真人救済ルートin渋谷事変   作:祈月4777

35 / 44
終わった国

2018年12月8日。

祈月と真人は、とある民家にいた。

 

そこは元々、一般人が住んでいた家だったが,

すでに住民は“処理”済み。

 

今はふたりだけの拠点だ。

 

以前の拠点は、天然温泉付きの小屋だった。

山奥で,空気も心地よく。

 

祈月のお気に入りで、

真人にとっても過ごしやすい場所だった。

 

しかし──

 

その快適な小屋は、羂索に場所を嗅ぎつけられてしまった。

 

羂索だけなら、ふたりがかりで勝てない相手ではない。

真人にとっては、裏切りの過去もある因縁の相手。

できれば殺しておきたいところだ。

 

だが──羂索の背後には、宿儺がいる。

あの“化け物”の名がちらつくだけで、事態は複雑になる。

 

もし羂索を殺せば、宿儺がどう動くか分からない。

祈月も真人も、それだけは避けたかった。

 

宿儺に目をつけられたら終わりだ。

 

だから、非常に不本意ながら──

あの温泉付きの快適な小屋を、捨てるしかなかった。

 

真人「はぁ……“夏油”だけなら

俺と祈月で殺せそうなのにさぁ、

なんでアイツのそばに、宿儺いるんだよ……」

 

真人はソファに仰向けで寝転がり、

天井を見上げて不満を漏らす。

片腕をダラリと下げ、指先を暇そうに宙で揺らした。

 

祈月「せっかくのハンモックも、

あのふかふかのキャスターチェアも,

全部置いてきちゃったしさ……」 

 

「……もったいないよね」

 

祈月は、リンゴを丸かじりしながら返す。

カリッという音が、静かな部屋に響いた。

 

真人は眉をひそめながら、続けた。

 

真人「ていうかさ、術師界が壊滅したのはまあ良いとして……

宿儺が復活したってのに、

全然“呪いの時代”来ないじゃん?」

 

祈月「そりゃあ……」

 

リンゴをもうひと口かじってから、平然と答える祈月。

 

祈月「宿儺って、“呪いの王”とか言われてるけど──

結局、種族的には“人間”だもん。

呪霊のトップじゃなくて、人間の化け物。

そんなのが上に立っても、

呪霊が幅を効かせられるわけないよ」

 

真人は、むすっとした顔で視線を横にそらす。

 

真人「……“夏油”が言ってたんだよな。

五条悟を封印して、宿儺を復活させれば、

呪いの時代が来るって」

 

その声には、じわじわとにじむ怒気が混じっていた。

 

真人「今思えば、アイツ──嘘ついてたな。

宿儺が,呪いにとって有益になる存在じゃないって分かっててさ。

自分が宿儺の仲間だから,復活させたかっただけ」

 

「蓋開けたら、宿儺が全部持ってっちゃってんじゃん!」

 

そう言って,苦々しく歯噛みした。

 

祈月「まあ……あの袈裟のヤツは、

そういうヤツだったんだよ……」

 

祈月がぽつりと呟く。

どこか諦めを含んだような声色。

 

真人「そうなんだけどさぁ〜……!」

 

真人が声を張り、ゴロリと転がった。

ソファの背もたれから足をだらりと投げ出し、

苛立ちを隠さない。

 

真人「マジでさ、損しかしてないじゃん。

宿儺だけ気ままにのさばってさ〜。

あいつら全員、俺らの成果で得してるし」

 

祈月が、リンゴをかじる手を止めた。

 

祈月「じゃあ……これから、どうする?」

 

しばしの沈黙。

 

やがて──

 

真人「それなんだけどさ……」

肘で身体を支えて半身を起こす。

 

真人「なんかもう、この国、終わってね?」

 

ぽつりと投げられたその一言に、祈月は瞬きを一つ。

 

真人「こっちが何もしなくても、

勝手に連鎖的に崩れてんだよね〜、呪術界。

もうわざわざ壊しに行くの、逆に親切って感じ?」

 

「宿儺がいるせいで、“夏油”も殺せないし。

呪いの時代も来ないしさ」

 

祈月「え? じゃあ……海外、行っちゃう?」

 

祈月は、リンゴを両手で抱えたまま、

キラキラとした目で身を乗り出していた。

 

祈月「どうせ宿儺がいる以上、

日本で騒いでも潰されるだけでしょ?

だったらもう,別の国行っちゃおうよ」

 

真人がぴたりと動きを止め、目を細める。

 

真人「……ああ、それアリだわ……てか,それだ」

 

ソファに肘を突いてふたりで向き合う。

その顔に浮かんでいるのは、焦燥ではなく、興味。好奇心。

この国に未練など、一欠片もない。

 

真人はソファから跳ね起き、ぱちんと指を鳴らす。

 

真人「だったらさ,イタリア行こ!

本場のジェラートとかピザとかあんでしょ?

しかもさ、呪霊って見えないじゃん?

飛行機、タダ乗りできるし!」

 

祈月「空港の保安検査も、

セキュリティも全部すり抜けでしょ?最強じゃん」

 

ふたりは顔を見合わせて、ニッと笑った。

 

真人「ってことで、イタリア決定?」

 

祈月「決定♡」

 

即断実行。

荷物など何も持たず,民家を後にし,成田空港へ直行。

 

イタリア・ローマ行きの便を見つけ,

そのまま堂々と,空いている隣同士の座席に。

係員も警備も、誰一人として気づかない。

 

真人「これ、めっちゃ楽しいな……」

 

そう呟いた真人の顔には、

久しぶりに本当の笑みが浮かんでいた。

 

呪いの時代は来なかった。

宿儺の王国にいる意味はない。

術師の世界も、裏切りも、羂索も関係ない。

 

今のふたりにあるのは、ただ──

 

自由。

 

新たな“居場所”を探して。

新たな“生”を楽しむために。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。