちもちとした感触。よかった、これは......
「夢じゃない!!!!!」
俺はひとりでに、場違いな笑みをこぼしてしまった。
「もう穹何......? あたしの顔蟲でもついてた??」
しなやかでスベスベしたほっぺをつままれながら、ちょっと引いてるホタル。
悪い。いや本当に申し訳ないけど............かわいいが過ぎる。
「うわマルチ中に急に放置とか流石にナシだわ、私とだったからまだいいけど、野良だったら今頃掲示板で晒されてたぞ??」
今度は左からも声が聞こえた。
そうだ俺、、、そういやなぜかゲームしてたんだった......あれ?
声の主――――かつての俺の仲間の一人、銀狼は不服そうにSTARTボタンを押してくれていた。
「で、どうしたの、ホタル?」
前を向き直るとホタルは、思い出したようにここに来た訳を話し出した。
「あのね、二人共。前にカフカが買ってきてくれたお土産に"おーくろーる"っていうお菓子があったでしょ? あたしアレがまた食べたくって、ネットで調べたらレシピも見つかったし作ろうと思ったんだけど......」
ホタルはエプロンを引っぱり上げて間近で見せてくる。
――――フリルをあしらった可愛らしいエプロンは、見るも無惨に焼け焦げていた。
焦げ......オークロール.........そういうことか
俺は自分がミュリオンの見せた記憶の中にいると思い出した。
あのオークロールの写真を見て蘇った断片的な記憶を元に、ミュリオンが過去の一場面を復元して追体験させてくれてるんだ!!!!!
「火加減間違えて大惨事に............って?」
「......うん」
「ホタル、怪我とかしてないよな!?!?!?」
俺はとっさにエプロンの向こうのホタルの身体を凝視した。
顔も腕も、見たところ火傷やすすの跡は付いていないようだ。
「ホタル自身よりも、キッチンが無事かを心配した方がいいでしょ。元々ホタルは熱に強いんだし」
「穹、真っ先に心配してくれてありがとう、私は大丈夫。あと銀狼、キッチンも火事とかにはなってないから平気だと思う。すすとかも掃除はしたし......」
「じゃあ何でそんな必死に助けを求めに来たの.......?」
「それは......」
ホタルは一旦キッチンへと戻ると、俺たちの前に俺達の前に例の特級呪物を持って戻って来た。
――――焦げたオークロール改め、ダークマターだ。
「これ、材料代そこそこかかったから、捨てちゃうのもったいなくてどうしようって..........」
俺と銀狼は、血の気の引いた顔で目を見合わせた。
製造者責任でホタルに全部食べろというのはナシだ。ただでさえ余命が短いとされている彼女に、変なモノ食べさせて更に体を壊させるわけにはいかない。
他の仲間――――刃やカフカは生憎出払ってていない。
これを今どうにか処理できるのは俺たち二人だ。
「穹が食べてあげれば? ゴミ漁ってる悪食だし、このくらい大丈夫でしょ??」
「そ、そういう銀狼だって食べてもいいんだぞ!? いつもポテチとエナドリばっかでたまには違うもの食べた方がいいだろ!?」
「話し合いでは決着付かなそうだね......ならこれで決めない?」
そう言うと銀狼はゲームのホーム画面から2D格ゲーソフトを起動した。
俺たちにとっては白黒つけるこれ以上ない手段だ。
「おう、その勝負受けた!!!」
......こうして俺たちの絶対に負けられない戦いがはじまった。
大体どうしたらあんなマンガみたいな焦げ方するんだよって思う。料理失敗するにしても普通はあそこまでインパクトある代物にはならないはずだ。
それがかろうじてオークロールのシルエットを保っているとはいえ、ほぼ純粋な炭素の塊みたいなお菓子になって出てきたのだ。
全身の細胞が本能で訴えかけている、アレを口にしてはならないと――――――!!
「二人とも......」
真剣勝負に熱中している俺たちの後ろで、ホタルはぬいぐるみを抱きしめながら行方を見守っていた。
「よし、これで勝つる!!」
絶対に負けられないという意気込みがあると、意外とやれるものだ。
ゲーム全般強い銀狼相手に、珍しく俺が押してる。銀狼のキャラを壁際まで追い詰め、あとコンボを決めれば勝てそうだ!!
「あたしのために争わないでぇぇえええええええええ!!!!!!!!」
その瞬間、すべてが狂った。
「あ」
動揺した。動揺してしまった。
ホタルの悲痛な叫びに............。
俺のキャラはあと一歩のところでコンボを外し、返す刀でクリティカルを決められてKOした。
まあ攻めることに夢中でスリップダメージ喰らいまくってたのも痛かったんだけど。
「よし! 私の勝ち!!」
銀狼は二カッと笑い得意顔だ。
俺は茫然と振り返ったまま、ホタルと目を合わせていた。
「穹、銀狼............ごめんね。やっぱりこれ、あたしが全部食べるね............」
「............」
「どうしようか迷って二人に相談しちゃったけど、やっぱり迷惑だったよね。さっきの白熱っぷりから二人の本音が滲み出てた......」
ホタルが申し訳なさそうにしてる。ここは気を使わせたくない......!!
