魔法少女が終わらない! ~陰謀もギスギスもドロドロもありな全員死亡のバトルロイヤル展開から時間逆行魔法を駆使して目指せ大逆転ハッピーエンド!~ 作:天都ダム∈(・ω・)∋
☆ 選手控室 ☆
☆ クロムローム魔法学園 高等部一年月組 クァトラン・クアートラ ☆
数年ぶりに見た二つ上の姉の姿は、なんだかとても遠くに見えた。
「久しぶりね、ちい姉様」
試合前に顔を見せても無反応だったので、試合を終えて戻ってきたところを捕まえて、こちらから声をかけてみたら、返ってきた反応は、
「……………………」
交流を拒絶する無言と、食事に混入した
ま、そりゃあそうかと思う。クアートラ王家からしたら、クァトラン・クアートラは現在進行系で邪魔者だ。事実上の末っ子となったトゥレリアにも色々あるんだろう。
大姉様や中姉様が何か企んでいる可能性もあるし……自分のことはどうにでもなるとして、周りが巻き込まれるのはごめん被る。クローネとニアニャしかいなかった頃なら……まぁコイツらもそれなりに頑丈だし別にいいかと思っていたが。
今は、割とそうでもない、というのが、自分でも意外だった。
「うわー、すごいねー、お嬢―、次、わたし、お嬢のお姉さんとだよー」
「そーね、適当に可愛がってやんなさい」
《
ま、ニアニャならなんとかするだろう。私の従僕は優秀だ。
「で、この後は休憩?」
「だってー。皆の所に戻って、ご飯食べるー?」
「……そうしましょうか」
特にこの場に残り続ける理由もなくなってしまったし、と立ち上がった時。
控室の扉が、バン、と開いた。
「皆、試合が終わって疲れてる時に、ごめんねっ! ちょっとだけ時間をもらえるかなっ」
軽くシャギーが入った、ピンクゴールドのショートカット。
ふわりと広がるスカート、腰に携えられた桃色の宝剣。
クァトランですら、名前くらいは知っていた、そう……。
「プレシャス!」
誰よりも早く反応したのは、意外なことにトゥレリアだった。
クァトランが見たこともないような――嘘だ、小さい頃は、自分に向けられたことがある――試合中にはおくびにも出さなかった感情、華が咲くような笑顔。
「トゥリー、この前ぶり! まずは一勝おめでとっ。立場上贔屓は出来ないけど、応援はしてるから」
元々顔見知りらしい、プレシャス・プリンセスは小さく手を上げて応じた。
「ええ! ありがとうプレシャス! 嬉しいわ」
なんて仲睦まじい会話でしょう。やり取りの端々やお互いを見る視線、仕草から、十分に伝わってくる。
「ニアニャ」
「んー? なあに、お嬢」
クァトランは、呼んだ従僕の耳元で、声が彼女以外に聞こえぬように、小さく呟いた。
「はへー? お嬢がいいならそれでもいいけどー」
「悪いけど、頼んだわよ」
「かしこまりまりー、でもさー、お嬢―」
「何よ」
「なんだかんだ、丸くなったよねぇー、悪いけど、だってー」
からかうように笑う従僕に軽くデコピンをかまして、クァトランは立ち上がった。
よくわからないけど、この場に居たくない……さっさと戻って腹ごしらえだ。出店のケバブは結構美味しそうだった。
だが、乱入者はそのままカツカツとヒールの足音を立てて、
「キミがクァトラン? お話、いいかな?」
プレシャス・プリンセスはクァトラン・クアートラの前に立ちはだかった。
「っ、プレシャス! その娘は……」
「ごめんトゥリー、えっと、お家の事情は、少しはわかってるつもり。でも、これは実行委員としての私の仕事なんだ」
思わず、といった様子で叫んだトゥレリアを、申し訳無さそうな笑顔で制しながら、プレシャスは改めてクァトランを見た。
「はじめましてっ、私はプレシャス・プリンセス! ルシルフェル魔法少女騎士団の団長で、今回は『
