真雁相愛,夢幻桃源郷——-同時崩壊。
結界がひしゃげ、ガラス細工のように割れ、
色彩が剥がれ落ちる——
祈月「…巻き込んで…壊された…!!」
真人「はっ,やりやがったな……」
結界の圧が消え、
代わりに吹き込むのは、冷たい外気,血と鉄の匂い。
直後──
ビシュウウウ……ッ!
乙骨の背後に控えていた“リカ”の姿が、淡く霧散するように消えていく。
《リカ》との接続、強制終了。
そして、祈月と乙骨の術式も,同時に焼き切れる。
現在の三者の状態は——
全員,満身創痍。
"無為転変"を二度喰らい,腹部から血を流す,
術式焼き切れ中の乙骨。
反転アウトプットを喰らい,胸部に亀裂を抱えた真人。
真人による治癒により,現在は外傷こそないものの,
術式焼き切れ中の祈月。
三者とも,領域展開やここまでの戦闘により,
既に呪力の大半を消耗済み。
——しかし、止まらない。
静寂を切り裂くように。
乙骨が、動く。
即座に刀を構え,
祈月と真人めがけて突撃!!
乙骨(あの女呪霊の術式は焼き切れた
——もう切断バリアは飛んでこない!畳み掛ける!!)
だが。
真人「多重魂——撥体!!」
荒々しく改造人間ストックを指に挟んだ真人の両腕が,
即座に前に突き出される!
パァン──!!
その掌から,
改造人間同士の魂の拒絶反応を利用した
質量爆弾が一斉に発射!
乙骨(……!!真人の領域解除から,
まだ1分程度しか経っていないはず…
なのにもう,術式が…!!)
しかも。
撥体の向かう先——標的は,乙骨ではない。
虎杖悠仁。
真人「"守る"だろ?お仲間だもんな?」
心底楽しそうな,真人の声。
乙骨「────ッ!!?」
視線が跳ねる。
地面に倒れたまま、まだ目覚めない虎杖の姿。
真人に心臓を貫かれ,乙骨によって治癒され。
まだ意識が戻らないまま,
道路に転がっているその身体。
これまでの戦闘は,
真雁相愛vs自閉円頓裹,真雁相愛vs夢幻桃源郷——
領域の押し合いが常に起こっていた,
領域内戦闘だった。
領域内と領域外は,
結界によって完全に隔絶される。
虎杖の肉体は戦闘空間から隔てられていた。
だが今や、結界はない。
撥体は一直線に、虎杖へと向かう──!
急制動。
乙骨は反転するように足を踏み込むと、即座に進路を変更。
祈月と真人に迫っていた軌道を切り上げ、
即,Uターン!!
全力で虎杖の元へ向かって走る!
乙骨(間に合わせる──僕が間に合わせる!!)
撥体が迫る。
虎杖を飲み込む寸前——
その刹那。
ドンッ──!!
空気が破裂する音と共に、乙骨が割り込む。
そのまま虎杖の身体を抱きかかえ、勢いそのままに跳躍!
撥体はすぐ背後を掠め、道路を抉って爆ぜた。
土煙と破片が舞い上がる中、
虎杖の身体は乙骨の腕の中へ──
乙骨(……間に合った……!)
地面に着地すると同時に、乙骨は即座に状況を分析する。
乙骨(くそ……今、虎杖君を放したら
──また標的…最悪,人質にされる……!)
そして決断。
乙骨(……今は、離脱しかない…!!)
呼吸を整える暇もなく、再び地を蹴る。
虎杖をしっかりと抱えたまま、乙骨は渋谷を駆ける。
──これは“退却”ではない。
“虎杖悠仁を守るための戦略的撤退”──
走り去るその背を、呪霊ふたりは静かに見ていた。
真人「……お、逃げた逃げた♪」
肩を軽く回しながら、にやにやと口角を吊り上げる。
真人「どーする?追う?
俺、今けっこうノッてるけど?」
その問いに、祈月は視線を閉じて,呪力感知に集中。
空気の流れ。呪力の粒子。戦場の“外”──
祈月「そうしたいのもやまやまだけど…
……派手に暴れすぎた。
術師の気配が、集まってきてる」
「潮時かな」
淡々とした口調。
だが、その言葉には明確な判断力が宿っていた。
真人は、ふっと息を吐き、天を仰ぐ。
真人「まー……それもそっか。結構消耗したし」
「また“夏油”みたいなのに来られても、
シャレになんないしね〜」
苦笑混じりのその言葉は、
過去の敗北を思い出してのものだった。
祈月「だね。……帰ろ、真人」
真人「りょーかい♪」
ふたりはきびすを返すと,
渋谷を離れ,拠点へと帰っていく。
──渋谷に残る爪痕は,未だ全く癒えず。
だが、戦場としての渋谷は、
静かに幕を閉じようとしていた。