静かな山奥。
付近の天然温泉の匂いがうっすらと空気に混ざり,
静かな風の音だけが聞こえる拠点の小屋。
祈月は,ふかふかのキャスターチェアの上、
うつらうつらとまどろんでいた。
隣には、ハンモックの中で無防備に身を預ける真人の姿。
ゆるやかな寝息を立て,
その手は無意識に毛布を掴んでいる。
呪い同士が,温もりを灯し合う。
この瞬間だけは、
世界に争いなど存在しないような静けさだった。
──だが、突然。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!!!!
祈月の呪力感知が,爆音で警報を鳴らす。
祈月の瞳が、ぱちりと開かれる。
次の瞬間には、全身に総毛立つような震えが走った。
莫大で、異質で、禍々しい呪力。
遠い。彼方。だが——確実に感じる。
それはまるで、大地そのものが呻き声を上げるような…
"強者"とか,"猛者"とか,
そんな言葉で表現できる相手じゃない。
“厄災”の波動———
祈月「……っっっ!!!」
キャスターチェアを弾くように飛び出し、
祈月はハンモックに駆け寄る。
真人の肩を揺さぶる。
祈月「起きて!!真人!!」
真人「ん、……ぅ……どしたの……?」
眠たげな声。
呪いとは思えぬほど穏やかな顔で、
真人がうっすらと目を開く。
指で目元をこすりながら、まだ完全に覚醒していない。
祈月「ねぇ、これ……呪力反応……」
「ビリビリ来てるの、あっちの方角……何……!?」
声が震えていた。
ただの敵接近なら、祈月はここまで取り乱さない。
それは,こちらに近づいているわけではない。
ただ,"在る"だけでこの異常な圧。
この”質”だけで——祈月には、察するものがあった。
真人も、ようやく寝起きの頭を切り替え、
呪力感知に意識を集中させた。
そして、数秒後——
真人「………………宿儺」
静かな、しかし確信を帯びた声。
祈月「え……宿儺?でも……
アイツ、器から出てこれないはずじゃ——」
そう。
本来、両面宿儺は、虎杖悠仁の中に封じられている。
自ら肉体の主導権を奪うには、
「縛り」などの特殊条件が必要なはず。
真人「……そのはず、なんだけどね……」
ゆっくりと身体を起こす真人。
彼の表情からは、眠気がすっかり消えていた。
真人「これ、間違いない。アイツだよ、宿儺。」
「10月31日、渋谷で"見た"のと,同じだ」
祈月は、ぞっと背筋を凍らせる。
だが,思考は冷静さを取り戻していく。
世界は今,間違いなく急変している。
何をするにせよ,まず必要なのは,
一刻も早い状況把握。
祈月「……探ろう。情報が要る」
祈月の目が,鋭く細められた。