「相変わらず、ここは暗いな…」
洞窟の入口を通り、俺はどんどん奥へ奥へと進んでいく。目的は洞窟内に豊富に生えてるヒポクテ草や魔鉱石、そして洞窟の"最奥にいる奴"の影響で比較的強力な魔物の皮とか牙とか糸とか鱗とか諸々のものを採集することだ。
数日間洞窟の中腹あたりから奥に差し掛かる場所で目的のものはあらかた採集できた。
あとはこれを持って帰って何かしらに加工するか売るかすれば完了と言う…わけなのだが…
(…挨拶もなしに帰るのも寝覚めが悪いか。)
訳あって"最奥のチョロゴン"とは知り合いだ。テキトーなタイミングに訪れて気が向いたら会いに行ってテキトーに駄弁って、あらたか喋ったら帰る。俺と奴の関係はそんなもんだ。
「よーっす!ヴェルドラ!会いに来たぞ~!」
「おぉ!!フランソワの子倅ではないか!!よく我の許へ来たな!何ももてなすものはないが、歓迎しよう。」
奴、と言うのは何を隠そう暴風竜ヴェルドラのことだ。世界で四体しかいない竜種が一体であり末っ子。昔、わけあってこの封印の洞窟に身を隠した俺は迷った結果、ヴェルドラのいるこの洞窟の奥まで落っこちて来たのだ。今思ってもあの時は流石に死んだかとも思ったが、案外頑丈な身体のおかげで多少の怪我で済んだ。母上と今は亡き父上、ヴィクトルは元気です。
ちなみにフランソワと言うのは俺のご先祖様(具体的には俺から10代前の当主)に当たるラ・レーヴ伯アンリ=フランソワのことだ。昔聞いた話だが、なんでも戦ったことがあるらしく俺はそのアンリ=フランソワの若い頃に瓜二つとのこと。俺に似ているということは、さぞ美少年(自分で言うのもなんだが)だったことであろう。
「最近なんか変わったことは…あるわけないか」
「動きたくても動けぬし、ただただ魔素を消費するだけの退屈な毎日よ!」
ヴェルドラはおよそ300年前、うっかり街を一つ灰にしちゃった(しちゃったでは済まないと思うが…)際に勇者と戦闘になり、その勇者の美しさに見とれて敗北。封印されたそうだ。
それ以降、ヴェルドラは魔素をただ垂れ流し続けるだけの存在と化し、約300年間ここにいる。本人(本竜?)曰く「あと100年もするかどうかで魔素が尽きて朽ち果てる」とのこと。その身の上話を若干右から左に聞き流した俺はほんのちょっとだけ可哀想だと思ったのだ。故に、封印の洞窟に用があるときはたまに会いに来るようにしたというわけだ。
(それに…しばらく顔を見せないと拗ねるんだよなコイツ…)
本当に困ったじーさんドラゴンだ。
「だがなヴィクトル、我はお前に感謝しているぞ!退屈なだけだった時間がお前との会話があるだけで次の楽しみになるのだ」
「それは…こっちとしてもありがたいね、それに光栄だよ。かの暴風竜にそう言ってもらえて」
「クァーッハッハッハ!そう謙遜するでないわ!我とお前の仲ではないか!」
(コイツ、こういうところズルいなぁ…)
俺が年下だからかヴェルドラは俺のことをおじいちゃんのように言葉で甘やかす。今世での俺はちっちゃい頃にじいちゃんも父も、曾祖父も亡くなってしまったからか、どうもこういうのに弱い。
「顔が赤くなっておるな?愛い奴よ!!クァーッハッハッハ!」
「うるせぇな!!見るんじゃねぇよ!」
コイツ、あとで覚えてろよ…
「…っ!?」
「ん?どうかしたか?」
「なんか来る。」
「そうか?我は何も感じんが…」
ドン!!ボヨン!!ゴロゴロゴロ!!ズドーン!!
「あだっ!!!」
「ヴィクトルー!!死ぬなー!傷は浅いぞ!!」
(いったいなんだなんだ…ぐは…)
ここで俺の意識は暗転した。
Episode.3{暴風竜と人間とスライム1}
読んでいただきありがとうございます!
悪いスライムじゃないよさんの本格登場は次回登場予定です。
本編とは全く関係がない(関係が薄い)オリキャラ紹介
{アンリ=フランソワ・ジョゼフ・ド・オーレパルト}
ラ・レーヴ伯爵。ヴィクトルから見て10代ほど前の人物で、ソレイユ王アントワーヌ7世の曾孫アンリ1世公の次男。
剣の使い手であり「剣王」の異名で知られる。
また金の採掘で莫大な富を築いたことから「金鉱王」と呼ばれることもある。
ソレイユ王国の内外、西方各地に金山を保有。アンリ=フランソワの領土は一時期ジュラの大森林の辺境にまで及んだとされる。