魔法少女が終わらない! ~陰謀もギスギスもドロドロもありな全員死亡のバトルロイヤル展開から時間逆行魔法を駆使して目指せ大逆転ハッピーエンド!~ 作:天都ダム∈(・ω・)∋
☆ 国立クロムローム魔法学園 高等部一年月組 語辺リーン ☆
……このまま何事も順風満帆に行けばいいのだが、私の人生で何事も起こらなかったことなど一度たりともなかったことを、この時はすっかり忘れていた。
「みなさ~ん、お疲れ様でした~」
《
「凄い戦果ですよ~、もう、凄い事になってます~。下馬評でウチの学園に注目してる所はどこもありませんでしたから~」
いつも笑顔のハルミ先生は、現在、輪にかけてニッコニコの笑顔だった。普段の胡散臭さが(文字通り)なりをひそめ、口の広角がVの字になっている。
「先生は、とっても嬉しいです~」
今まではよく頑張りましたね、と慰められてばかりだったから、褒められて悪い気はしない。 あまり自分が仕事をしてなかったとしても。
「よくやったじゃない、クローネ。どうだった?」
「あっはっはっはっはすげー楽しかった~ちょっと待ってお嬢揺れれれれれ」
従者が大暴れしてクァトランもご機嫌らしく、クローネの頭をぐしゃぐしゃと撫でていた。ちょっと頭が高速振動してる気がするけど、あの二人なりのコミュニケーションなんだろうからそっとしておこう。
「リリリリリーンっちちちちちょちょちょ助けたすたすたすけけけけたすけけけけけけけ」
「いい天気で良かったねえ」
「いくらなんでも誤魔化し方下手すぎない?」
メアのツッコミも私の耳には入らない。何も聞こえない。
「いいなー、わたしも大活躍したいしたーい!」
本日出番のなかったニアニャは若干不満そうだった。程よくクローネを激励し終えたクァトランは、けらけら笑いながら告げる。
「明日頑張んなさいよ、私と同じブロックにならないことを祈るのね」
一応、予選では同じ学園の生徒はぶつからない事になっているはずだけど、《
「先生、この後は自由行動でいいの? 《
「はい~、後は観戦するなり観光するなり、明日に備えた練習をするなり、自由です~、ただ、ホテルでの食事が十八時半なので~、それまでにはホテルに帰ってきてください~」
参加ブロックが双方前半側だったのが幸いし、割と余った時間があるのは嬉しいことだ。
夜になれば今日行われた他の《
「なら、失礼させてもらおう。この女と同じ空間に居る理由がなくなったからな」
「それはこちらのセリフです、そのまま消えてくださっても構わないのですが」
距離を取りお互い顔を背けてそんな事を言い合うラミアとルーズ姫。……こいつらこの後、隠れて合流するつもりだな。
「ファラフはどうするん?」
「星組のレースがあるので、見ておこうかなって。アイミちゃんの動きを確認しておかないと」
「ほな、ウチも付き合おか」
ライバルの様子が気になるファラフは、この後レースに挑む星組のレースを観戦するようだ。確か星組は《
「じゃ、一旦解散ね。夕飯に遅れないこと」
という委員長の一声で、めいめいバラけ始めたタイミングで、
「あ、リーンちゃん、メアちゃん、二人ともちょっとお話があるので~、この後、少しいいですか~?」
私とメアを、ハルミ先生が呼び止めた。
「ハルミ先生、どうしたの?」
私の聞きたいことをメアが尋ねてくれたので、一旦聞きに徹する。
「ん~とぉ~……なんと言いますかぁ~……」
いつも困り顔のまま言いたいことを言い散らかして、こちらの困る姿を見て、より笑顔が深くなるハルミ先生が、ほんっとうに珍しく、言い淀んでいる。
「その~…………レイヴンちゃんの事なんですが~」
「あー……急に《
「理由~、というよりは~……えっと~……」
んー、と眼鏡に指を当てながら(考え事をしている時の癖だ)、ハルミ先生はようやく重たい口を開いた。
「…………本人には内緒にしてくれますか~?」
メアがちら、と私を見た。うーん、内緒かー、そうかー。
「いや、私はレイに隠し通せないから、それなら聞かない」
「代わりにボクが聞くよ、いつも通り」
レイには内容如何に関わらず〝私が隠し事をしている事〟そのものを察知されてしまうので、最終的に詰められて吐かせられるのが目に見えている。だったら聞かないほうがマシだ。
こういう時はメアに聞いてもらって、後で要約してもらうのが一番いいのだ。
「……二人は本当に、いい子ですねえ~」
「反面教師に育てられたからね」
「リーンちゃ~ん?」
笑顔がちょっと腹黒寄りに戻ったので、早々に退散することとする。
慣れ親しんだやり取りを経て、私は軽く手を降って、その場を離れた。
☆
……うーん、このタイミングでメアと別れるのは想定外だったから、本当に手持ち無沙汰になってしまった。出店でも回って小腹を満たすか……『
開催に合わせて色んな
「やっぱり星組の試合でも見に行――――――ひゃあんっ!?」
っ、変な声出た、変な声出た!
