魔法少女が終わらない! ~陰謀もギスギスもドロドロもありな全員死亡のバトルロイヤル展開から時間逆行魔法を駆使して目指せ大逆転ハッピーエンド!~   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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14-3.最強vs最優

 

 観客の中の誰かが気づいた、あれ、なんだか暗いな、と。

 ざわざわと動揺が広がり、そして示し合わせたように顔を上げ――――彼らは見た。

 

「え………………?」

 

 七万人の観客を収容できる、開放型の巨大ドーム。

 そこから見えるはずの青い空が、消滅していた(、、、、、、)

 黒だ、黒一色。純黒の天蓋。

 

「要するに――――こういうことでしょ」

 

 誰の仕業かなんて、考えるまでもない、こんな事できるのは、一人しかいない。

 

 

 

これを喰らったらただじゃすまない(、、、、、、、、、、、、、、、、)、ってアンタに思わせればいいのよね?」

 

 

 

 ――――あれ、全部《魔力光(エーテルライト)》?

 

 私たちは各校の観戦席――ドームの一番低い位置の、端っこにいるからぎりぎり見えた。黒い天蓋の端に、わずかに青い空が見える。

 

「ファラフ、あれって……」

 

 僕らの頼れる分析役、ファラフにちらりと解説を求めると……。

 

「ファラフ!? し、しっかりせえ!」

 

 ファラフが泣いていた、ミツネさんに縋り付いていた。

 なまじ、あれの詳細がわかってしまっているからなのだろうか。ガチガチ歯を打ち鳴らして、ガタガタと震え、あまりの怯え方にミツネさんまで動揺している。

 

「あ、あれ、あれぇ…………お、大きな、大きな、『堕獄天(ゲヘナ)』…………」

 

 私が質問してしまったせいで、ファラフはそんな状態でも律儀に返答してくれた。

 

 クァトランが結構乱発する得意技、でも、プレシャスには通じなかった。

……つまり、あの蓋の正体は、ドームの直径を上回る、巨大な《魔弾》、ってことだ。

 

「あ、あの中にも、小さな……あの、小さいって言っても、さっきの、やつより、何倍も大きい『堕獄天(ゲヘナ)』が、沢山、沢山、あってぇ……も、もしあれ、こ、ここに、落ちてきたら」

 

 あ、ファラフの震えが止まらない理由がわかった。

 

「み、皆、し、死んじゃう」

 

 …………―――いや、クァトランも流石にそこまではしない、しないよね?

 しないはずだけど、じゃあ、アレ、どうやって使うんだ?

 

 『堕獄天(ゲヘナ)』っていうなら、また圧縮してプレシャスに向けるのか――あのサイズをどこまで圧縮できるんだろう。

 そう考えていたら、ファラフは首を横に振った。

 

「ち、ちがくて、あ、あれ、あれ…………」

「落ち着いて、ゆっくり話しなさい。アレは何? どうなるの?」

 

 流石にやばいと思ったのか、委員長まで会話に参加してきた。ふう、ふう、と深呼吸を繰り返し、ファラフは……やっと口を開いた。

 

 

「あれが、一番圧縮された状態なんです(、、、、、、、、、、、、、)…………」

 

 

 …………………………私はその言葉の意味を噛み締めてから、もう一度空を見た。

 

 えーと、このドーム、直径どれぐらいだっけ。まず試合しているリングが一〇〇m四方のはずだから…………いや、計算しても意味ないか。うん、つまり、あれはもうアレ以上小さくならなくて……………………いや、その、ねえ、クァトランさん?

 

 プレシャス・プリンセスはどうだ? 魔法少女(せいぎのみかた)! あの! なんとかしてもらえるんでしょうか!

 

「………………………………」

 

 冷や汗だらだらだった、え、本当にどうするつもりなの? と顔に書いてあった。

 クァトランはにこ、と笑い、言った。

 

「安心しなさい、あんなモン、こんなとこに落とすわけ無いじゃない」

「そ、そうだよね。流石にそんな事しないよね! ……じゃあどうするつもり?」

「決まってるじゃない」

 

 クァトランは笑顔のまま、反対側の手を向けた。

 

 

 

 

アンタが行くのよ(、、、、、、、、)

 

 

 

 

「きゃあああああああああああっ!?」

 

 ぐいん、と唐突に、プレシャスの身体が宙に浮いた。

 違う、何かに引っ張られてるんだ、あれは………………。

 

