そして、まずはこの倉庫を出て、
休める場所を探そうという話にまとまった祈月と真人。
渋谷周辺を離れ、郊外の森へと移動した。
山の斜面、廃墟寸前の旅館の地下ーー
そこから自然の地熱で湧き出す小さな温泉。
ぬるめの湯けむりが静かに揺れる中。
戦闘の余波をもろに纏い,血や泥まみれ、
髪ボサボサの呪霊ふたりが、ざぶーんと肩まで浸かっていた。
祈月「.....生き返るぅ......」
真人「~~~~はあぁ〜〜~......!!」
ふたりとも、頭まで湯に沈みそうなほど、全身脱力。
当然,混浴。全裸。
でも、どちらも一切の羞恥心ゼロ。
なにせ、呪霊だから。
ふたりのとろけた声が湯に溶けて、
木々のざわめきと混じりあう。
静けさが、今はただ心地よかった。
しばしの沈黙のあと、真人がふと空を見上げた。
真人「陀艮……もしかしたら、
まだ生きてるかもしれないんだよな」
祈月「……うん」
真人「どこでどうなったか、見てないし。
魂も……ちゃんと感じ取れてない」
祈月「……だったら、探しに戻ろ」
祈月は湯の表面を見つめながら、小さく,しかしはっきりと言った。
祈月「“真人の仲間”なんでしょ?なら、あたしも会いたい」
「……でも、今は無理だよね?」
真人,祈月が陀艮捜索にあっさりOKしたことに,
少しぽかんとした顔を見せたが,
すぐにいつもの軽口テンションに。
真人「うん。今戻ったら、たぶん俺たち──
“術師側”に瞬殺されるね☆」
祈月「即・死」
湯気の中、顔だけ出して、2人して真顔。
祈月「そもそも呪力、すっからかんだし」
真人「俺も〜。渋谷とか,絶対,術師ウロウロしてるしな」
少しだけ間を置いてから、いたずらっぽく目を細めた。
真人「……というか,君は……まず,見た目から直したほうがいい」
祈月「はあ!?なにそれ!」
真人「いやいや、だって昨日来てくれたときさ、
君、髪ボッサボサだったし、服もはだけてるし、
完全に“末期”って顔だったよ? 」
祈月「や,ちょ……死ぬつもりだったんだから仕方ないでしょ!!」
真人「でも“仕方ない”のレベル超えてたよ?
あれ,敵も味方もドン引きするやつ」
祈月「うるさいなもう!!
真人だって、ひとのこと言える状態じゃなかったでしょ!?
脚,既に大半呑まれてたよ!?!?見たとき!!」
真人「.....それは.....じゃ,お互い様ってことで⭐︎」
昼前の温泉にて、脱力しながら,
わちゃわちゃと軽口を交わし合うふたり。
──だが、陀艮を探しに渋谷に戻るということは。
また,あの戦場に戻るということだ。
戦闘は終わったとはいえ,残党はいるだろう。
誰と遭遇するか予測できない。
わかっている。それでいい。
真人「虎杖に殴られて、そのまま逃げて終わり?
……そんなの、俺らしくないでしょ」
祈月「うん。戻るときは、ちゃんと殺す気で」
湯気越しに交わる視線。
真人の視線は,不敵さと僅かな興奮をまとい。
祈月の視線は,悪戯っぽさと真人への信頼をまとい。
ふたりとも。
次の戦いをはっきりと見据えていた。
湯にふわりと髪が漂う。
少しの沈黙のあと。
祈月「そういえば、真人の術式って……
あたしの傷,治してくれたけど…攻撃にも使えるの??」
真人「もちろん。“無為転変”。
魂に触れて、その形を変えることで、肉体ごと変形させる。壊すこともできるし、癒すこともできる」
「魂を術式で守ってるから,
魂に干渉してこない攻撃なら,いくら喰らっても平気。
逆に、触れたら──魂ごと潰せる。殺し技としては、最強」
祈月「へぇ……“魂に触れる”……
そもそも魂って,カタチとか…あるんだ…」
真人「まあ、俺は世界で唯一,魂の構造を理解してるからね……で,君のは?」
祈月「彩城魔壁。“バリア”を空間に重ねて設置する。
バリアって言っても薄い刃みたいな感じで,
バリアにぶつかった対象は真っ二つに斬れるよ。」
「あと,呪力が一定以下のやつなら,
肉体上にバリアを直接設置して斬れる。
これが"足切りライン"。」
真人「あー…あの時,俺の脚ぶった斬ったみたいに??」
祈月「ちょ…あれは!
あの袈裟のやつに設置できなかったから仕方なくだよ!」
真人「まあ,あの時の俺,やばいくらい消耗してたしね」
祈月「そーだよ,今の真人相手じゃ,肉体設置とかとても無理」
ふたりとも、どこか楽しげだった。
真人「ちなみに君,領域展開できる?」
祈月「もちろん。“夢幻桃源郷”。領域内、全座標バリア設置OK」
真人「うわ、いやらしそう,最高。」
「俺も領域展開できるよ,“自閉円頓裹”って名前。」
入れたやつの魂,ぶち壊して殺せる」
祈月「えげつなっ!いいじゃん。
…あとは,タイミングだね」
真人「そうそう。領域は切り札だから,いつ切るか」
この話題になると、
呪いとしての本質がのびのびと顔を出す。
ふたりとも、戦いを見据えながらも。
その声は,弾んでいた。