魔法少女が終わらない! ~陰謀もギスギスもドロドロもありな全員死亡のバトルロイヤル展開から時間逆行魔法を駆使して目指せ大逆転ハッピーエンド!~ 作:天都ダム∈(・ω・)∋
「クァトランってどうやったら殺せると思う?」
私の、そのあまりにささやかで、拙い、微笑ましい質問に。
「――――――あーっはっはっはっはっはっはっはっははははははははっはははは!」
クローネは、聞いたこともないような大爆笑で応じた。
狭い迷宮内に響き渡る笑い声は、五分ぐらい続いていただろうか。
「――――――え、何、お嬢のこと殺してーの?」
……すっと我に返ったクローネに真顔で聞かれて、私は首を横方向に思い切り振った。
「いやいやいや、私が殺したいワケじゃなくて、どっちかというと思考実験的な感じなんだけど……クァトランって強いじゃない?」
「そーだねー」『最強だニャー』『無敵だナー』
「じゃあそのクァトランはどうやったら死ぬんだろう、殺せるんだろう、っていうのを、一番側にいるクローネに聞きたかったんだ」
「それさー、何考えてんだボケってあたしがリーンっちの事ぶち殺すと思わねー?」
「正直思ってる。そのときは諦めて死ぬ」
「ちょいちょい、なんでいきなりそんな面白くなっちまってんだよー、リーンっちよー」
私のある種何もかもを諦めた態度は、なぜかクローネのツボにハマったらしく、マペットを装着した手で肩をバシバシと叩かれた。痛い痛い。
「ってもにゃー。あたし
「なんで全部やったことあるんだよ」
しまった、反射的にツッコんでしまった。
しかしクローネはしれっと、
「そりゃ、あたしらがお嬢のことを殺せたら
「………………はい!?」
知らねえ話がいきなり飛び出してきて、私は目を見開いた。
い、いや、でもこれって……
待て待て待て、落ち着こう、状況を整理しよう。
「……ら、ってことは、ニアニャも?」
「そだよん。ていうかよー、色々やらかしたあたしらをとっ捕まえたのがお嬢。んで即死刑になるとこを横槍入れて従者にしたのもお嬢。『私を殺せたら自由にしてあげる』って条件を出してきたのもお嬢。そんで《
「それは、その、つまり……命の恩人、ってこと?」
「面白くねー言い方をするとそーだにゃー。お嬢にも思う所があったんじゃねーの? あたしらはほら」
右手のウサギマペットが、左手の猫マペットをひっつかんで、ずるりとずらすと、左手の甲が顕になった。
「
その《
厳密に言えば、それぞれ僅かながらに色彩は違う――クァトランが混ざり気のない唯一無二の
だけどそれ以上に…………。
その左手は、
何度も何度も繰り返し、傷の上に傷が重なって、元の皮膚の形がわからなくなるまで。
あらゆる手段で以て、あらゆる方法を用いて刻まれたであろう、あらゆる種類の傷が、縦横無尽に。
自己治癒力に優れる魔法少女の身体に、消えない痕がこれだけ残されていることが、私には信じられなかった。
そしてその数多の傷が全て――――《
言葉を失った私に、クローネはさして変わらぬテンションのまま続ける。
「《
「そ、そりゃ、授業でざっくりは聞いたことあるけど……」
世界を混乱に陥れた魔王と同じ《
レムリアの原型になった魔法少女も、そうだった。
「黒い《
悪魔。たったシンプルな二文字だけれど、《
――魔法少女は、《
「どっちかってーとあたしは《
「クァトランが?」
「汚点なんだってさ、王族の」
汚点。
家族のことを話す時、あれだけ誇らしげにしていたクァトランが?