「『闇獄廊(アビス)』」

 

 黒いドーナツ型のリングから伸びる、《魔力(エーテル)》の帯。

 クァトランが《箒競争(ブルームレース)》の練習中に海に突っ込んだ時に、自分を引き上げるのに使って。

 

 ファラフがそれを模倣して、《箒競争(ブルームレース)》の決勝で勝利の鍵となった技。

 

 それがプレシャスに張り付いて、彼女を思い切り弾き飛ばしたのだ。

 更に向かう先にも、いつの間にか『闇獄廊(アビス)』が設置されていた。そこを通過すれば連続で弾き飛ばされ、上へ、上へ、上へと運ばれていく。

 

「アンタの固有魔法(オリジン)の弱点は、何でもかんでも無効化するわけじゃないってこと。効果もダメージも、受けた上で理想を体現し続ける(、、、、、、、、、、、、、、)

 

 だから強制的に移動させるような技は、たとえダメージが入らなくても、それそのものは通じてしまう。

 

 人々が、そしてプレシャス自身が求める『理想の姿』とは。

 一切の傷を負わない絶対無敵の魔法少女ではなく。

 

 何があっても退かず、誰が相手でも立ち向かう、魔法少女(せいぎのみかた)の姿だから。

 

「――――――――――!」

 プレシャス・プリンセスが、ついに黒球の中に飲み込まれた。

 

「『万魔殿・天獄圏(パンデモニウム)』」

 

 全ての音という音が消滅し、数秒後。

 黒球が、天空で弾け、今度はもう正真正銘、嘘偽り無く、言葉通りの意味で――空が黒に飲み込まれた。

 

 例えるなら、花火だ。それも、黒い花火。ただしそれは殺傷力と破壊を伴い、中の誰かを徹底的に蹂躙し尽くすことのみを目的とした文字通りの天獄圏。

 

 実に一八〇秒――三分間、空に築かれた万魔殿(パンデモニウム)は、最優の魔法少女を襲い続けた。

 

 その余波が暴風となってドームを襲い、そして悲鳴や絶叫も、かき消された。

 

 そして――――やっと圧縮された《魔力(エーテル)》を使い果たし、空に青空が戻ってくる頃。

 

『ああっ!』

 

 実況が叫んだ。そういえば、もう何も言ってなかったなこの人。

 

『プ、プレシャス・プリンセスが――――――』

 

 ……居た。どこまで高く打ち上げられたのかと思ったら、はるか上空、点みたいなサイズだ。

 

 《桜花の剣(アンルージュ)》はまだ握っているものの、コスチュームが半壊し、頭を下にして、力なく落下してくる。ここからじゃ表情が見えない、気を失っているのか、それともまだ意識はあるのか。

 

「なんであの人、原型をとどめてるんですか……?」

 

 ファラフのつぶやきは聞かなかったことにした。友達がそんなもんぶっぱなしたとは思いたくなかったので!

 これが……これが最強と最優の戦いの、決着。

 

 理想を体現しきれなかった、魔法少女(せいぎのみかた)の限界。

 

 体感的にはとても長い――だけど現実的には、ごく短い、たった数秒の落下時間。

 

 誰もが息を呑み、誰もが言葉を失った。

 やがて、狙いすましたかのように、リングの中央に叩きつけられる――――その瞬間。

 

 プレシャス・プリンセスは、身を翻し。

 落下の勢いすら利用して。

 

「――――――!」

 

 なおも絶えない、まばゆい輝きを放ちながら――――クァトランに詰め寄り、《桜花の剣(アンルージュ)》を、その頭部に向けて叩きつけた。

 

 ……クァトランの固有魔法(オリジン)はまさに絶対無敵だが、一つだけ弱点がある。

 

 自前の角と、髪の毛を結い上げた角。合わせて四本の角を維持していないと、悪魔たちの反逆を受けてしまうこと。

 

 恐らく世界で唯一、クァトラン・クアートラを殺傷する手段であり、それ故に髪の毛に触れられることを、極端に嫌がる。

 

 三〇分から一時間ぐらいであれば、自力で抑え込むことも出来るらしいので、私はよく髪の毛のケアを命がけで手伝わせていただいているのだけど。

 

 

 

 もし――――自前の角が折れてしまったら(、、、、、、、、、、、、、)

 

 

 

 

 クァトランには誰も勝てない、だからそんな心配、いらないはずだった。

 だけど、アレほどの大技を使った直後、勝利を確信した一瞬の隙をついた、渾身の一撃を――あのプレシャス・プリンセスが固有魔法(オリジン)と共に放ったら?