首筋にゾクッとした感覚がして、反射的に!
思わず振り向くと、そこには…………笑いをこらえた表情のレイヴン・グレイヴが、ニヤニヤしながら立っていた。
「あにすんだオメー!!!!!!!!!!」
「無防備にうろちょろしてんのが悪いんでしょーが」
私の怒りに全く悪びれないレイは、パチパチ手をたたきながら言った。
「相変わらず首が弱いんですねぇ」
「ぶっ殺す!」
とりあえず殴りかかってみたが、えい、と拍手の片手間に捌かれてしまった。
くそう、基礎戦闘力が違う。私のささやかな抵抗も予想通りだったようで、レイの表情は笑顔も笑顔、にっこにこのままだった。
「《
「それに関しちゃありがと! …………一応、後でもっかいお願いしてもいい?」
「おい」
自然な流れで頼めないかな、と思ったらジロッと睨まれた。ち、そんなにチョロくはないか。
「随分と図々しいじゃねーですか……あれ、すげー大変だったんですよ。それでなくてもしこたま
それはそれ、これはこれ。レイには色々と『
…………いや、待てよ、そもそもだ。
「てか、こんなとこで何してんのさ。クラスメートの応援とかしないの?」
「どーせアイミちゃんが勝ちますよ、《
「流石に余裕こきすぎじゃないか? 他の学園の生徒だって、代表選手だよ」
「だとしても、わたしが応援したところで結果は変わんねーですし」
大体、と少し癖のついた髪をかきあげながら、レイは言った。
「本当に強い選手は《個人戦(スターダスト)》の方に来るじゃねーですか」
ふふん、と余裕の表情を浮かべるレイ。言い換えれば、他の競技の出場選手はそうではない、とでもいうような、不遜な発言だ。
「そういう物言いばっかするから、敵が増えてくんだろ」
「わたしの味方は三人居ればいーんですよ」
誰と誰と誰だよ、とはいちいち聞かない。わかりきってる。
「ねえねえ、何か食べていきましょーよ、あっちの方に屋台ありましたよ」
「夕飯近いからなにか食べるのもなって思ったばかりなんだけど……」
「かき氷とかならいーんじゃねーですか? ジュースみたいなもんでしょう」
ああ、まだ日差しもそれなりだし、それは確かにありかもしれない。
まんまの口車に乗せられて、出店が並ぶエリアへと向かう。
日本全国、どころか世界各国、果ては《
競技と競技の合間だから、この間になにか食べる物を買っておこう、という人も多く、昼時をだいぶ過ぎた時間なのに、結構賑やかだ。
「やー、きらびやかですねー」
そして客の中には、一般人の他に、魔法少女も沢山いる。
会場に来ているのは出場選手だけではなく、応援しにきた他校の生徒だったり、学園に絡まない一般魔法少女だったりも居るわけで……髪の色だけでも千差万別、コスチュームも色とりどり、遠目から見ていると少し目が痛くなるぐらいだ。
「すげえ並びそうだけど、どーすんの?」
「わたしがその程度の事を考えていないとお思いで? こっちですよこっち」
レイに先導されて、比較的空いているエリアの端っこを通り抜けて、一台のケータリングカーの方へ。
たしかに他と比べると、あまり人が並んでいない。先に看板に掲示されてるメニューをちらりと見ると、フルーツが乗ったかき氷を出すお店らしい。
「《
語る声のトーンが高く、にっこにこしているレイ。最初からここに来る気だったな……。
「さっきのお願い、ここで奢ってくれたら聞いてあげてもいーですよ?」
「なんだとぅ?」
言われて、より詳細に……具体的には値段を注視する。
……うん、少しお高めだけど、イベント価格だと思えば妥当な所か。
ちゃんとお小遣い貰ってるし、これぐらいの買い食いは許容範囲ということで。
「……いいだろう、しょうがないな」
「やりぃ♪ 何にしますぅ?」
