虎杖と宿儺の戦いが続く,遺体安置所。
そこに——駆けつける一人の影。
乙骨「虎杖君、伏黒君!!」
——乙骨憂太。
禍々しい,異質な呪力を感知した彼は——
全身に纏う呪力を放出しながら、飛び込んでくる。
彼の目に飛び込んだのは、
血を流しながらなおも立ち上がる虎杖と、
禍々しい呪印を浮かべた伏黒の姿。
乙骨「え……宿儺??」
「伏黒君……なんで……!?」
声が震える。状況が理解できない。
だが、時間は待ってくれなかった。
虎杖「乙骨先輩!! 頼む、今は一緒に、コイツを!!」
──その言葉が、すべてを物語っていた。
乙骨の瞳が、すっと戦闘の色に変わる。
一方,宿儺は。一瞬、思考をめぐらせた。
(伏黒恵の魂が俺に抗っているこの状況,
この小僧どもを殺しきるのは難しい——否。
ならば——
"殺せる空間"に塗り替えるまでだ)
即決。
宿儺は、ぴたりと手を合わせ——
宿儺「領域展開———《伏魔御厨子》」
──ガアアァァァァァァァッ!!!
呪力の奔流が渦を巻き、
空間に,牛骨に囲まれた寺の堂が出現。
乙骨「っっ……!!領域展開———《真雁相愛》!!」
乙骨も即座に掌印を組み,応戦する。
だが——
状況は最悪だった。
宿儺は、伏黒の魂の抵抗により出力が落ちてはいる。
だが,それでもなお呪力の総量は乙骨の倍以上。
しかも——-
乙骨は本日,すでに,
祈月&真人との戦闘で領域を一度展開済み。
そして,真人の“無為転変”を二度受けたダメージが
尾を引いており,回復しきっていない。
更に———
宿儺の領域、《伏魔御厨子》は、外郭を持たない。
つまり、乙骨の《真雁相愛》の外からでも
必中効果が届いてくる。
領域の外郭に降り注ぐ“無数の斬撃”。
──ガギギギギギィィィィィ……!!!
《真雁相愛》の結界壁が削られていく。
耐えきれない。
支えきれない。
乙骨「……くっ……!!」
乙骨が苦悶の声を漏らす。
そして——
ガシャァァァァァン!!!!
《真雁相愛》、崩壊——!!!
空間が完全に、《伏魔御厨子》に塗り潰される。
そこにいるのは、王。
全てを斬り伏せる、“呪いの王"。
──そして、斬撃の雨が降り注ぐ。
《伏魔御厨子》の領域内——
虎杖と乙骨は、
絶え間なく降り注ぐ斬撃の雨に晒された。
──それはもう、どうにもならなかった。
《伏魔御厨子》の必中範囲は、半径およそ二百メートル。
その中に存在する、
呪力を持つモノ,持たぬモノ。
生物、無生物、その全てに。
“王”の裁断は、等しく下される。
乙骨の呪力での防御は、
とうに限界を迎えていた。
反転術式も、もう練れない。
虎杖は、渾身の根性だけで立っていたが、
その両腕は裂かれ、
腹には深々と鋭い断裂が走っていた。
──斬り刻まれる。
もう、感覚は機能していない。
全身が裂け、血が霧散し、
骨すらも細切れにされ,灰燼と化してゆく。
病院の壁が、一瞬で消し飛ぶ。
病院内の人々は,風と消える。
伊地知は,手元の資料ごと砂塵と化す。
道路のアスファルトが裂ける。
信号機が粉砕される。
車ごと通行人が、粒子になって空に消える。
街が。
世界が。
呪いの王に斬り伏せられていく。
──そして。
ギィ……ン……と、鈍い音を残して、
《伏魔御厨子》が、解除された。
静寂。
そこに、“建物”もなかった。
そこに、“人”など、もういなかった。
"死体"すら,存在しない。
あるのは,ただ,"地面"のみ。
更地と呼ぶことすら生ぬるい,
ただ一面の、焦土。
その中心に——
宿儺が立っていた。
伏黒恵の身体。
だが、もはやそこに伏黒の意思はない。
虎杖と乙骨の死。
津美紀の,遺体すら残らぬ,完全な消滅。
無数の無関係な人々の殺戮。
全てが重なり——
伏黒の魂は、沈んだ。
沈んで、沈んで、沈んでいった。
宿儺の意識の底、どこにも浮かび上がってこないほど深く。
もう——二度と、抵抗などできないほどに。
宿儺は、その沈黙を確認すると、
ゆっくりと手を下ろした。
宿儺「……ようやく、静かになったな」
その声は、誰に向けたものでもなかった。
ただ、勝者のものだった。
ただ、王のものであった。
今、ここに——
“呪いの王”は、完全なる復活を果たした。