 

 …………この一戦が、もし誰かに仕組まれたとして。

そうだ、来賓は、《ツヴァイア帝国》からだけじゃない。

 

 何も知らないプレシャス・プリンセスを盤上にあげたのも、強引に組まれたエキシビションマッチも――――――全て全て、最初からそれが目的だったとしたら?

 

 答えは、目の前でもたらされた。

 ガギィイイン、という甲高く響く金属音。

 

「…………悪いけど」

 

クァトランの角は、《桜花の剣(アンルージュ)》の刃を、正面から受け止めていた。

 

「そこ、私の身体の中で一番硬いトコなのよ」

「…………なぁるほどぉ」

 

 剣を振り抜いた姿勢のまま固まるプレシャス・プリンセス。

 再び手に《魔力(エーテル)》を収束しだしたクァトラン・クアートラ。

 睨み合う二人が次の動作を起こす、その直前で、

 

 

 

 

『――――そこまで! 十五分が経過しました! エキシビションマッチ、終了です!』

 

 

 

 

 

 慌てた声で、実況が割り込んだ。

 …………あ、そっか、別に勝ち負けを競うんじゃないのか。

 時間制限付きの、親善試合みたいなもんだった。

 

「なんだ、もう終わり? もっと続けても良かったのに」

「や、私はちょっと……こ、困っちゃうなあ! もう、プレシャス・プリンセス、一番の強敵だったよ!?」

 

 先程まで凄まじい戦いを繰り広げていた二人は、横に並び、そんな言葉をかわし合っていた。

 

「引き分け……かな? いや、うん、自分を甘やかしました。トータルで見たら、私の負けだね。正直、耐えるので精一杯だった。無理かも、って思ったし。最優の魔法少女は、返上しないといけないかも……ほら」

 

 プレシャスが、《桜花の剣(アンルージュ)》を掲げてみせた。

 クァトランの角と打ち合った部分に、わずかだが罅が入っている。

 ……こ、こいつ、一日に二本聖剣をへし折るところだったのか。

 

「これ以上無茶したら、この子が保たないかもだし、どっちにしても私はこれ以上、戦えなかったかな。だから……キミの勝ちだ、クァトラン・クアートラちゃん」

 

 自身の敗北を認め、《桜花の剣(アンルージュ)》を鞘に納めてから、プレシャスは右手を差し出した。

 その言葉に、クァトランは、大きく大きく息を吸って、吐き出した。

 

「勝ち負けも何も無いでしょ、アンタ、本気じゃなかったじゃない」

 

 その言葉に、会場がまた、ざわ、とどよめいた。

 

「え、ええ? そんな事ないよ、私、本気だったよ?」

「そうじゃなくて……あーもー、面倒くさいわね」

 

 言葉通り、本当に面倒くさそうに、クァトランはびし、とプレシャスに指を突きつけた。

 

「こんなところで、お偉いさんに命じられて、ケジメを付けさせる為の戦いで本気になるのが、理想のアンタ(、、、、、、)?」

「――――――」

「アタシは興味ないけど。私の友達が好きなアンタは」

 

 そっぽを向いて、面倒くさそうに、茶番をごまかすように。

 

誰かの為に戦う姿が誰より格好いい(、、、、、、、、、、、、、、、、)――らしいわよ」

 

 その言葉は、多分、誰よりも、私に――――突き刺さった。

 

「………………あはっ」

 

 憧れ(プレシャス)は、ぽかん、とした後、あは、と心から楽しそうに笑った。

 

「あはははははっ! それ言われたら、もう、余計に負けたーって思っちゃうな!」

「どっちにしろ、最優なんていらねーわよ、私は不良で悪い子なの」

 

 ひらひらと手を振りながら、今度こそクァトランは、こっちに向かって歩き出した。

 

 

 

「だから私は、最強でいいわ」

 

 

 

 そして、私たちの前に戻ってきたクァトランは、得意げに、満面の笑みで、こう告げるのだ。

 

「どうよ、凄いでしょ、私」

 

 凄いよ、と言いたかった……んだけど、それよりも先に。

 

「――って、ファラフ、どうしたの? 泡吹いてるけど」

「あああああ恐怖で気絶してるぅ!」

 

 大慌てになる私たちのベンチを他所に、会場を揺るがす大歓声が、響いた。

 

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