最後尾につくと、ラミネートされたメニュー表を前にならんでたお客が渡してくれたので、軽く眺めてみる。結構種類があるけど、目についたのは……。
「みぞれ練乳の白玉乗せかなあ、レイは?」
「そりゃあもちろん、マスカット&メロンですよぉ」
……余談だけど、魔法少女にはなんとなく、自分のスフィアに近い色合いの食べ物を好む習性があると思っている。メアはココアを部屋に常備してるし……。
「あら、ふたりとも選手なんだ、頑張ってねー?」
《
発泡スチロールの容器はそれなりに深く広く、透き通る氷の粒を山と盛った上から、透明なみぞれと練乳が、これでもかとぶちまけられている。普通シロップがかかれば氷の高さはへたれてしまうものだが、いかなる魔法か、最初に積み上げられた高さを維持したままだ。
その外周を囲うように、ちょうど人差し指と親指で輪っかを作った時に出来る円くらいのサイズの、ちょっと大きめの白玉がごろっと。通常六個の所、何故か十二個も鎮座している。
私とて魔法少女、女子の端くれなので、人並みに甘いものを摂取したい欲ぐらいあるのだけど……しまった、勢いで白玉追加オプションをしたのはまずかったか……よく考えたら全然お腹に溜まるメニューじゃないか……。
「あはははははははははは」
私が食べる前から若干の後悔をしているのを見て取ったのか、レイはけらけら笑った。
レイの奴は緑色のシロップがかかったかき氷に、私の白玉がある位置にはくり抜いたメロンと大粒のマスカットが交互に並んでいる。そうだよなぁ、炭水化物の塊より、フルーツの方がお腹には貯まらないよな。
肝心のかき氷は……口の中で驚くほどすぅっとほどけて、冷たさと甘さが広がっていく。
魔法少女が二人揃って、ベンチに並んで座って、かき氷を食べている……なんとも不思議な光景だ。普通なら結構目立つところだけど、『
「そういえば、知ってる? 天然の氷で作ったかき氷は、一気に食べても頭が痛くならないんだって」
「? かき氷って頭痛くなる食べ物でしたっけ」
「………………」
確かに、魔法少女がアイスクリーム頭痛を引き起こすって聞いたことないな……体が人間より頑丈だからか。
よく考えたら私も、魔法少女になってから体感したことないかも知れない、くそ、どうでもいい豆知識を披露するタイミングが……。
「今の話は忘れて」
「はぁ……」
なんとなく出来てしまった間をごまかすように、スプーンで白玉をすくって口に入れる、仄かな甘味と、もちもちしたちょうどよい歯ごたえで、うん、美味しい、美味しいよ。
…………あと十一個あるのか……。
「ねえレイ、白玉とマスカット、一個交換しない?」
「えー?」
明らかに嫌そうだった。確かにこいつはお菓子より果物を好むタイプなんだけれど。
「味変、味変だと思って」
「甘さと甘さで味変してもあんま意味ない気がしますけど……しょーがねーですねぇ」
大きなマスカットを一粒スプーンでとって、すっと口元に差し出してきた。
「はい、あーん♡」
……にやにやと底意地の悪そうな笑みを浮かべながら。
おお、この野郎、そういうことをしてくるか……。
引き下がったら負けだ……躊躇を見せたら今度はスプーンを引っ込めるフェイントをしてくる、こいつはそういう奴だ。
思考は刹那で行われ、多分傍から見たら食い気味の勢いでばく、とマスカットに食いついた。
大粒のみずみずしい果肉がほどけて、じゅわ、と口内を満たしていく。芳醇な口を通って鼻から抜けて、凄く爽やかな味がした。
「…………美味っ!」
「そーでしょう」
にやにやを崩さないまま、得意げに勝ち誇られても悔しくない味だった。いや、白玉が美味しくなかったというわけじゃなくてね、平坦な味のループの中にふと入ってきた別種の甘さの暴力というか。
