起きろユズ。   作:Raitoning storm

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一年生、4月
Helllo,world!


「…おい、起きろユズ。」

 

 

「…うぇ?な、なに…?なにかあった…?」

 

 

「さっきからプログラムがエラーってばっかり言ってくる。でも俺はどこが間違ってるかまったくわからん。見てくれ。」

 

 

「…え?あ、うん。えっと…あ。」

 

 

「何かわかったか?」

 

 

「これ、全角入力になってるよ。ほら、この部分。あと『””』も忘れてる。」

 

 

「…またか。すまんユズ。…もう2時じゃん。寝てくれ。」

 

 

「え、うん…桜くんも、早く寝てね?」

 

 

「眠くなったら寝る」

 

 

「…じ、じゃあ、おやすみ。」

 

 

「…ああ。おやすみ。」

 

 

なぜこうなったのか。なぜ花岡ユズが一人でゲームを作っていないのか。なぜ彼女がロッカーに引きこもっていないのか。話は2ヶ月前、4月の入学式まで遡る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミレニアムサイエンススクールの入学式。キヴォトスの中でも難関と言われる入学試験を突破したものが、その祝福として行われる式典が、始まる3時間前。

 

 

せっせせっせと生徒が、ロボットが、オートマタが、装飾やら看板やらを運び、調和…は取れていないかもしれないが、それぞれの持つ個性を存分に発揮して、よりよいものを作ろうと努力していた。

 

 

電子端末を持ってロボットや生徒たちに指示を出している者や、議論を重ねているその様子を見れば、彼女らが新入生のことをどれだけの心待ちにしているかがわかるだろう。…一部の者はあまり乗り気では無いようだが。

 

 

 

…そして、その様子を遠くから眺める、一人の男子生徒がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間後。ミレニアムの校門は新入生でごった返していた。

 

 

ゲヘナやトリニティほどではないが、ミレニアムも中々のマンモス校。互いの入学を讃えあう者、親族の入学を祝う者、その他大勢。

 

人が、多かった。

 

 

「ノア!早く行きましょ!受付を済ませないと!」

 

「ユウカちゃん。まだ締切まで時間はありますよ?それにそんなに急いだら人に…」

 

「何言ってるの!もう部活動の展示始まってるのよ!?それに今年はエンジニア部が…」

 

 

そんな会話がかき消されるほど、校内は喧騒に満ちていた。そして、『桜』もまた、その喧騒の中で前に進んでいた。

 

 

(…人が多いとは聞いていたが、まさかここまでとはな。見たところ、去年よりも新入生が増えてないか?最近はミレニアム関連の記事をよく見るし…才能がある生徒を少しでも取り込みたいのか。)

 

 

思考を続けながら周りの人を避ける。なにしろ周りの生徒はもれなく女子。面倒なことは起こさないに限る。

 

 

(…流石に混みすぎだな。面倒だし…端っこの、少しでも空いている方行くか。)

 

 

そうして、端っこの方にある…ゴミ箱の近くに寄ったとき、

 

 

「…何してんだ?あんた」

 

 

少しだけ、何かが変わった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花岡ユズは、人混みが苦手だ。

 

というよりも人が基本的に苦手だ。

 

誰かに話しかけられることも同じ空間に居続けることもできるだけ避けてここまで生きてきた。

 

そんな彼女も、自分の中にあるミレニアムサイエンススクールへの憧れを叶えるために、勇気を振り絞ってここまで来た…のだが。

 

来てわかった。今日の入学式までの道のりは彼女にとって地獄も当然だった。

 

見渡す限り、人、人、人、ちょっとロボット。

 

(この状況は…やばい!)

