虎杖は、真人への殺意を漲らせながら──
その頭脳は、極めて冷静だった。
(……くそ,瓦礫投げで目眩しからの不意打ちもダメか。
真正面から行けば、変形・改造人間・撥体
……全部捌かれて終わりだ)
正面突破で勝てる相手ではない。
向こうは変幻自在。変形、改造人間…手数が多すぎる。
それに対して、自分は拳ひとつ。
ならば──
虎杖は、真人に背を向けた。
──そして、一気に全力疾走開始!!
真人「は!?……おい、待てよ、逃げんの!?」
一瞬、思考がついてこず、声を上ずらせる真人。
しかし、すぐに追走を開始。
虎杖(……思った通りだ。ついてくる)
そのまま、虎杖は瓦礫を駆け抜け、
シャッターの歪んだショッピングモールへと滑り込む!
廃墟のようなアパレル店を抜け、
崩れたガラスの破片を踏みしめ,
ぐん、と階段を二段跳びで上がり──
──目の前に現れた、スタバの看板を飛び越える!
真人「……どこ行ったんだよ……っ、ああもう!!」
後を追ってきた真人もモール内に入るが、
2階に上がったところで──虎杖の姿を完全に見失う。
「ちっ……!」
じり、と舌打ちした直後、
真人は苛立ち混じりに手を振り上げた。
──「多重魂・撥体!!」
ズドォォォォン!!!
魂の拒絶反応により、爆発的に肥大化した肉塊が、
ショッピングモールの床下から激突!
困ったら撃っとけ感のある,
足場破壊の便利技,発動!!
ガラガラガラッッ!!!
ショッピングモール全体が、地鳴りとともに大崩落!!
だが。
虎杖は、すでにその“先”に。
(来るって思ってた……!)
建物ごと吹き飛ばされると読むや、
すでに虎杖は屋外へ脱出済み。
真人「……どこだ……クソッ……」
崩壊する瓦礫を器用に躱しながら、周囲を見渡す真人。
その背後──!
虎杖の身体が、無音で宙を駆ける。
足場に踏みつけるは,崩れた瓦礫。
狙うは──ただ一つ、真人の背中。
ドゴオオオオッ!!
炸裂したのは、虎杖の回し蹴り!
渾身の全体重を乗せた、背後からの殺意。
真人「がはっ……!? ぁあッ……!?」
完全にノーガード。
呪力の察知すら遅れた、完璧な奇襲。
真人の身体が吹っ飛び、地面に激突。
ズザァァアッ!!!
土煙を巻き上げながら、真人の体が転がる。
虎杖(……決まった!!)
チャンスは逃さない。
即座に瓦礫から跳び降りる!!
虎杖「うおおおおッッ!!」
拳を振りかぶり、真正面から、
"追撃”を叩き込まんと突撃!!
一方——もうひとつの戦場。
対峙するふたり。
左腕を負傷した祈月と,
脇腹を負傷した脹相——
その戦場には、もはや言葉はない。
先に動いたのは祈月だった。
祈月(あの血のレーザー…もう見切った。
次に来ても…バリアで受けて,逆流波で返せる!!
このまま接近……射程に入れて,領域展開で仕留める!!)