あの店、他にも苺とかミカンとか果物使ってる奴あったし、明日以降も寄ってもいいかも知れない……なんて考えていたら、レイが目の前で小さく口を開けた。
「ん」
目を閉じて、あーん、と、さながら餌を待つ雛の様に。
……なるほど、そう来るか。
先ほどと同じく、ここで躊躇してはいけない。レイに対して隙を見せるというのは、今後しばらくそのネタでいじられ続けるということなのだ。
白玉をすくって、口の中へ滑り込ませる。
ん、ともぐもぐ口を動かして、飲みこむまで十数秒。
ぱち、と目を見開く……その表情は、驚きが大半を占めていた。
「……歯ごたえすげーですねこれ。もっちもち」
「美味しいよね、ボリュームあるけど」
後一〇個……うーん、ホテルまで軽く走りながら、少し遠回りして帰れば帳尻合うかな。
「………………」
再び自分のかき氷を食べ進め……なんか視線を感じる、と思ったら、レイがじぃっとこっちを見ていた。
…………見ている、私ではない、白玉を。
「……メロンと交換ならいいよ」
「えへへぇ」
白玉を向こうの器に移すと、メロンの玉が返ってきた。食感がお気に召したらしい。
「ところで、リーンちゃん?」
「何さ」
「ハルミ先生から、何か言われましたぁ?」
…………いや、読まれるから聞かない選択肢を選んだのに、聞いてなくても読まれるのはどうしたらいいんだ?
突然ぶっこんできて揺さぶって、
だから努めて平静に、動揺を顔にも態度にも出さず――出してないと思いたい――私は返した。
「今メアが聞いてる、私は聞いてない」
「だと思いましたー、じゃなかったらリーンちゃんが一人でウロウロしてるわけねーですし」
「まぁ、多分お前がいきなり《
レイヴン・グレイヴは、省エネ魔法少女だ。
私の知ってるこいつは、目立ちたがらない、頑張りすぎない、したいことと、やるべきことだけはしっかりやって、やりたくないこととやらなくていいことは極力やらない。
中等部までのレイは、そんな感じだった。授業も半分ボイコットして、図書館に入り浸って。ひたすら本を読み漁り、それでも実習課題は独学と才能でなんとかしてしまうから、誰も口が出せなくて……クラスメートとも、そんなに仲はよくないはずで。
いや、私が言うのも何だけどね……卒業試験がなかったら、多分今みたいな連帯感はなかったはずだし。
「別に、いきなりじゃねーですよ」
しゃく、とかき氷を食べながら、レイは言った。
「三年前からずーっと、わたしはそのつもりでしたしぃ」
「……どういう事?」
にやぁ、と。とっておきの悪戯を隠している、子供の様な顔で。
「メアちゃんとハルミ先生には、内緒ですよぉ?」
耳元に顔を寄せて、ひそひそと小さな声で。
「……………………………………………………あー」
私は、レイヴン・グレイヴの
納得した、納得してしまった。なんでそれに思い至らなかったんだろう。少し考えればわかりそうなものだったのに。
現状に慣れてしまっていたのかも知れない、馴染んでいたのかも知れない。
だったら、私に口を挟む余地なんてないじゃんか……もしなにか言うことがあるとすれば。
「…………本当に優勝できると思ってる?」
他の《
何より、それをするのであれば、立ちはだかるのはクァトラン・クアートラだ。私にどちらが勝つかを問うぐらいには、意識してるはずなのだ。
それでもレイの態度は変わらない。揺るぎない自信に満ちた表情。
「しますよぉ、それに、私が勝ち進めば『春の家』の後輩たちだって楽になるじゃねーですか」
「……まあ、できたらヒーローだろうね」
「なりてーですねー、ヒーロー。だからやり遂げますよ」
まだ日差しは暑くて、じわじわと溶け始めるかき氷。
この場合――私は、どっちを応援するべきなんだろう。
残った白玉を口に含んで、疑問と一緒に噛み締めた。