「王族貴族でそんなんだから、市井のあたしらの扱いなんてもっと酷いもんだよ」
にひひ、という笑い声を交えて語るような話では、多分、無かったと思う。
「だからあたしらは……あー、ニアニャの気持ちを決めつけるのはよくないかにゃ? 少なくともあたしは、お嬢に感謝してるんだよ。からかうとおもしれーし」
「の割に無罪放免狙いで命を狙ってるという話では……?」
「無罪放免なんてどーでもいーの、大事なのはお嬢と本気で遊べることだにゃー」
再びマペットを装着して傷を覆ったクローネは、そのまま両手の猫とウサギを、ずいっと近づけてきた。
『あたしが本気で殺そうとしたぐらいで、お嬢がびくともするわけないニャー!』
『あたしと本気で遊んでくれるのは、お嬢とニアニャくらいのもんだナー!』
クローネの
彼女の《
だけど、この二体のマペットは魔法が介在しない。
おふざけの演技であると共に、確かにクローネ自身の言葉、代弁者でもある。
「だからリーンっちへの答えはこう。お嬢を殺す方法なんてない。だってあたしらが殺せねーんだから」
「そりゃ……説得力に満ち溢れた言葉だね」
クローネやニアニャが殺せないのだから、誰であろうと無理。
納得するには十分な材料なんだけど……私はこの目でクァトランの死を見ているのだから、なるほどなあでは済ませられないのが、困った所だ。
「それに、リーンっちにお嬢を殺されちまったら、あたしらも死んじまうしにゃー」
「別に私が殺したいわけじゃないんだけど…………ごめんクローネ逐一聞き捨てならない言葉をしれっと言うの止めてくれない? なんだって?」
「あ、これ秘密だっけ? まあいっか」『よくないニャー』『内緒だナー?』
クローネの口調はどこまでも軽いが、内容の重さが詰まっているので殴られると効くんだよ、本当に。
「つってもフツーの事だよん? あたしとニアニャはお嬢が手綱を握ってるからこそ、シャバで生きることを許されてるんだからさ」
「理屈はわかるけど……それこそクァトランが居なくなったら二人を止められる奴なんていないんじゃないの」
実際、誰もクローネを止められないからこそ、クァトランが死んだら
「そーだよ。だからお嬢になんかあったら、あたしらは自動で死ぬ」
「……へ?」
「あたしかニアニャ以外の手にかかってお嬢が死んだ場合、あたしらも一緒に死ぬっていう
「――――――」
ニアニャを介した約束による、文字通りの一蓮托生。
そうか、だから、クローネ達は、後先を考えずに、暴走したんだ。
クァトランが死亡した時点で、自分たちは終わりだから。
「……そーんな深刻な顔すんなってー! だからそもそもお嬢を殺せるやつなんていねーんだってば! だからあたしらもそんな心配してねーし!」
言葉を失った私への励ましのつもりなのか、ばしんばしんと背中を叩かれる。痛い痛い痛い。さっきからこの手の物理的スキンシップが挟まるんだけど、これクァトランやニアニャと触れ合う基準でやられてる気がする!
「もし仮にお嬢を殺せるとしたら、そりゃーお嬢本人ぐらいなもんだって」
「ははは、世界で一番自殺から遠い存在な気がする……」
そこまで口走ったところで。
「あれ?」
自殺。
「いや……」
私の知っているクァトラン像から、それは大きく乖離している。
ジーンを潰していようが潰していまいが、クァトランは変わりなく絶命するのだから、良心の呵責とかそういう原因があるわけじゃないはずだ。
……本当に?
「おーいおい、リーンっちやーい」
「はっ」
しまった、思考に没頭してしまった。
「あたしは質問に答えたから、次はリーンっちの番だぜい?」『ギブアンドテイクだニャー?』『取引したナー?』
「ああ、うん、私に出来ることなら……」
クローネが、ここまで赤裸々に、自分の過去や傷も踏まえて話してくれたのは、私に対してそれなりに聞きたいことか、あるいはさせたいことがあるから、だろう。
まあ無茶な条件だったらこの場で頭を撃ち抜いてエスケープという手もあるけれど……いや、それは流石に不誠実か。
「ま、そんな難しー話じゃねーのよ。むしろ簡単、チョー簡単。屋敷に戻ったら今すぐ実行できるぐらい簡単」
「逆に不安になってきた」
「や、つまりさー」
て、て、て、と私の前に出て、くるりと振り返り。
「リーンっちの人柄と、人畜無害さと、偏屈な所に期待しての頼みなんだけどさ―」
私、偏屈だと思われてるのかよ。
そんな内心の声が聞こえたかのように、クローネ・クローネは、とても申し訳無さそうに、苦笑交じりで。
「お嬢と友達になってくんない?」
……そう言った。
聞き間違いじゃ、無かったと思う。
勘違いでも、無いはずだ。
「………………………………は、え?」
「や、わかる、わかるよ」『気持ちはニャー!』『すっごくナー!』
「ち、違……そ、そうじゃなくて、な、何で?」