「待って!! 俺から食レポリアクション芸やるチャンスを奪わないでくれ!!!!! 俺のメンツのためにも見せ場は盗らないでって」
「勝ち負けでどっちが食べるか決めるって言った手前、今更前言撤回で罰ゲームなしなんてダサいもんね」
銀狼も意地悪な笑みを浮かべて加勢してくれた。
......もうここまできたら腹を括ろう。
「......じゃ、じゃあ............一緒に食べる、穹?」
俺は静かに頷いた。
「こういうとき、確か『あーん』って言えばいいんだよね?」
信じられないと思うが、ありのままを話そう。
俺は今焼き菓子の試食のために座っている。
細長いテーブルを挟んで向かいに座っているのは、どこか儚さを感じる銀髪の美少女。
素朴な美しさを感じさせる波打った髪に、シルク地のような肌。もっと近づければ、お香のような切なく胸に残る香りがしそうだ。
そんな子が、、、今!! 俺に!!! 「あ~ん」をしてくれようというんだ!!!!
世の紳士が同じ状況になれば皆血涙を流して悦ぶだろう。
もっとも、「あ~ん」する物が"アレ"じゃなければ............
俺はおそるおそる、ホタルが差し出してくれたダークマt......もといオークロールの一欠片に口を近づける。
「ぷ! 仲良しじゃんw」
横からその様を眺めていた銀狼が、茶化してくる。
......このアマ後で覚悟しろよ
「銀狼!! そんなに羨ましいなら、さっきのゲーム初手で自滅すればよかったじゃん!」
「はいはい......」
俺の代わりに釘を刺しといてくれたホタルの、心なしか少し照れくさったような表情もまた可愛いかった。
眼前に迫った物体X。ホタルの焦土作戦のせい(?)か表面は黒焦げで、ボロボロに崩れていて、なかなか厳つい見た目をしている。
それでももう後に退けない俺は、ならばひと思いにと、それを素早く口に入れる。
目を瞑って、なるべく噛まず味わわず、するりと呑み込んでしまおう......それで美少女の「あ~ん」を一回消費してしまうのは、我ながらすげぇ勿体ないと思うけど!!!!
「............っ!!」
......こういうときに限って、それでも味というのは舌に喉に、深く焼き付いてしまうものである。
―――が、
「あれ? ......オークロールだ」
厳つい表面の見た目に反して、ほろ苦い焦げの層が崩れ落ちた先には、ほんのり甘い"オークロール"の層が残っていた。
ああ、そうか......あのとき写真で思い出した味って......
「ホタル、......ありがとう。これ、美味しい!!」
「穹、お世辞はいいから......」
「いやお世辞じゃないって!! 外は確かに焦げてるけど中は甘くてふんわりしてて、むしろ外側とのギャップが中和されていい感じなんだ!」
「本当......? じゃああたしも食べてみるね..................あれ、思ったより悪くないかも」
「だろ!?」
「なんだ私だけ食わず嫌いして損したみたいじゃないか!!」
銀狼は今更のように悔しがっていた。
「こういうことってあるんだね............見た目めちゃくちゃなのに中身は美味しいって」
「そりゃ......サムだってあんな厳つい見た目で中身がこんな美少女だなんて、誰も思わないだろ?」
「もう穹......、何に例えてるの!!!!!!////」
「その言葉選び、さすが隠れてギャルゲーやり込んでるだけのことはあるよねw」
「おい!!!!」
こんな和気あいあいが、ずっと続けばいいと思った。
けどこの
だからせめて......"形”に残したい。
「ホタル」
俺はスマホを取り出し記念に真っ黒なオークロールの写真を撮る。
そしてその間際、こう告げた。
「いつか本場のオークロール、食べに行こうな!!!!!」
気が付けば、俺はプライベートルトロのベッドの上でスマホを構えて虚空を見つめていた。
はっと我に帰ったときには、ホタルも、銀狼も、オークロールもない喪失感で、俺の双眸からは涙が溢れ出ていた。
......そりゃ夢から覚めるのは怖いわけだ。夢の泡の中毒になる奴も出てくるさ。
だってもう......あんな日常は............
「その様子だと"戻って"きたのか、穹」
俺の様子を見て察したのか、同居人の丹恒は声をかけてくれた。
ミュリオンの方は............空気を読んでそっとしといてくれたのか、はたまた力を使い果たしたのか、いつのまにか虚空に溶けていなくなっていた。
「ま、ずいぶんと独り言が多かったから今度はどんな内容だったのかなんとなく想像もつくが」
あれ全部聞かれてたのか。普段なら恥ずかしがって否定に入るところだが............
生憎今は放心状態、そんな気力も出なかった。
「なあ丹恒、ありがとな。俺、わかったわ。仲間との関係性って、続柄とか一緒にした偉業とかもあるけど、結局はささいな日常の積み重ねでできてるんだなって......」
丹恒はゆっくり明後日の方向を向いて頷いた。
「そうだな......そうかもな」
俺はただ床に崩れ落ち、ルサカが沈むくらいの涙を流した。
「銀河を漂うただの二つの魂として」、本当にまた
星核ハンターと星穹列車は光と影で、その進む先は交錯するとは言うけれど。
普通に考えれば広い銀河の中でただの二つの魂が巡り合う確率は、きっと天文学的に低いんだろう。
それでも......それでももし、また奇跡的に
..........
「銀狼、穹のスマホのデータ、完全には削除してないわね」
「あ、バレた?」
「まぁいいわ、別に"脚本"には反してないし」
「なるほど、エリオもそこまで鬼じゃないと――――」