テイルズオブレジェンディア~melnes~《本編完結》   作:舞@目標はのんびり更新

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ウィル編 ノーマ編

灯台の街ウェルテスに、遺跡船に残る決意をしたセネルはウィルの家に居候をしている。しかしとうとう新居を探すことにした。

「別に、家にいてもいいんだぞ」

「ハリエットとの生活を、邪魔するわけにもいかないだろ?」

ようやくウィルと娘のハリエットとの仲の関係が改善されたのだ。互いに歩み出した親子の家に居座るつもりはない。セネルに血縁者は存在しないが、家族の情というものくらいは理解できるくらいの情緒はあるつもりだ。

「……ウィルには、特に世話になったしな」

「何だ今更」

「俺、遺跡船に来た頃は迷惑かけてばっかりだったろ?」

「……あれは」

あの時のセネルは、精神的に余裕がなかった。追手を警戒しながら2人分の生活費を稼ぎつつ、シャーリィを守る。誰も信じられないのなら、排他的になっても仕方ない。しかし出会った頃のウィルはそんな背景事情を知る由もなかった。追い詰められていたセネルにとって、魔物の観察に余念がないウィルはさぞかし能天気に見えただろう。

だからセネルはシャーリィを伴いすぐさま逃亡したが……直後にヴァーツラフ軍に追い付かれた。

思えば、あの時もっと詳しく事情を聞いていれば良かったかもしれない。何せウィルは大人で、セネルは子供だから。しかも遺跡船に漂着したばかりで未知なことばかり。だがウィルはセネルを自己中心的だと断じ、相手にしなかった。それだって逃亡中が故の処世術だというのに。

対して、今のセネルは実に落ち着きを見せるようになった。というよりそれがセネル本来の性格なのだろう。シャーリィを守るということに固執せず、彼女の希望を尊重し見守るようになった。そして自分はウェルテスに留まることを選んだ。いつの間にか保安官と見なされるようになり、口では文句を言っているものの満更ではなさそうで。

「……俺の方こそ、世話になった。ハリエットとの件も、そうだ」

「助けるのは当然だろ、仲間なんだから」

「……仲間、か。セネルがそんなことを、自然と口にするようになるとはな」

「悪かったな」

唇を尖らせる仕草は年相応で、微笑ましくなる。

「ならセネル。ひとつ提案があるんだが」

「何だ?」

「この前大陸に帰ったご夫婦の家があるだろ? そこに住んでみないか?」

思ってもいない提案に、目を丸くする。

セネルは単身者用のアパートに移るつもりでいたので、一軒家に住むなんて考えは微塵もなかった。

「いや、広すぎるだろ」

「家というのは住まないと痛む。管理をするつもりで住んでくれると有難い」

きっとシャーリィやクロエは足繫く通うだろう。ノーマやモーゼスもちょっかいを出しに来るだろうし、何やかんやジェイも顔を出すに違いない。そうなると単身者用の部屋では手狭だ。それにウィルは、セネルが物を持ちたがらないことを見抜いていた。

恐らくすぐ逃げられるように、大事な物を作らないようにしていたのだろう。それはシャーリィにも言えることだが、彼女にはミュゼットが後見についている。

それよりも問題なのはセネルの方だ。

未だにセネルには私物をほとんど持たない。最初は遠慮しているのかと思いきや、全く頓着しないのだ。それがウィルにはまるで、いつでもいなくなれるような心づもりにしか思えない。

だから丁度良く人がいなくなった家を勧めた。ここがセネルの帰る家になるんだと示す為に。

「……分かった、そう言うなら有難く住まわせてもらうとする」

「助かる。……そういえばセネル。昨日の夜はどこにいたんだ?」

ウィルにとっては何気ない質問だ。他人の家に住まわせてもらっているという気疲れもあるだろうし、一人になる時間くらいあってもいいはずだ。

だがセネルにとっては答えにくい質問だったらしい。身を強張らせ、僅かに視線をさ迷わせた。

「……悪い、起こしたか?」

「いや」

セネルは気付いていないが、これは自白に等しい。セネルの寝相の悪さが発揮され、ウィルが見つけられなかっただけという可能性もあったのだ。しかしセネルの返答を聞くと、どうやら外出していたらしい。 