「どーも、で、そのプレシャスさんが私になんの用事?」
プレシャス・プリンセスが目の前に現れてこの反応が出来るのは、世界広しといえど、恐らクァトランくらいのものだろう。
「お腹すいたからご飯食べに行きたいの、長引くなら後にしてくれない?」
「んー……あのね、聞きたいことがあるんだ。フェリア・エルフェリィちゃん。わかるかな」
「……………………………………?」
わかんない、本当に知らない。誰だ? クァトランの純黒の脳細胞がフル回転して該当する情報を探すが、マジで欠片も心当たりがなかった。
「お嬢―、お嬢―、対戦相手、お嬢の対戦相手だった娘―」
デコピンを喰らった衝撃で床に転がっていたニアニャが、ひそひそとはちょっと言い難い声量で言った。ああ、そういえばそんなんだったっけ、ナイス我が従僕。
「だそうよ」
その反応に、プレシャスはんんー、と難しそうな顔をした。一体何を要求されているのか分からず、クァトランも首を傾げてしまう。
「簡潔にしてよ、何が言いたいわけ?」
「えっと、つまり――――」
「お前が彼女たちになにかしたんじゃないかと言いたいのよ、愚妹」
割り込むように、トゥレリアが声を発した。
「…………あー」
なるほど、そういう見方もあるのか。
「トゥリー! その物言いは、ちょっと失礼だよ!」
「プレシャス、その娘に気を使わなくていいの。穢らわしい……」
心からの嫌悪の目で、クァトランの顔を……いや、額のスフィアを睨みつける、姉。
ニアニャやクローネはまだ隠しておける部位だけれど、クァトランは常にむき出しの位置にあるから、どうしたって目についてしまう。わかってはいるけれど。
「不測の事態に備えてリザーバーが控えているわけだけど、今回は二人共、だからね。もしかしたら何か作為的な事があるんじゃないか、って、上層部は判断したらしくて」
ごめんね、と再度一言添えて、プレシャスは続けた。
「でも、少し話してわかったよ。フェリアちゃん達になにかしたのは、キミじゃない」
「プレシャス!」
その判断が気に食わないのか、声を荒げるトゥレリアを遮って、クァトランは聞いた。
「へえ、どうして?」
「今の今まで存在すら忘れてた、って顔してたよ、キミ」
その言葉には、やっぱり苦笑が混ざっていて……まあ、つまりあれだ、クァトランが裏でなにか工作をしたなら、こんなふてぶてしく居られるはずがない、という感じだろうか。
「ていうか、迷惑被ってんのはこっちなのよ。せっかく派手にやるつもりだったのに、相手が居ないんじゃ暴れる事もできやしない」
「そうだね、せっかくの機会を奪ってしまったこと、運営委員の一員として謝罪します」
そう言って頭を垂れるプレシャス・プリンセス。トゥレリアを含めた、口を挟まずに居た周囲の魔法少女たちすら、ひ、と小さな悲鳴をあげるぐらい、それは衝撃的な行為だった。
「アンタに頭下げてほしいわけじゃねーわよ。ていうか、もう行っていい? お腹空いたの、ケバブの口なの。さっさと食べて戻りたいの」
周囲の『なんて口の聞き方を!』という圧力をものともせず言い切ると、プレシャスはやっぱり苦笑しながら顔を上げた。
「それじゃ、これあげる。運営委員向けのサービス券! 七割引で買えるから、使ってみて」
「それならありがたく貰っておくわ。ニアニャ、行くわよ」
「うぇーい、おじょー、わたしねー、クレープとか食べたいなー」
「好きにしなさいよ、同じもの食べなきゃいけないわけじゃないでしょうが」
「ほんとー? やったやったー!」
……部屋を出る間際。
☆ クロムローム魔法学園 観戦席 ☆
なんかクァトランとニアニャがケバブとクレープを大量に買ってきてくれたので、特にメアが大喜びだった。皆でご相伴に預かって、クァトラン、ニアニャ、レイを見送って、じきに準々決勝第一回戦が始まろうとしている。
