あたり一面、瓦礫も残らぬ焦土。
都市ごと吹き飛ばされ、
ぽっかりと“空白”が空いたような一帯に。
ただ一人,立っていた。
両面宿儺。
その姿は、伏黒恵の肉体を用いながらも、
魂は,完全に宿儺のものであった。
——その時。
ザッ……と、地面を音もなく踏みしめ、
一つの影が宿儺へと近づく。
白いボブカットの髪に、後頭部の鮮やかな赤。
中性的な輪郭と、冷たい光を宿すその瞳。
その人物は、迷いなく膝をつき、頭を垂れる。
裏梅「お迎えにあがりました。
——お帰りなさいませ、宿儺様」
言葉は静か。だが、確かに滲んでいるのは——
千年越しの忠誠と、主の“完全復活”への喜び。
宿儺はわずかに目を細め、口の端を持ち上げた。
宿儺「…裏梅。待たせたな」
長き刻を超え、ついに再び“主従”が揃う。
そして——
宿儺「飢(かつ)えていた。
千年ぶりの食事といきたい。……裏梅よ」
「料理の腕は、落ちていないだろうな?」
その問いに、裏梅の表情が緩む。
裏梅「お任せください、宿儺様」
「この裏梅、宿儺様お好みの逸品をご用意いたします」
返答は即答。寸分の迷いもない。
主の飢えを満たすということこそ、
裏梅の存在理由なのだから。
地獄の斬撃の後、王が次に欲したのは、
——晩餐(ディナータイム)。
それは暴虐でも残虐でもなく、
ただ純粋な“望み”。
裏梅は一礼し、宿儺の歩みに先んじて進み出す。
場所は変わって、某所。
深い森に囲まれた山奥の古びた屋敷。
だが、内部は整然と整っていた。
まるで主を迎える準備のように。
宿儺と裏梅が玄関をくぐったその時。
既に一人の男が、
ちゃぶ台のような円卓の前に座っていた。
袈裟に身を包んだ,長い黒髪。
隙のない所作。
そして、その顔には、どこか人を喰らうような笑み。
──羂索。
羂索「やあ。
千年ぶりだね、宿儺」
「……復活、おめでとう」
宿儺の瞳が細まる。
宿儺「羂索。……あの小僧の肉体は、貴様の仕込みだろう」
「相変わらず……気色の悪いことばかりしているな」
口調は軽く、嘲るようでありながらも、
そこにあったのは,妙な“親しみ”。
羂索「フフ……言われ慣れてるよ、君にね」
「けどまぁ、結果的に、君の復活に繋がったんだ。
祝杯ぐらいは挙げても罰は当たらないだろう?」
裏梅は無言のまま、粛々と厨房へ向かう。
王の晩餐の準備に余念はない。
宿儺。
裏梅。
羂索。
平安の世の,主人,従者,その悪友が。
再び、この世に集った瞬間だった。
————
静かな山荘の一室。
調理を終えた裏梅が,次々に料理を運ぶ。
座卓の上に並ぶのは,
裏梅が手ずから調理した、絶品の肉料理。
血の旨味を引き出し、柔らかく煮込まれた逸品たち。
宿儺はそれを,愉悦を滲ませながら口に運び。
素直な感想を口にした。
「やはり美味いな。裏梅」
「光栄でございます。宿儺様。」
裏梅が微かに頬を紅潮させる。
主に褒められる。それだけで、彼女の全てが報われる。
裏梅もまた,宿儺の隣で箸を進める。
そして、
対面では、やたらと饒舌な男が声を弾ませていた。
羂索「いやー!ほんっと今回ばっかりは驚いたよ!!」
ワイングラスを片手に、
裏梅の料理を頬張りながら。
テンションを抑えきれない様子で。
羂索「まさかさ、あの真人を、いきなり月の呪霊に
奪い去られるとは思わなかったんだよね〜!」
「いや、それ自体はめちゃくちゃ面白かったんだけど、
死滅回游が開かなくなっちゃってさ?
ほら,無為転変がないと,器の強度が足りなくて,
受肉体たちが覚醒できないじゃん?」
宿儺は黙って耳を傾けている。箸が止まらない。
羂索「だからさー、
とりあえず一般人に取り込ませた呪物の回収してたわけ!
そしたら、その真人と月の呪霊が、なんと渋谷に戻って来てさ?」
「そこで、まさかの——脹相を殺す!!」
「で、虎杖悠仁と伏黒恵が、兄と姉を同時に失ってさ……
魂の折れた状態で、互いに寄り添って——」
ここで羂索、身を乗り出す!
羂索「——宿儺、君の復活チャンス、大・到・来っ⭐︎って、
もう、どういう因果!?」
「しかもさぁ!
真人が君ごと虎杖悠仁を殺そうとしたところを、
乙骨憂太が止めたんだろう??
もうさぁ...なるべくしてなった、復活劇だよね!!」
裏梅のこめかみに青筋が浮かぶ。
裏梅「……貴様、宿儺様に対してその軽口……。
少しは口を慎め!!」
ビシリと鋭い声音。
怒気を孕んだ視線が、ギラリと羂索を射抜いた。
だが。
宿儺はと言えば、ゆるやかに口元を綻ばせていた。
宿儺「……まあ、いい。羂索」
「オマエの変な計画も、今回は珍しく役に立ったな」
片手で盃を取り、口に含む。
喉元を過ぎた酒が、心地よく焼ける。
宿儺「そして、あのツギハギ呪霊と、女呪霊——
それに、憑霊の餓鬼」
「……確かに、良い働きをしてくれた」
宿儺の瞳が細められた。
その目には、喜びと嗤いが混ざり合っている。
宿儺「まるで、互いに首を差し出すように連鎖していく。
……あのドミノ倒しのような喜劇、
見ていて実に快感だったぞ」