「全く気付かなかった」

実際、ウィルもセネルの答えを聞くまでどちらか分からなかった。それくらい物音を立てずに、セネルは家を出たのだ。

「少し風に当たりに行ってただけだ」

「……何も言ってないぞ」

バツが悪そうに視線を逸らすセネルだが、ウィルは特段気にしていない。居候の身では一人で落ち着く時間も限られている。それにセネルはウィルから見れば子供だが、自衛できない程弱くはない。何か問題があっても独力で切り抜けられるはずだ。

「……悪い」

だからその謝罪は見当違いのものであると苦笑し、流してしまった。

 

 

 

 

 

 

水晶の森で、ノーマはセネルを見かけた。

「あっれ~、セネセネじゃん。1人?」

「ノーマこそ、どうしてここに?」

「アタシはいつも通り、お宝探しよ!」

ノーマの考えでは、水晶の森にエバーライトがある可能性が一番高いのだ。だから何度も探索しているのだが、見つからない。

「そんで、セネセネはどうしてここに?」

「あ~……」

頬を掻き、セネルは気まずそうに視線を逸らす。何かやましい事があるのだと、ノーマは瞬時に悟った。

「ほっほ~、リッちゃんにも言えないこと?」

「どうしてそこでシャーリィが出てくるんだ」

「そりゃあ、決まってるじゃない」

ノーマからすると、セネルとシャーリィは変な関係だ。

兄妹と呼ぶには近すぎ、しかし決して恋人とは言えない距離感。セネルはシャーリィを女性というよりも妹扱いしているし、シャーリィもセネルを男性として見ているのに兄呼びを続けている。

「……絶対、ノーマが想像してることじゃないと思う」

「じゃあ、何してんの?」

「ノーコメント。というか、わざわざノーマに言う必要ないだろ」

「何だそれ~! あたしの言い損じゃなーい!」

「ま、聞かなくとも分かることだったけどな」

はぐらかされた。

やれやれと肩を竦めるセネルは、どうやら何も言うつもりはないらしい。ノーマは空気の読める子なので、それ以上聞こうとはしなかった。

 

 

そんな事もあったなと思い出したノーマは、ふとセネルに聞いてみた。

「ねえ、セネセネってさ」

場所は再び水晶の森。

この奥にあるエバーライトの存在は、決して口外しないことにした。

もし知られたら各国はこぞって採掘し尽くすだろう。何せ不治の病すら治し、死の淵からも回復させる宝だ。争いの元になるのは目に見えている。遺跡船を再び戦の舞台にしたくないのは、皆同じだ。

「ここにエバーライトがあるって知ってたの?」

その質問に、セネルはあからさまに視線を逸らした。どうやら図星らしい。

「……言っておくけど、あの時はあれがエバーライトって名前だって知らなかったんだからな」

つまりセネルはどんな病でも治す鉱石があるのは知っていたが、それが願いを叶える奇跡の宝だとは思わなかった。そう言いたいようだ。

「それに、俺から教えてもらって嬉しいか?」 

セネルからの質問に、ノーマは首を振る。

「まっさか~。自分の手で見つけるからこそ、探し甲斐があるってもんよ!」

先に答えを知っていては意味がない。ノーマは自分の手で、師匠の推理に間違いがなかったと証明したかった。ノーマが独力で探しているからこそ、セネルも水晶の森の奥にある物を誰にも言わなかったのだ。

「でもさ、どうやって知ったの? このあたしがあんなに苦労してたってのに」

「言うわけないだろ」

「ちぇ~ケチ~」

セネルに纏わりついても、頑として口を割ろうとしない。仕方なしにノーマは諦めることにした。

「とにかく、気を付けて街に戻れよ」

「あれ? セネセネは帰らないの?」

「俺はまだ用がある」

ノーマには危険だから帰るように言っておきながら、当の本人は独りで動くらしい。以前なら見捨てていただろうが、残念なことに無償で手伝ってあげてもいいくらいに、セネルの好感度は上がっているのだ。

