犬耳のわんこと猫耳のにゃーちゃん。   作:海月 水母

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犬猫ウォーミング

「……わんこってさ」

 

「んー?」

 

「その格好で寒くないの?」

 

 昼休み。いつもの屋上へ続く階段に、いつものように二人で腰掛けながら。

 ふと感じた疑問を、私は空のお弁当箱を片付けているわんこに投げ掛けた。

 何かを考えるようなリアクションと共に、わんこの茶髪がふわっと踊る。

 

「うーん、別に寒くないよ? ほら、もう春だし!」

 

「それはそうだけど……言っても教室以外はまだ肌寒いじゃんか。暖房効いてないし」

 

 季節は四月の下旬。

 その割に冬の余韻のような寒さが残っており、特に冷え込む朝を私は毎日のように億劫に感じていた……のだけれど。

 犬耳をぴこ、と連動させながら隣で首を傾げるわんこの服装は、ワイシャツにスカートという最低限の軽装。

 タイツを履くでもなく、惜しげなく曝された素足。かろうじてワイシャツが長袖とはいえ、私からすれば信じられないほどの薄着だ。

 

「にゃーちゃんは、けっこう寒がりさんなの?」

 

「……かも」

 

 ブレザーまで着込んだ上から羽織ったパーカー。

 スカートの下もしっかりタイツでガードしている私は、確かに寒さに過敏な方なのかもしれない。

 

「わたしはむしろ、暖房が効いてると暑くなっちゃうんだよなぁ」

 

「まあ、わんこはしょっちゅう動いてるもんね」

 

 普段のわんこを想像すれば、その言葉に納得出来てしまう。

 私と違って、わんこの交友関係は広い方だ。

 クラスのあちこちから声を掛けられては、異なるグループの輪に簡単に溶け込んでいく。

 教室でのわんこは常に誰かに呼ばれ、常に誰かに囲まれている。

 ……寒さを感じないのも、当然なのかもな。

 

 タイツ越しに、両膝を抱える。

 ふとした瞬間に自覚する、わんこにあって私に無いもの。

 羨むでもなく、妬むでもなく。

 ただ私自身の空っぽさに、呆れに似た感情が去来する。

 この肌寒さと自分の孤独にまで因果を見いだそうとするのは、さすがに卑下のし過ぎだろうか。

 

 

 

「えいっ」

 

「にゃっ!?」

 

 不意討ちのように、ぐいっと引き寄せられた。

 バランスを崩した中途半端な姿勢で、情けない悲鳴が漏れる。

 何が起きたのか、思考が軽く混乱状態に陥ったせいで、後頭部が不思議な感触に触れていると気付くのにも時間が掛かってしまった。

 枕より柔らかく、沈み込むような感触。同時に感じる心地よい温もり。

 思わず身を委ねたくなってしまう魅惑の感覚に、私がきょとんとしていると。

 

「どう、にゃーちゃん、あったかい?」

 

 頭の上から、わんこの声がした。

 私が答えるより先に、わんこの伸ばした腕が私の身体を支えるように絡んでくる。

 抱き締める、よりも弱い力。

 まるでわんこに寄り掛かるよう、促されているみたいで。

 そこでようやく、後ろからわんこに抱き寄せられる構図になっていることに気付く。

 ということは、位置関係から考えると。

 私の頭に当たっている、この柔らかな感触の正体は……。 

 

「ちょっ、わんこ……!」

 

 頬に帯びる熱を感じながら顔を上げれば、こちらを覗き込みながら微笑むわんこと目が合う。

 豊満なその胸に、私の頭が枕代わりのように埋まっている現状も、相変わらず気にする様子は見えなくて。

 ただほわほわと、邪気の無い笑顔だけが私に向けられていた。

 

「にゃーちゃんの猫耳、今ぺたっとしてたから。悲しいこと考えてるんじゃないかなーって」

 

 わんこの言葉で、はっと気付かされる。

 ……またしてもこの猫耳は、勝手に私の感情を表に出していたらしい。手遅れと分かっていても、気恥ずかしさから耳を抑えずにはいられない。

 恨めしげに自分の猫耳をつねる私の後ろから、わんこの声が続く。

 

「体があったかくなれば、心もあったかくなれるかなって。だからあったかさのお裾分け!」

 

 頭の上から、耳元へ。

 わんこの声が少しだけ近くなって、私の身体がさらに抱き寄せられたのだと分かる。

 ああ、まただ。

 屈託のない笑顔で、少しの躊躇いもない距離の詰め方で。

 私の中の空っぽが、また一つ。

 今日もわんこに埋められていく。

 

 

 

「ーーで、どうかな? ちゃんとあったかい?」

 

「……暑いくらいかも」

 

「うえぇっ! 効きすぎちゃった!?」

 

「嘘。……ちゃんとあったかいよ、ありがと」

 

 近すぎる距離が、肌で感じるわんこの暖かさが。

 少しだけ素直に、私の口を動かした。

 ちょっと、らしくない台詞だったかも。なんて、そわそわとした気持ちになりながら視線を向けると。

 わんこの表情は、一瞬だけ驚きの色に染まってから。

 

「えへへ、にゃーちゃんっ!」

 

 こっちが恥ずかしくなるくらい嬉しそうに、ふにゃっと顔を綻ばせた。

 その笑顔に連動するように、わんこの犬耳もぱたぱたと忙しく動く。

 くすぐったさすら感じるのどかな光景に、思わず目を細めながら。

 私はされるがまま、暫くわんこの温もりに包まれた。

 

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