温泉から上がったふたりは、
脱衣所で髪を整え,新しい服と靴に身を包んでいた。
──昨夜の,渋谷での出会いは、
吸収されかけていた真人と,
ほんの直前まで虚無の底にいた祈月。
どちらも髪ボサボサ,
服も靴もどっか行ってるか,はだけてるかで,
ボロボロの状態。
その後,逃走劇、倉庫で添い寝を経て,温泉。
“ちゃんと整った姿”で向き合うのは、これが初めてだった。
先に準備を終えた祈月が、くるりと真人の方を向く。
祈月「……っ!!?ちょ、えっ……!?」
真人「ん?」
祈月「ちょっ……え、真人……なにその……っ」
指を差しながらわなわな震える祈月。
その先にいるのは、髪をしっかり乾かし、
灰青の三束おさげをもっふりと揺らす真人。
真人「ん、俺? どうかした??」
祈月「いやいやいやいや!!
そのもふもふの三束、なに!?
あたしの性癖ピンポイント狙撃なんだけど!?!?」
真人「え?性癖??」
祈月「今朝までの真人はボサボサだったでしょ!?
え??完全体って…こうなの??」
まるで,
幼馴染が突然爆ビジュで登場したかのような衝撃。
真人「あー,そういえば,この髪型見せるの初だっけ。
戦いの中でよくほどけちゃうんだけどねー。
いつもこれだよ?」
祈月「……最高。もふっていい??」
そう聞いたものの。
許可など待つはずもなく,三束おさげに手櫛を通す。
祈月「……もっふっっ!!〜〜はぁぁ〜〜〜♡」
真人「え,その反応してきたやつ,初めてなんだけど?
これ,どんな表情すればいいの,俺??」
祈月「いいよぉ…気にしなくて……♡」
そう言って,真人の髪に顔を埋める祈月。
額が触れるたびに、おさげがふわりと揺れて、
微かに真人がくすぐったそうに肩をすくめる。
真人「……いや、まあ……
君がそんなに喜んでくれるなら、別に、いいけど」
そう言い,戸惑いつつも,祈月の方に視線を向ける真人。
真人「でもさー、君だって。
髪ふわふわになってるし、
ウサ耳の毛並みも復活してるし。
人間の女よりずっとかわいい見た目してるじゃん、
ギャップすごいよ。」
祈月「そりゃあ…今の真人の隣に立つならさ。
あたしも本気じゃないと。釣り合わないじゃん??」
真人「君,俺への評価やたら高くない??」
祈月「極めて正当な評価だよ??」
そしてふたりは、本来のビジュの状態で。
湯上がりのほかほかした感覚そのままに。
山の斜面を下り、小さな住宅地の路地裏にたどり着いた。
真人「.....ん、ここでいいか。補充しとこ。」
祈月「ほじゅー?」
真人「ま、見てなよ」
真人は路地裏の向こう側から歩いてきた人間にすっと近づき、
なにげない動作で肩に触れる。
「一無為転変」
ドクンと肉体が震え、そのまま縮小。
たちまち指サイズの人間が、真人の掌に収まった。
祈月「え、なにそれ??」
真人「改造人間。俺の武器,兼、駒だよ。
昨日の戦闘で,全部使い切っちゃったからさ」
真人は、手のひらの上の"ストック"を指2本でひょいと持ち、祈月から見やすいように軽く振った。
祈月は、興味津々な様子で見つめる。
祈月「真人の術式って、魂に干渉するん...だったよね??
ってことは、それ、生きてるの?」
真人「もちろん。魂はちゃんと残してある。
戦わせる時は、元のサイズに戻すよ。一ーこうやってね」
真人は、今作ったばかりの改造人間ストックを、
路地裏の空きスペースにぽいっと投げた。
その瞬間,
バシュウッ!!と音を立て、空中で爆発的にサイズが戻り、改造人間の肉体がぬるりと地面に着地。
その姿は、関節が3つある不気味な手足、
筋肉の走り方も歪。
だが、その改造人間が脚を大きくスイングした瞬間。
ベキイッ!!と音を立てて電柱がへし折れた。
祈月「うわ、白兵戦の駒に使えるじゃん。便利~」
真人「だろ?......おっ!...逃げちゃだめ♡」
路地裏でスマホをポチポチしていたところ。
突如現れた改造人間の電柱破壊スイングに震え上がり、
その場から逃げ出そうとしたひとりの男。
真人は、上機嫌な様子で、その背中にポンと触れ。
瞬く間に、男は指サイズに縮小され。
ストックその2が出来上がった。
真人「ふーん、コイツの魂...
今のやつと合わせて"撥体"にできそう♪
複数の魂を混ぜた"多重魂”で、拒絶反応のエネルギーを使うやつ。
混ぜた瞬間、自爆するみたいに質量が跳ね上がるんだ」
そう言って,真人は,
電柱破壊スイングをした改造人間に触れ,再び縮小。
再度ストック化し,掌におさめた。
祈月「拒絶反応で質量爆弾?めっちゃ応用効くじゃん!
他にはどんなことできるの?」
真人「ん~,あとはね〜!幾魂異性体っていう、逆に拒絶反応が微弱な魂同士で......」
遊園地に向かう親友同士のように、
楽しげに話しながら歩き去るふたり。
路地裏には、破壊された電柱だけが残され。
ストックとなった人間の行方を見たものはいなかった。
——-こうして,渋谷への来訪の準備は。
着々と,進められていた。