「んじゃあ、あたしも手伝おっか?」

「そう言って、お礼に何か強請ろうとしてるんじゃないのか?」

「ぶーぶー、いくらあたしだって、そんな薄情なことは……しないと思う、多分」

「そこは言い切れって」

苦笑し、セネルはノーマを待たずしてダクトを使ってどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

黒い霧と凶暴化する魔物は、陸の民であろうが水の民であろうが関係なく遅い掛かってくる。なら水の民が陸の民に協力を求めるのも当然だ。幸いにもウェルテルのトップは水の民にも理解があり、実働部隊に等しいグループのリーダー格は、マウリッツも良く知る青年だ。

 

「セネル君」

陸の民の代表として招いたウィルたちが集会場を出て行こうとして、とっさにマウリッツはセネルを呼び止めた。

「はい?」

しかし、振り返ったセネルの姿にとある面影が重なって、思わず言葉を失ってしまう。

その人物と、マウリッツは会ったことはない。だが間違いなくマウリッツは『彼』のことを知っている。

 

それはマウリッツの記憶でない。かつて滄我の力を借り受けたときに垣間見てしまったもの。

滄我と『彼』は同胞として、共に水の民を庇護していた。しかし『彼』は陸の民に殺され、それが陸の民との抗争に発展した決定的な事件だったという。

 

何も言えなくなったマウリッツに、セネルは表情を綻ばせた。仲間たちが出て行ったのを目視で確認してから、マウリッツと向き直る。

「マウリッツさん、これからもシャーリィを……水の民をよろしく頼む」

「……セネル君」

 

セネルにとって、マウリッツは信頼できる指導者だ。シャーリィは立場はともかく、まだ若く経験不足だ。それに外交官としてウェルテスに駐在している以上、この里を纏め上げるのはマウリッツしかいない。

それにマウリッツは良くも悪くも滄我至上主義で、ラタトスクが陸の民との和解を望んでいる以上陸の民と敵対することはないはず。今も心の中は複雑だろうに、個人的感情を置いて陸の民と手を取り合おうとしてくれている。

だからセネルは、安心して水の民を託すことが出来るのだ。

 

「マウリッツさんがいてくれて、良かった」

集落に迷い込んできたときのセネルは、喜怒哀楽を表すことがなかったた。集落に紛れ込み大人に拘束されても、無反応。流石に殺されそうになったら反抗しただろうが、多少乱暴をしても苦痛で顔を歪めることすらしなかった。まるで人形のように活力の乏しい子供だと思っていたが、今考えるとあれは世界に絶望していたのだろう。だからこそ何をされても気にも留めなかった。それを癒したのが、ステラとシャーリィの姉妹。

「……何故、貴方は陸の民を憎まない」

その質問にセネルは困ったように頬を掻く。

「えっと……」

視線を宙にさ迷わせて、それからマウリッツがセネルの素性を知ってしまった原因に思い至ったのだろう。大きく息を吐いて、後頭部を掻いた。

非常に人間臭い仕草も、人の世に紛れてから学んだものだろう。まだマウリッツと出会ったばかりの頃は世間離れしていたというのに。彼にヒトというものを教えたのも、あの姉妹だ。

「またその質問か。アレにも言ったんだが、憎しみは個人に向けるものだし……私の場合はそれどころではなかったからな。とりあえず、陸の民全体を憎んだことはない。そして、水の民も陸の民も等しく守るべき存在である」

けれど、その言葉には数千年を超える重みがあった。

「……そう、ですか」

 

海は水の民だけでなく、陸の民にも恩恵を与える。それも当然なのだろう。今となっては陸の民も星に根付いているのだから。

 

「貴方と……お話できて良かった」

「……マウリッツさんには世話になったんだから、何かあれば協力するのは当然だろ?」

建物の外からセネルを呼ぶ声が聞こえ、慌ててセネルは会釈をして仲間達を追いかけた。その背中を、マウリッツは目を細めて見送る。

水の民も割れている。滄我を至上とする一派と、陸の民を許せない一派。正直なところ、マウリッツとて陸の民の行動を全て許せるわけがない。しかし敵愾心を抱き続けたところで、数で劣っている水の民はいずれ滅びてしまうだろう。だからどこかで方向性を変えなければいけない。それがたまたま今の時代だったというだけだ。何よりこれから起きるであろう災難は、陸の民と協力して立ち向かわなければ乗り越えられないだろう。

だから水の民の未来の為にも、マウリッツは陸の民との融和を押し進めなければならないのだ。

 

 

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