真人救済ルートin渋谷事変   作:祈月4777

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名前,残された側,呼応

朝。

 

朽ちかけた倉庫の裏手。

鉄骨の隙間から漏れる光が、床に淡く差し込んでいた。

 

真人は倉庫の壁にもたれた体勢で,座ったまま眠っていた。

祈月は、その真人の胸にもたれたまま、すぅすぅと寝息を立てていた。

まるで、昨夜の逃走劇も、何もなかったかのように。

 

──先に目を覚ましたのは、真人だった。

 

ぼんやりと、目の前に広がる光景を眺めた。

自分の胸に頬を寄せるようにして眠っている,

ウサ耳が生えた白茶の髪の呪霊。

 

小さく上下するその呼吸は安定していて。

お互い,自己紹介すらまだなのに,

「信頼されている」ような気配すらあった。

 

真人(……やっぱり,コイツの魂,俺の魂とガッチリ噛み合ってるんだよな…)

 

理由もないのに助けに来て、呪力を全放出して、

自分がボロボロになるのも構わず走って。

祈月のそんな行動の裏に、損得勘定は一切なかった。

 

それは、思いつきの暴走——いや,きっとそれはない。

──あの時点で、魂同士が,もう引かれ合っていた。

 

その時,祈月が、もぞっと動いた。

ゆっくりと、薄いまぶたが開く。

 

祈月「ふぁ…ねむ…」

 

真人「おはよ、魂の片割れちゃん」

 

祈月「んー……」

 

祈月は寝ぼけ眼で返事をした。

ふと,身体に全く痛みがないことに気づく。

昨夜,あれだけの逃走劇でボロボロになったのに。

 

祈月「傷…なにもない,痛くない……真人、…これ,治してくれたの??」

 

真人「やったよ〜。脚も肩も,全身の細かい傷も。一瞬⭐︎」

 

祈月「うわあ……ありがと……最高……」

 

一度まばたきをして、視線が合う。

それから、ふと。

 

真人「…ん??てか今、“真人”って言った?

 俺、名乗ったっけ?」

 

祈月「あーー、昨日のアイツ……追いかけてきた袈裟のヤツがそう呼んでた…から…」

 

真人「……うっわ、アイツ経由とか最悪」

思わず眉をひそめる真人。

 

昨夜自分を裏切った"夏油"…もとい羂索から名前が漏れているとわかって、嫌な感触が背を這う。

 

祈月「でも……いい名前だと思うよ」

 

祈月がぽそりとそう言った。

その声音には、どこかあたたかさが滲んでいて。

まるで、壊れかけの何かをそっと撫でてくるようだった。

 

真人は一瞬だけ言葉に詰まり、それから視線をそらすように言った。

 

真人「ふーん…」

 

少し拗ねたように鼻を鳴らす真人。

自分で名乗れなかったのが気に入らなかったのか、

彼は言葉を続ける。

 

真人「じゃあ、君は何て名前?」

 

祈月「あたしは祈月。

人が月を畏怖して,自己投影する感情から生まれた呪い。」

 

真人「祈月……“月”か。だとすると、

花御と同じく、精霊に近い感じかな?」

 

祈月「“花御”??」

 

真人「俺の仲間だったやつだよ」

 

真人はどこか懐かしむような口調で語り出した。

 

真人「大地の呪いの漏瑚と、森の呪いの花御と、海の呪いの陀艮と、人の呪いの俺。俺たちで“呪いの時代”を作ろうとしてたんだ」

 

「……って言っても、昨日の戦いで花御は死んだし、

漏瑚も宿儺に挑んで殺された。

陀艮は……分からないけど、もしかしたら,もういないかもな」

 

そう言った真人の口調には、どこか曖昧さが残っていた。

 

実際、真人は陀艮の死を“見て”いないし,

誰かから聞いてもいない。

 

五条悟封印戦における花御の死は,

漏瑚から直接聞いて知った。

 

漏瑚については、

自ら虎杖のもとへ向かい,

指を飲ませて宿儺を起こしに行ったと知っている。

 

