真人救済ルートin渋谷事変   作:祈月4777

37 / 44
食い逃げ

飛行機がローマ・フィウミチーノ空港に到着したのは、

現地時間で午後3時過ぎ。

 

祈月「……ついたぁ〜〜!!」

真人「ふふ、空気ちょっとあったかいね〜」

 

乾いた風。どこか香辛料の匂いが混ざったような空気。

観光客の喧騒。

 

そして眼前に広がる——ローマ。

 

ふたりはそのまま、

空港の入国審査ゲートを、

ただのオブジェと言わんばかりに

歩いて突破。

 

係員A「……!?」

係員B「……なんか、ゲートの感知が…」

係員C「……風じゃない?」

 

——まあ、見えないし。

 

堂々と素通りし、

ロビーを抜けた祈月と真人が向かったのは。

「地元民が集う人気ピッツェリア」。

 

イタリア語の看板など読めないが,

直感と嗅覚だけで選んだピザ屋。

 

本来,呪霊に食事は必要ない。

呪霊の肉体は呪力で構成されており,

それは自己補完の範疇,削れても自然回復するためだ。

 

だが、祈月や真人は、人型であるためか,

人間に近い味覚を持つ。

 

だから、特に空腹という感覚はないが。

食事は,嗜好品なのだ。

 

ピザ屋に入ったふたり。

しかし一般人から見えない以上,

注文など出来ようはずもない。

 

——それはいつものこと。何も問題ない。

 

祈月「ピザ屋来たのに席座る気ゼロだもんね,あたしたち?

厨房直行だもん」

 

真人「そりゃ,呪霊だし?

不可視の特権フル活用でしょ☆」

 

そう,ふたりはスッと厨房にダイレクト侵入。

 

当然、誰にも気づかれない。

 

厨房では、店員が「マルゲリータできたよ!」

と鉄板を掲げたその一瞬の隙に——

 

祈月「いただきまーす」

真人「もらうねー」

 

すっと鉄板からピザが消える。

それは,煙のように。

ふっ,と。

 

店員「……ん?あれ!?!?ピザ!?!?」

 

次の瞬間、厨房の奥から聞こえる悲鳴。

 

店主「オイ!!ダリノ・ピッツァ!?!?!」

 

そんな喧騒はどこ吹く風と。

 

祈月と真人はカウンター横の壁にもたれかかり,

出来立てのピザにかぶりついていた。

 

祈月「……っ、うまっ!!」

 

真人「やっば……チーズが…とろとろなのに、

バジルもちゃんと主張してくる……」

 

祈月「天才じゃん!?ここの職人!!」

 

真人「イタリア、……来てよかった〜〜」

 

ふたりの目がマジだった。キラキラしてた。

 

複数枚のピザをぺろりと平らげた後、

真人は口の端にチーズをつけたまま、にま〜っと笑い。

 

真人「祈月,次はジェラートね」

祈月「OK〜,はしごする感じね〜」

 

ふたりは満足げな様子でピザ屋を後にする。

 

——え?お会計?

知らない子ですね⭐︎

 

——そして。

祈月と真人が,ピザ屋をあとにしてすぐ、

通りを一本曲がったところ。

 

祈月「……ね、あそこ……」

 

祈月が指差したのは,こぢんまりとした店。

ガラス越しに見えるショーケース。

そこには,カラフルなジェラートがずらり。

 

真人「うっわ、あれ絶対おいしいやつじゃん……」

 

正面からスッと入店。

 

中には爽やかな甘い香りと、冷気。

制服姿のスタッフが笑顔で注文を受けていた。

 

だが,呪霊など見えないスタッフ。

当然,目の前を通り抜けるふたりの呪いには気付けない。

 

それでいい。

既定路線。

──セルフサービス開始☆

 

ふたりは,奥の調理スペースに堂々と侵入。

 

ショーケースの裏からアイスディッシャーを拝借し、

ガラス越しに見ていたフレーバーの山へ突撃する。

 

真人「俺、ティラミスとピスタチオね〜」

 

祈月「じゃあ,あたしはレモンとラズベリーと

……あとこの紫の!名前分かんないけどキラキラしてるやつ!」

 

ドォン。

 

ドォン。

 

——盛る盛る盛る。

 

コーンの上に、てんこ盛りのジェラート。

もうバベルの塔。重力を舐めてる。

 

祈月「……うま……このラズベリー、

ちゃんと粒入ってる……♡」

 

真人「このティラミス、粉のとこもちゃんと苦くて……

あー、これ絶対本物〜〜!!」

 

店員たちは、ショーケースからなぜか減ってゆくジェラートに首をかしげるが、

誰も“盗人”の姿を捉えることはない。

 

──そして、頭一個分ほどのジェラートタワーを

ぺろぺろと舐めながら。

 

街を闊歩し,あちこち寄り道しつつ,

路地を曲がったその先。

 

真人「……あ」

 

指差した先にある、白塗りの建物。

重厚な扉と古風な看板。そこには──

 

真人「"cinema"…祈月,あそこ映画館だよ。行ってみよ」

 

祈月「え?真人,イタリア語わかるの??」

 

真人「いや、簡単な単語だけ。文章とかは無理」

「でもさ,言葉分かんなくても、

映画って動きと音だけでも面白かったりするじゃん?」

 

祈月「あ~、確かに!言語の勉強法にも,

そういうのあったよね〜!」

 

ふたりはそのまま、

ジェラート片手にふわりと宙に跳ねるように入場。

 

当然、チケットなどない。

もちろん誰にも見えない。

上映スケジュールも適当。座席も当然、自由席。

 

空いてるシートに、ふたり並んで着席。

 

祈月「えーっと、なんの映画か分かんないけど……」

 

真人「いいじゃん、映画なんてノリで見るものだよ〜〜」

 

巨大ジェラートをポップコーンがわりに。

ローマでの映画鑑賞会が,始まろうとしていた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。