渋谷駅・井の頭線付近。
その道路上に,祈月と真人は立っていた。
風が吹き抜け、空気は殺気を孕み始めている。
祈月「……来てるね。向こうも、気づいてる」
真人「ふふ……さぁて、やるか!!」
祈月は静かに呼吸を整え、
真人は楽しげに舌をぺろっと出す。
中央に立つふたりを囲むように──
ザッ……ザッ……ッ!
道路の両側から、挟み撃つように現れたのは。
虎杖悠仁。そして、脹相。
虎杖の眼には、激情の火はなかった。
だが、その“無音の怒り”は、周囲の空気を震わせる。
虎杖「……真人。そして──あの女の呪霊も」
その声には、もはや怨嗟も叫びもなかった。
ただ、殺すための意思だけが滲む。
真人は、ひらひらと手を振りながら、
口元に軽薄な笑みを浮かべた。
真人「あははっ!!久しぶりじゃん、虎杖♪」
──だが。
その視線が、道路の反対側に立つ人物を捉えた瞬間。
その笑みは、急速に消え失せた。
真人「……ってアレ?脹相??」
きょとんとした顔で、首を傾げる。
真人「オマエ,虎杖殺したいんじゃなかったの?
弟の仇だって言ってたよな??」
脹相は冷静に、穿血の構えを取りながら答えた。
脹相「……悠仁と壊相,血塗が殺し合ったのは、
加茂憲倫の謀略だった。
記憶が戻ったんだ。悠仁も──血の繋がった、俺の弟。
……俺は、悠仁のお兄ちゃんだ」
その言葉に、真人は完璧に思考が停止した。
真人「はぁ?弟??お兄ちゃん???
……意味わかんねー」
ぽかんとした表情で虎杖と脹相とを交互に見る真人。
祈月が小声で尋ねる。
祈月「……真人、アイツ知り合い?」
真人「知り合い,ってか、仲間だったんだけど……
なんか虎杖の味方してるみたいだし。殺していいよ。
俺は虎杖殺すから──祈月、アイツお願い」
祈月「…了解。任せて」
そう言って、ふたりは迷いなく担当を決めた。
脹相が口に出した「加茂憲倫」という名は、
羂索のことなのだが。
祈月と真人のどちらも──その名など知らなかった。
祈月は「真人と関わりがあるっぽい」という雰囲気に注目し。
真人は「脹相が虎杖の兄」という事実に困惑していた。
──加茂憲倫というワードは、
よりインパクトのある情報に埋もれ。
ふたりの中で完全にスルーされた。
そんなすれ違いのまま,戦いの構図は完成する。
虎杖「行くぞ、脹相!!」
その声を皮切りに。
脹相「百斂——穿血!!」
脹相の掌に、強烈な圧縮が走る。
紅の光が一気に収束、レーザーの如き血槍が──
祈月と真人を貫かんと直進!
だが──
真人「多重魂——撥体!!」
真人が叫ぶと同時に、手にした複数の改造人間を,
自分と祈月の足元に、勢いよく叩きつける。
ゴゴォォォン!!
魂の拒絶反応による質量膨張が巻き起こり,
アスファルトが盛大に隆起。
巨大な撥体が道路を抉り、足元が大きくせり上がる。
穿血は──その即席の「せり上がった地面」に命中し、
祈月と真人の身体には届かない。
その瞬間──
真人は虎杖へ、祈月は脹相へ。
決めた“担当”通り、左右の敵へと同時に駆け出す!
虎杖は拳を握りしめ、真っ直ぐ真人へ。
ゴガァン!!!
真人の棘付きの棍棒腕と、虎杖の渾身の拳が
衝突の勢いそのままにぶつかり、両者は軽く弾かれる。
次の瞬間、真正面から──対峙。
真人は両手を広げ,煽るように笑う。
真人「じゃあ、あの日の続きやろっか、虎杖♪
今回はもう、オマエのお仲間は誰も来ない──
正真正銘の一騎打ちでさ☆」
虎杖は何も返さない。
ただ無言で拳を握り、静かに──構えた。
一方──
脹相は,せり上がった地面に命中した穿血の軌道を
即座に変え、祈月を狙う。
ヒュオン!!
祈月は穿血を躱しながら大きく跳躍。
ふわりと着地したのは、脹相を飛び越えた先──
すぐに脹相も振り向き、互いに正面で対峙。
脹相は冷静に、祈月の正体を探る。
脹相「オマエ、俺たちの陣営にはいなかった呪霊だな
……何者だ?
真人と個人的に繋がっていたのか?」
だが祈月は、殺意を一切隠さず、冷たく言い放つ。
祈月「あんた、真人の仲間だったのに裏切ったってことでしょ。
だったら、あんたも──あの袈裟のヤツ(羂索)と同類。
……あたしから話すことは、何もない」
渋谷で真人を吸収しようとした“あの袈裟の男”が、
真人の元仲間だったと知った時の,不快感。
それと全く同じものが,祈月の胸中に巻き起こっていた。
祈月の言葉に、脹相の眉がわずかに動く。
母を弄び、自分たちに兄弟殺しをするよう仕向けた、
“あの男”と同類──
だが訂正はしない。
この呪霊に弁解することに、意味はない。
今は,一刻も早くこの呪霊を退け。
真人と戦う弟——悠仁に加勢しなければならない。
脹相「そうか。なら、俺からオマエに話すことも
──何もない」
静かに、しかし確かに。構えた。
──二つの戦場が、同時に始まろうとしていた。