真人救済ルートin渋谷事変   作:祈月4777

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千年ぶりの余暇,終わらない計画

2018年12月8日。

深い森の中,山奥の屋敷。

 

ここには、静寂と、贅沢と。

圧倒的な強さだけが存在していた。

 

朝。

 

山の気配を孕んだ冷たい空気が、

わずかに窓から入り込む。

 

宿儺は、布団の中で目を覚ますでもなく、

静かに寝息を立てていた。

 

彼にとって「戦う理由」は何もなかった。

 

挑んでくる術師がいない。

 

だから、殺しも、食事も、睡眠も。

全ては「気の赴くまま」。

 

何者にも束縛されないこの暮らしは、

千年の封印から解き放たれた宿儺にとって、

むしろ新鮮だった。

 

「……くだらん」

 

起き上がると同時に、宿儺は低く呟く。

 

だが、その口元には、

皮肉とも嘲笑ともつかぬ薄笑いが浮かんでいた。

 

満足しているのか、していないのか

——彼自身にも分からない。

 

ただ一つ確かなのは、

 

「王」として振るうに足る“敵”が、

この時代には,どこにもいないことだった。

 

ほどなくして、朝食が運ばれてくる。

 

陶器ではなくガラスの皿に盛られた、

カリッと焼き上げられたクロワッサン。

 

スクランブルエッグと、ベーコン。

サラダにフルーツヨーグルト。

 

紅茶には、角砂糖がひとつ添えられていた。

 

宿儺は眉をひとつだけ動かし、

静かに尋ねる。

 

「これは、何だ?」

 

裏梅は丁寧に一礼して答える。

 

「クロワッサンと呼ばれる、西洋の焼き菓子です。

フランスという国で主に食されております。

宿儺様の好みに合うかと思い、選びました」

 

宿儺は無言のまま、指先でクロワッサンを裂いた。

その断面から、バターの香りがふわりと立ちのぼる。

 

小さく千切り、口に含む。

 

咀嚼。飲み下す。

 

「……なるほど。悪くない」

 

そしてスクランブルエッグを、ひと匙。

ベーコンを噛みしめ、

紅茶をすすりながら、ふと呟いた。

 

「こういう“戦の気配のない食”も、

……千年ぶりだな」

 

裏梅は、主の言葉に対し、

特別な反応を示さなかった。

 

ただ、黙って一礼する。

 

その横顔には、

かすかな安堵と、深い忠誠だけが宿っていた。

 

千年の時を経て、再び主の隣に在る。

そのこと自体が、

裏梅にとっては“報われた人生”に等しかった。

 

 

一方、都内のとあるビルの中。

 

羂索は、天元と日本人との「超重複同化」を成立させるための「慣らし」,

つまり,結界内を呪力で満たすための下準備を進めていた。

 

当初の構想では,

 

無為転変によって受肉体や,術式持ちの一般人を覚醒させ,

彼らに殺し合いをさせる"死滅回遊"の開催で,

この「慣らし」とする予定だった。

 

しかし,

真人を取り逃がしたことで、その計画は頓挫しかけていた。

 

だが,羂索は動じない。

 

──軍人誘致。

 

羂索はすでに動き出していた。

 

海外の軍人たちを日本に招き入れ,

呪霊との戦闘による大量虐殺をもって、呪力の嵩を稼ぐ。

それこそが、新たな「慣らし」の代替案。

 

実行可能性は高く、既に複数の国と裏取引を進行中だ。

 

また,受肉体についても。

適当に選んだ一般人に呪物を飲ませるのではなく,

初めから"器"としての素質を持つものを選ぶことで。

無為転変抜きでも覚醒させられる見込みは充分にある。

 

羂索は,軍人誘致と並行し,

その器探しも行っていた。

 

ただ、一つだけ計算外の問題があった。

 

——逃げた祈月と真人。

 

羂索は、加えて,ふたりの追跡も同時進行していたが、

ことごとく攪乱されていた。

 

祈月は感知能力に特化した特級呪霊。

 

気配を抑えられれば、

一般的な術式探知ではまず見つけられない。

 

加えて、真人。

 

こちらは、追跡用に放った従属呪霊に、無為転変で,

ニセの記憶を“上書き”されて帰ってきた個体すらいる始末。

 

羂索「ふふ……愉快な奴らだ」

 

ただ,好奇心と探究心を原動力に,

人間の可能性を追い求め続ける羂索。

 

その表情には怒りではなく、

むしろ軽い賞賛すら浮かんでいた。

 

 

 

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