 

常時特殊ダメージを受け続けているような気分になりながら、少しでも人がいない…ゴミ箱の近くまで歩き、座り込んだ。

 

とっくのとうに顔は青ざめており、目は苦しそうに閉じている。

 

(…やっぱり、来るべきじゃなかったのかな。ミレニアムに通えるって思ったのに、これじゃ登校もままならないよね。)

 

特殊ダメージによってライフゲージが6割ほど削られてしまった影響なのか、どうしても考えが悲観的な方向に寄ってしまう。

 

(きっと今の私も周りから変な風に見られてるだろうし…今日はもう帰ろうかな…。入学式に来なかったからって退学になるわけじゃないし…。)

 

半ば諦めているような考えを巡らせ、足に残った力をこめ立ちあがろうとする…が、

 

 

 

「…何してんだ?あんた」

 

 

「…うぇ?」

 

 

「こんなところに座り込んで…体調でも悪いのか?保健室ならあっちだぞ」

 

 

そう言って向こうのほうに指を指す。

 

 

「…あ。いや、そういうわけじゃなくて…その、帰ろうかなって…」

 

 

「…なんでだ?何かあったのか?」

 

 

「………人が、たくさんいるから…」

 

 

勇気を振り絞って出た言葉は、一見すれば馬鹿馬鹿しい理由に聞こえたかもしれない。だが、

 

 

「…ちょっと来い。」

 

 

「…えっ。あっ、な、何…?」

 

 

「いいから来い。受付済ませるぞ」

 

 

「…えっ!?いや、さっき私帰るって…」

 

 

「入学初日から欠席するやつがいるか。不良生徒もいいところだぞ」

 

 

「…そ、それは…そうだけど…」

 

 

「自分のクラスも、まだ部活紹介も見てないんだろ。せめてそのくらいはやってから帰れ。クラスも知らないでどうやって明日から登校するつもりだ?」

 

 

「う”っ」

 

 

正論という名の暴力を喰らいながら、手を引かれ受付へと導かれるユズ。

 

 

「ほら、合格証書。早く出せ。」

 

 

「う、うん。えっと…お、お願いします。」

 

 

「はい。花岡ユズさんですね…こちらが生徒証になります。」

 

 

「は、はい。」

 

 

「ご入学、おめでとう御座います!」

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

 

「そちらの方は?生徒証は…」

 

 

「…これでいいですか?」

 

 

「はい。桜さんですね。こちらが生徒証になります。」

 

 

「ありがとうございます。ほら、行くぞ。失礼しました。」

 

 

「あっ、ありがとうございました…」

 

 

「お気をつけてー!」

 

 

そのままの勢いで部活紹介ブースへと一緒に向かうユズ。

 

 

「…さ、桜くんって言うんだね。名前…」

 

 

「…まだ名乗ってなかったな。悪い」

 

 

「いや、気にしてな…き、気にするべきだったのかな…?」

 

 

「…まあいい。ほら、着いたぞ。」

 

 

見渡す限り、様々な部活を紹介するブースが並び立つ。

 

 

「…せっかくミレニアムに入学したんだ。部活も何もしないで3年間を過ごすのは苦だろ。なによりもったいない。少し見て回れ」

 

 

「…う、うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうだ?良さそうな部活はあったか?」

 

 

「…」

 

 

顔を見れば分かる。おおよそ、部活のキラキラとした雰囲気にやられたんだろう。

 

 

「…まあ、いいんじゃないか?無理して部活に入るのもどうかと思うし、他のことを極めても…」

 

 

「…」

 

 

一応、ここまで連れてきた身として、慰めの言葉をかけておくが…ユズの目は虚で、彼方の方へと向かっていた。

 

 

「…あっ」

 

 

「…どうした?」

 

 

ユズがようやくその目に光を宿したと思うと、一つのブースに目を向けていた。

 

だが、部員らしき人は一人もいなくて、簡素なパソコンとゲームソフトが一つあるだけだった。

 

 

「…すみません。このブースって」

 

 

「ああここ?ゲーム開発部っていうんだけど、今部員が一つもいなくてさぁ…仕方なくものだけ置いてる感じ」

 

 

「…なるほど。おい、この部活にするぞ。」

 

 

「…うぇっ!?」

 

 

 

 




好評だったら続けます。
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