「準々決勝から準決勝までは続けてやるんだよね?」
もぐもぐモンスターことメアが食後のおやつに三つ目のケバブを平らげながら聞いてきたので、私はパンフレット片手に答えた。
「うん、それから《
だから途中の試合では《
「レイちゃん、勝てるといいねえ」
「メアはどう思ってるの? レイのこと」
「勝つか負けるなら、そりゃあ勝ってくれたほうがいいと思ってるよ」
「それはそうだけど……」
「リーンちゃんは、何が不満なの? レイちゃんのこと」
「不満ってわけじゃなくて……あー、ごめん、レイの願いは、口止めされてる」
基本的に、私はメアとレイに対して隠し事が出来ない。隠し事をしていること、がそもそもバレてしまうので、だったら最初から素直に言ってしまったほうが、色々楽なのだ。
「大体わかるよ」
四つ目のケバブを開封する前に、私の耳元で小さく囁いた。
「……でしょ?」
「正解。で、それを踏まえてどう?」
「レイちゃんがしたいなら、ボクはいいかなって思う。ボクだって寂しかったもん」
「……メアは、そっかぁ」
「リーンちゃんは駄目なんだ?」
「駄目じゃない、けど、誠実ではない……気がする」
ちら、と星組の面子が固まっている方を見る。皆、やっぱりソワソワしている様子だった。
「リーンちゃんにとって、誠実って何?」
「…………裏切らないこと?」
「じゃあ、レイちゃんがしようとしているのは、裏切り?」
「………………では、ないのかなぁ。メアにとっての誠実は?」
「逃げないこと」
「……即答だね」
「レイちゃんがしようとしてるのは、逃げようとしてるわけじゃないと思う」
「……なら、まぁいっか」
少なくとも、私が納得いかなくても、メアはレイの味方をすることがわかったから。
「どっちにしても、優勝しないとだけどね」
「クァトランちゃんに勝てるかなぁ、レイちゃん」
「どうだろうねえ」
『お待たせしました、これより、《
そうこうしてる内に、準決勝戦の火蓋が切って落とされた。
レイヴン・グレイヴvs
初戦では虚空の《魔弾》で対戦相手の不意をついたフォニィだったけど、そもそもレイの『
最初に《魔弾》を飛ばすのはカムフラージュと、《
のらりくらりと攻撃を避けて捌くレイにしびれを切らし、大技を使おうと身構えたフォニィが、胸を押さえて倒れた。
『おっと、これは…………
二度目の勝利に、流石に観衆も喝采ではなくざわつきが上回り始める。
傍から見たら『よくわからないけど相手が倒れて勝った』という状況だし……ただ、当のレイは素知らぬ顔でこちらにピースして、悠々と控室に戻っていった。
準々決勝第二回戦。初戦で熱い友情を見せてくれた雨前サクラvsシャクティーバ・シュラクシャリア。もうシンプルにサクラに勝ってほしかったんだけど――――。
「『
シャクティーバをぐるりと二〇体の分身で取り囲んで、一斉に襲いかかるものの、その瞬間、全方位に放たれた強烈な光が、本体を含めてすべて吹き飛ばしてしまった。
「きゃあっ!」
倒れるサクラの背中が地面につく前に、更に五本の光線が彼女の身体を貫いた。
《
「気高い魔法少女だった。私もまた、キミたちの戦いに心動かされた者の一人だ。この勝利を優勝まで持っていくことを誓うよ」
そう告げる声色は、どこか優しくさえあった。
そして――――――。
「やぁーっと、出番ね」
今度こそ、クァトラン・クアートラが、一般聴衆の前で戦う時が来た。
わぁぁぁぁぁぁ、と激しい歓声があがるのは、しかし、クァトランに向けられたものではなく…………。
「はじめまして。あなたに恨みはないけれど……強そうね?」