そして,漏瑚が渋谷をマグマに沈めながら宿儺と戦っているところを見た。

 

そして直後、宿儺は別の場所に現れ,魔虚羅と戦い。

──その後,宿儺の器である虎杖とは真人自身が戦った。

 

その事実から、真人は,漏瑚の死も容易に察することができた。

 

だが、陀艮だけは違う。

 

真人は、陀艮がどこで誰と戦っていたのかすら知らない。

 

それに、遠く離れた場所で仲間の魂が消滅したからといって、それを感知できるような能力は真人にはない。

 

真人「だから、断言はできないけどさ…

陀艮,生きてたらいいんだけど」

 

祈月は、その場に固まった。

胸の奥に、冷たい水が流れ込むような感覚。

 

真人が当たり前のように語る「仲間の死」が、

何よりも痛かった。

 

無意識に、真人の手をぎゅっと握っていた。

 

真人「まあ、でも。漏瑚たちも覚悟してのことだったからさ」

 

真人はそれ以上感情を乱すことなく言う。

「それにさ,五条悟封印したんだよ,俺たち」

 

祈月「え!?あの五条悟を!?」

 

真人「そ,"獄門疆"でね⭐︎

…あ〜,でもアレ……夏油(羂索)の作戦だったんだよな…

……今思えば,封印完了した時点で,アイツ殺しとくべきだったな……

……ほら,俺のこと吸ってた袈裟のヤツだよ」

 

祈月「うっわ,…アイツ軍師ポジだったんだ…

めっちゃイヤな策士じゃん……裏切り者の……」

 

あの羂索が,真人のかつての仲間,それも軍師ポジだった。

 

その事実は,祈月にとって,

五条悟が封印されたという事実よりも衝撃的で。

 

不協和音を奏でながら,心に煙を撒き散らしていた。

 

…真人は,この,微妙な空気になった話を切り上げ。

当然の疑問を口にした。

 

真人「ま,それよりもさ。君だよ。

君さ,そもそも俺たちの仲間じゃなかったのに、

昨日なんで渋谷に来てたの?」

 

「.....あそこ、呪力飽和でやばいってわかるじゃん。

強者だらけで死ぬ確率高いのに」

 

 

祈月「──あー……」

 

祈月は、一度だけ息をついた。

 

「実は、死のうと思ってた」

 

 

倉庫の中が、静かになった。

真人も、それ以上は何も言わず、ただ祈月の横顔を見ていた。

 

祈月「.....あたし、ずっとひとりでさ」

「他の呪霊は言葉も通じないし、術師は敵ばっかりだし、話しかけてくる奴は利用しようとしてくるだけだったし」

 

「もう、めんどくさくて。寝てるのが一番だった」

 

「でも、それすら疲れてきて.....寝てても虚無だし......じゃあ、いっそ死ぬかって」

 

祈月は、あくまで淡々と、事実を語るように言った。

 

祈月「昨日の渋谷、"死にに行く”にはちょうどいい場所だったんだよね」

「強い奴なら、サクッと殺してくれるかなって」

 

「でも、本当は...ずっと、誰かに呼んでほしくてさ」

 

真人はそこまで聞き,少しだけ、頬をかいた。

「へえ......」

「じゃあさ、俺が助けられたって思ってたの、ちょっと違うんだな」

 

祈月は、くすっと笑った。

「うん。多分ね、あたしが"助けた"んじゃなくて.......」

「"魂が惹かれた”だけなんだと思う」

 

その言葉に、真人の目がゆっくりと細くなった。

「.....同じだ」

「俺も昨日、吸収されてる時...

魂が勝手に叫んでた。"生きたい”って」

 

祈月は少し照れくさそうに、目をそらした。

「…..じゃあ、聞こえたんだ、魂の声が」

「"あたしを、呼んで”って誰かに言ってたあたしが、

真人の"生きたい”に呼ばれた」

 

真人は笑った。

「じゃあ......俺たち、"お互いに呼んだ”ってことで」

 

 

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