犬耳のわんこと猫耳のにゃーちゃん。   作:海月 水母

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犬猫ランチタイム

「いただきます」

 

「いただきまーすっ!」

 

 階段に腰かけ、膝の上にお弁当を乗せ、揃って手を合わせる。

 わんこと私の、いつの間にか恒例となった昼食の光景だ。

 少し食べにくい気はするけど、仕方ない。周囲の視線を気にせず、落ち着いて食事ができる場所はどうしても限られてしまうから。

 カチューシャやパーカーのフードは、あくまで一時しのぎに過ぎない。特にわんこのようにカチューシャで『耳』を抑え続けてると、締め付けのせいかひどい頭痛がしてくる。だから休み時間の度に、人目のない場所でカチューシャを外して休めなきゃならない。

 ……面倒の多い生活だ、と改めて思う。

 まあ、わんこは私ほど気にしていないみたいだけど。

 

「ん~っ、やっぱり美味しい! さすがにゃーちゃんのレシピ!」

 

「……大げさだって」

 

 味付けが上手くいったのか、ふにゃふにゃの笑顔で足をぱたぱたさせてる。呑気なもんだ、と思わなくもないが、それももう慣れたことだ。

 感情が分かりやすく表に出てしまうところも、わんこ()っぽくて微笑ましいし。

 わんこのお弁当は唐揚げに卵焼き、ミニトマト。私の方はメインが肉団子で、後は同じ。どちらも鉄板のラインナップだけど、意外と飽きないものだ。

 メニューが似通っているのはわんこの言ってた通り、私のよく作るレシピを教えてほしい、と頼まれたからだ。

 訳あって自炊はそれなりにしているとはいえ、特別な味付けをしてるなんてことは無いんだけど……以前おかずを交換したのをきっかけに、何故かわんこはいたく気に入ってくれたらしい。

 

「あ、でも卵焼きはちょっと失敗しちゃったかも……」

 

「そう? 形も悪くなさそうだけど」

 

「にゃーちゃんのみたいに、もっとふわふわにしたかったんだけど……難しいなぁ」

 

 しょぼ、とこれまた分かりやすく肩を落とすわんこに従うように、彼女の頭の犬耳もぺたっと元気を失くしてしまう。

 そう。この『耳』、よくこっちの感情を反映して動くのだ。それも勝手に、本人の意思で止められないという性質の悪さ。これもまた、悩みのタネだ。

 勝手に感情が表出してしまうとか、恥ずかしいことこの上ない。私は本来、そういうのが下手なタイプだから。……わんこみたいに元から感情が分かりやすい子なら、そりゃあ気にならないんだろうけど。

 それはそうと、いつまでもわんこを落ち込ませてる訳にもいかない。一応作り方を指南した身として、多少の責任を感じる部分もあるし。

 

「ちょっと見せて…………あー、もしかしたら火加減のせいかも。卵焼きは強火の方がいいらしいよ」

 

「…………」

 

「……わんこ?」

 

 お弁当をしばらく覗き込み、私なりのアドバイスを伝えるも、反応が返ってこない。

 不思議に思い顔を上げると、わんこのくりっとした丸い瞳は私……の頭の辺りを見つめ、ぽかんと間の抜けた表情を作っていた。

 

「……どしたん」

 

「はっ、ごめん! にゃーちゃん、集中してるとお耳がピコピコするから……可愛くてつい……」

 

「………………んなっ」

 

 わんこの言葉で、猫耳に集まる視線を認識してしまって。

 途端に、恥ずかしさとむず痒さが全身を駆け抜け、頬が一気に熱くなる。

 言ってる側から、だ。またしても無自覚の内に猫耳(こいつ)は動いていたらしい。

 

「う~~……いつもいつも、なんで勝手に動くかなぁ」

 

「な、なんかごめんね……つい見入っちゃって……」

 

「別に、わんこが謝ることじゃないけどさ……」

 

 猫耳ごと頭を抱え、ため息をこぼす。

 注目されること自体は、いつもならどうってことはない。

 普段は校内でどれだけ浮いてても、興味本位の視線を感じても、苛立ちはするけど無視できているし。

 ただわんこに見つめられるのは、それとは全く違う感覚で。やけに体温は熱くなるし、胸の辺りが妙にそわそわするし。

 おまけに「かわいい」なんて、私に似合わない言葉を照れもせずに使ってくるし。

 他では感じたことのない、くすぐったい感情が込み上げてくる気がして、落ち着かない。……嫌では、ないけど。

 

 

 気づけば、ずいぶんと話が脱線してしまった気がする。卵焼きが上手く作れなかった、って話だったのに。

 

「まあ、いきなり上手く作れる人なんていないんだしさ。あんま気にしないで、また頑張ってみなよ」

 

「そうだよねぇ……」

 

 口では頷きつつも、わんこの声色はやっぱりどこかしゅんとしたままだ。

 仕方ないか、と肩を竦め、視線を膝上のお弁当に落として。

 ふと思い立った通りに、自分の弁当箱から卵焼きを一つ、わんこの弁当箱に移す。

 

「! にゃーちゃん……これ……?」

 

「あげる。ずいぶん褒めてもらったし、お礼も兼ねて。あ、箸はまだ使ってないやつだから安心して」

 

「いいの……!? じゃあ、いただきます!」

 

 私の予想以上に、わんこは瞳をきらきらさせていた。

 多少でも喜んでもらえれば、程度のつもりだったから、自分でやっておいて少し照れくさいけど。

 ……私の料理、ほんとに好きになってくれたんだな。

 そう実感した瞬間、じわじわと胸の内から嬉しさが湧き上がってくる気がして。

 我ながら、チョロい。こんなんだからすぐ猫耳が動くんじゃないか。

 なんて、自分自身に呆れながら頬杖をつく。

 

「ん~~っ! やっぱりにゃーちゃんの手作りが一番美味しいよっ!」

 

「……耳、動きすぎでしょ」

 

「えへへ、だって幸せだもん!」

 

 こちらに笑顔を向けるわんこと、彼女の喜びを隠そうともせずぱたぱたと忙しない犬耳を眺めながら。

 幸せ、という言葉を反芻する。

 毎度、よくここまで素直な言葉で褒めてくれるもんだ。

 ……もしかしたら。

 この視線に、褒め言葉に。わんこ相手にだけ、やけに全身が反応してしまうのは。

 この真っ直ぐさが理由、なのかもな。

 

 

「……そんなに嬉しいもんかね」

 

 満面の笑みで卵焼きを頬張るわんこ。私も食事に戻るそぶりで、視線を自分のお弁当に移す。

 もう少しそのまま、私の方には気づかないでいてほしい。

 ……今、ぜったい私の猫耳も忙しなく動いてるだろうから。

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