乙骨は、荒れた呼吸のまま立ち尽くしていた。
身体は内側から、魂ごと削られたように重い。
だが──
思考だけは、研ぎ澄まされていた。
(このままじゃ、勝てない)
祈月のバリアに阻まれ,祈月と真人に接近できない。
夢幻桃源郷は、真雁相愛を侵食し続けている。
そして,乙骨のコピー術式。
今、コピーできている術式は──呪言。
渋谷事変で宿儺に切り落とされた、
狗巻棘の左腕を「リカ」が取り込むことで得たもの。
しかし、そこには重大な制約がある。
取り込んだ“部位”が、再生された場合。
その瞬間、術式的価値はゼロになる。
つまり──たとえ今、真人や祈月の肉体の一部を奪い、
リカに取り込ませたとしても。
その後に“無為転変”で再生されたら、
コピーは成立しない。
つまり,乙骨は。
無為転変、彩城魔壁──どちらもコピーできない。
そして,呪言は既に対策されている。
祈月も真人も,"無為転変"により,
呪言が通りにくい脳と耳の構造へと変質済み。
加えて──
《リカ》との接続可能時間は、残り2分弱。
これが切れれば,真雁相愛は強制解除される。
そしたら,
夢幻桃源郷の必中術式の餌食になって終わりだ。
このままでは,"詰み"だ。
だが——-
乙骨「……なら、“このまま”じゃなくす」
乙骨の瞳が,ギラリと光り。
掌に呪力を集中させる。
乙骨は、狙わない。
祈月でも、真人でもない。
──放った呪力砲は、“その横”を抜けた。
ズオォォォォン……!!!
呪力砲はまっすぐ突き進み、
領域の“外郭”を正面から薙ぎ払う。
ドゴォォォッ!!
外殻の空間が、爆ぜるように揺れる。
真人「は?どこ狙って……??」
祈月「え…君,まさか———」
さらに、乙骨は──照射方向を旋回させた。
ズシュシュシュシュシュッ……!!
照射角が広がる。
呪力の奔流が、まるで空間そのものを“削ぎ落とす”ように、
領域の外殻全体を斬り裂いていく。
結界が、軋む。
──ビシィッ……!
──バキバキバキバキッッ!!
祈月「マズい……止めなきゃ!!」
阻止すべく,祈月が動こうとした、その刹那──
ズッ。
リカが、静かに乙骨の前へ立ちはだかった。
動かない。ただ、構えている。
その掌に、正のエネルギー…"反転アウトプット"の構え。
真人「マジか。それ、オマエもできんのか…っ」
祈月「……っ……ッッ!!」
これまでは、“リカ”が突っ込んできた。
だから、待ち構える形で,
そこに切断バリアを"置くだけ"で良かった。
だが──今、“リカ”は動かない。
待っている。
こちらが動けば、“触れてくる”。
その恐怖が、祈月と真人の足を縛る。
その隙に、乙骨はもう一手。
二つの領域──真雁相愛と夢幻桃源郷。
その“押し合っている部分”に干渉し始める。
呪力を細く、鋭く、境界に差し込み、
ゆっくりと、だが確実に──“かき混ぜる”。
混ぜられた空間は、“ねじれ”を起こす。
異なる呪力が、互いに噛み合わず、
摩擦を起こすように──
乙骨「……“解除”」
──バチン。
真雁相愛、乙骨自ら解除。
その瞬間、空間が崩れる。
ギギギギ……バリバリバリッ……ッ!!
混ぜられた“ひずみ”が、真雁相愛の解除とともに爆裂。
夢幻桃源郷の領域構造にも亀裂を走らせる。
そして。
──カシャァァァァァァン……!!
空間がガラス細工のように割れ、色が剥がれ落ちる。
真雁相愛,夢幻桃源郷——-同時崩壊!!!