三印がある時点で強者であることは確約されている、その上で、純黒のスフィア。
例えクァトランがどういう魔法少女かを知らなくても、警戒し、身構えるのは当然の事だ。
「そーね、多分アンタより」
「すごい自信。でもちょうどいいわ。だからこそやりがいがある」
瞳、頭髪、コスチューム……全てが
その右手に、やたらと豪華な装飾が施された鞘に納められた剣を持っている。
「……やはり、あれは《
ラミアが思わず、と言った様子で声を上げた。
「《
「プレシャス・プリンセスの《
「うん、1/1スケールも持ってる」
「リーンちゃん、プレシャスのオタクだから……」
「《
「ってことは、あれ、すごい剣なの?」
「ああ……まして《
「ラミア、結構剣オタクだね」
「剣士の憧れだろうあれは! ……いや、そうじゃない、いくらクァトランでも、《
プレシャス・プリンセスの《
その《
『準々決勝第三試合、クァトラン・クアートラ選手vs神門ユニィナ選手! 開始!』
そうこうしている間に、実況が戦闘開始を告げた。
「輝け、《
ユニィナが、鞘から《
薄いガラスのような透き通った、見るものの心を奪う美しい刀身。
全ての悪いものを浄化せしめるような、清々しく、透き通る蒼い光が周囲を柔らかく、そして神々しく照らしていく。
私ですら――一瞬、目を奪われて、つばを飲み込んでしまった。ラミアはもう、食い入るように魅入っていた。そのラミアを遠くからちらっと見ているルーズ姫の目がなんか怖い気がするけど、気の所為かな。
とにかく、誰がどう見ても、凄まじい武器であることは一目でわかった。
《
だけど彼女は出会い、与えられ、そして使うことを許されたんだろう。
とんだダークホースだ、少なくとも私たちは警戒していなかった。
「――――はあああああ!」
傍目から見てもわかる程、凄まじい《
一切の予備動作なく、足元から《
更に同じ噴出を肩、肘、手で行い、振り抜きの速度を増している――精密な
驚きが実感に変わる前に着弾する、蒼い聖剣がクァトランに振り下ろされ――――。
「―――――え?」
誰もが目を見開いた。会場に居る誰もが、多分言葉を失った。
だけど、一番、誰よりも驚愕していたのは、きっと神門ユニィナ選手、その人だろう。
「聖剣ねぇ、ちょっとは期待してたんだけど」
クァトラン・クアートラは、退屈そうな顔のまま、片手で《
純黒の《
「ま、どーせこんなもんよね。アンタはもう良いわ」
そのまま、ミシミシミシ、と握る手に力を込めて――――――。
「…………ま、待っ」
ユニィナの静止が言葉になる前に、パリン、とあまりに儚い音がした。
《
支える物がなくなって、刃を振り下ろした姿勢のまま、ユニィナは呆然と目を見開いた。
カラン、と取り落とし、落ちた聖剣の柄の先には、もう何も存在していなかった。
「何ぼーっとしてんのよ」
その顎を、下から容赦なく。
「戦闘中でしょうが」
クァトランはつま先で蹴り上げた。
ユニィナの身体が数十mは舞い上がって、そのまま落ちて、動かなくなった。
誰も何も言えない時間が、三〇秒は続いただろうか。
「ねえ、これって私の勝ちでいいの? それとも、戦闘続行?」
『…………はっ! せ、戦闘不能と、みなします! はい! しょ、勝者、クァトラン・クアートラ選手!』
クァトランがしびれを切らしそう告げて、ようやく実況がクァトランの勝利を宣言した。
「案外退屈なのね、《
普段と変わらぬ態度で髪をかきあげ、クァトランは動かなくなった相手に背を向けて、控室へと戻っていった。その姿に、やっぱり、拍手も喝采もなかった。
「…………マ、《
ラミアが愕然としている……凄い顔だ…………うん、わかってたことだけど。
心配なんていらなかった……私の友達は、