だがその思考の奥で、冷静な危機感も同時に点滅していた。
──脹相の“穿血”は音速に匹敵する。
一瞬でも反応が遅れれば、それだけで致命傷。
脳天にでも貫かれれば──それで終わり。
だからこそ、祈月は呪力感知を最大まで引き上げていた。
——祈月にとっては,一撃でもまともに被弾すれば,
敗北に直結,あるいは致命傷になるのが戦場の常。
自らの肉体の脆さ。
特級呪霊にして、驚異的な再生力のなさという弱点。
その制約を背負いながらも,生き延びてきた82年。
それにより,極限まで研ぎ澄まされた感知の精度。
先程,脹相の"超新星"
——ほぼ初見殺しの技に,
祈月がバリアによるガードを滑り込ませられたのも,
この呪力感知能力と反応速度のおかげに他ならない。
脹相の呪力の流れは全て見切った。
もう,何が来ても対応できる
——そのはずだった。
しかし。
祈月は,その瞬間。
"ぬるっ"とした,異質な呪力を感知。
脹相ではない。虎杖でもない。
もちろん,真人でもない。
猛スピードで渋谷——ここへと向かってくる,
不気味で,膨大な呪力——
祈月「………っっっ!?」
その呪力に感知が引っ張られ,
一瞬,脹相から警戒が外れた瞬間——
脹相「赫鱗躍動・載!!」
再び身体能力をブーストした脹相が,
祈月の懐に入り込んでいた。
祈月「!?…しまっ——」
バリアは──間に合わない。
咄嗟に右腕でガードし、防御に出る!
だが。
ベキッッッッッ!!
肉体強度の差は歴然。
脹相の,赫鱗躍動・載で強化された右腕に打ち負け—-
祈月の細い右腕が、嫌な音を立ててねじ曲がる。
骨が砕け、関節が逆方向に折れ曲がる。
次の瞬間には,大きく吹っ飛ばされ。
地面を転がっていた。
ズザアアアアアッ!!!
祈月「っ……ぁあああああッ!!!」
呻き声とともに地面に叩きつけられる。
右腕はダランと垂れ、完全に使用不能。
脹相「今だ…やれる!!」
脹相,即座に地を蹴る。
“赫鱗躍動《載》”のブーストを最大限に乗せ,
祈月めがけて突撃!!
──“逆転”の兆しは、まさに一瞬だった。
視界ロストによる虎杖の奇襲。
背中を抉る、全力の回し蹴りが真人の身体を吹き飛ばし、
地面に叩きつけた。
祈月の高精度な呪力感知。
しかし、それが一瞬逸れた隙を突いた脹相の一撃が、
祈月の右腕をへし折り、地を転がらせた。
それは別々の場所。
だが,奇しくも同時刻。
地面に転がった両者──
そこに畳みかけるかのように、
虎杖と脹相は、それぞれ敵へと突撃を開始!!
真人めがけて突撃する虎杖。
祈月めがけて突撃する脹相。
だがその一手──
勝利を確信したがゆえの“緩み”と“直線的な攻め”だった。
対する真人と祈月。
吹き飛ばされ、倒れていながら──
その目は、冷静に、静かに敵を見据えていた。
真人(これ,まっすぐ来るな。なら——)
仰向けに転がったまま、口元に笑み。
上体をゆっくりと起こしながら、腹部へ呪力を集中。
ぐにゃり、と腹部の肉が蠢く。
祈月(あ,突っ込んでくる。直線的な動き。
…これ,"読める")
祈月の左手が、脹相へとすっとかざされる。
呪力のラインが僅かに光る。
そして。
虎杖の拳が真人まで残り30センチに迫り。
脹相が,祈月へと突進した,
その瞬間。
ドチュッッッッッ!!!!
スパァァァァァン!!!!
炸裂したのは、2つの致命。
虎杖の目の前。
真人の鳩尾から──突き出された巨大なトゲが、
そのまま虎杖の心臓を,正面から貫いていた。
虎杖「っ……が、……あ…………ッ!!?」
その表情に、驚愕も、痛みも、間に合わない。
身体の動きが完全に止まり、
口元から赤が溢れ──そのまま膝から崩れ落ちた。
脹相の目前。
祈月の左手が示していた切断バリアの座標。
そこが、脹相の突進軌道と完全に重なり、
——脹相は,切断バリアに自ら突っ込む事態となり—-
脹相「っっっ──!?!!」
肉と骨と呪力を、まるごと貫いた音。
痛みすらない。
一瞬で,意識と命が落ちる。
脹相の身体は,胴体から真っ二つに裂け──
勢いのまま、地面に両断された上下が滑り落ちた。