予想していなかった事を、予想していなかった人に言われて混乱したのは事実だけれど。
「ココだけの話にしといてくれる?」『誰にも言うなよニャー』『秘密だからナー?』
私達以外には誰も居ない階層だけれど、それでもクローネは声を潜めて言った。
「あたしらの課題はお嬢と連動してんの。お嬢がクリアすればあたしらもクリアだし、お嬢が駄目だったらあたしらも駄目」
ぺら、と見せられた課題の紙には、こう記されていた。
主を無事に合格させましょう。
誰か一人に助けを求めても良しとします。
短くて羨ましい、と思う私は間違っているだろうか。
いや、それよりも。
「ってことは、クァトランの課題は……」
こく、と頷いたクローネは、すぐに答えを教えてくれた。
「
「……………………へ?」
そんな。
小学生一年生の、最初のレクリエーションじゃあるまいし。
「ルーズっちとラミアっちは距離あるしー、いいんちょーはカタブツだしー、ファラフっちは怖がりでミツネっちは嫌味っぽいじゃん? 消去法でメアっちかリーンっちなんだけどさ」
クローネは悪びれなく、言うのだ。
「リーンっちなら性格悪いから、お嬢と仲良くなれると思うんだよね!」
『腹黒だもんニャー!』『相性バッチリだナー!』
「どういう意味だよ」
性格悪い自覚はあるけど、クァトランと相性がいいのかな、それは。
「……クローネ」
けれど……それがクァトランの課題であるというのなら、私の答えは決まっている。
「ん?」
「多分、
「………………なんで?」
途端に据わった目を、私は徹底的に感情を殺して、見つめ返した。
見つめ返して、はっきりと言い切った――クローネ相手に目を逸らすのは、自殺行為だと知っている。
「クァトランは、下心を絶対見抜く。『誰かに頼まれて友達になりに来た』奴なんて、多分世界で一番嫌い」
「……………………」
今度はクローネが、目を丸くして押し黙った。
「雑魚のくせに擦り寄ってきて、何が目的? って言われて、首とか締められそう」
あれは痛かったもんな。軽く首をさすりながら、思わず苦笑が漏れてしまって。
「…………
二回目の迷宮探索で、私はクァトランと話をした。
親友になれた、なんていうほど、自惚れてはいないけれど。
友達になれた、なんていうほど、深くは無かったかも知れないけれど。
ただのクラスメート以上には、多分、なれていたんじゃないかと思う。
だから、私は疑問だった。
一回目、クァトランがジーンを潰してしまった時。
なんでファラフに対して、
私が話して、触れ合って、知ったクァトランは、横暴で、乱暴で、暴君ではあったけれど――自分が犯した過ちについて、頭を下げられないほど狭量じゃなかった。
強さによる高圧はあっても、立場による独裁を嫌っているはずだった。
その権力に擦り寄ってくる者達こそを、彼女は何より嫌っていたのだから。
……クァトランはジーンを潰し、ファラフの進級の芽を摘んでしまった時点で。
勝手な想像だけど、答え合わせがあるわけじゃないけど。
謝罪し、頭を下げて、
万が一でも、誰かがその殊勝な態度を見て、クァトランに
人の《
自分が課題を攻略できる可能性を残すことを、嫌ったんじゃないだろうか。
悪びれなければ、反省しなければ。
高圧的に徹底的に、怒りを買うように振舞えば。
誰もクァトランを許さない。誰もクァトランを認めない。友達なんて出来るはずがない。
だから、自らその道を、選んだんじゃないかって、私は、思ってしまった。
それが周りも自分も傷つける、不器用なクァトラン・クアートラの【
「…………素直じゃないなあ」
「誰のこと言ってんの?」『自分じゃないかニャー?』『あたしらの事かナー?』
急に一人の世界に入った私を咎めるように、クローネはてしてしとマペットで軽く私の頭を小突いた。ああもう、かなり痛い。
「皆かも」
ずれた帽子を直しながら、私はクローネに向き直って、言った。
「頼まれて友達になりにいくのは、間違ってると私は思う」
だけど。
「私は、クァトランと友達になりたい……や、違うかな」
私は一緒に迷宮探索に挑んだあの時から、クァトランのことを友達だと思っている。
だから、私の望みは、こうだ。
「私は、クァトランに友達だと思ってほしい」
クローネから見たら、何でいきなりそんな事を言い出したんだよ、とか、思うかも知れないけれど。
「それでよければ、協力するよ。やり方は、ちょっと任せてもらいたいけど」
それは、偽りのない本心だった。
「…………リーンっちさあ」
マペット使いの魔法少女は、思い切り両手を振り上げて。
「……さいっこーにおもしれーな!」
大きな声で、ケラケラと笑った。
☆
結果から言うと、私達はその日、第三階層まで進むことが出来た。
マーキング用にクローネのぬいぐるみを置いて、屋敷に戻り――――そして。
その日、ミツネさんとファラフは、帰ってこなかった。