飛行機がローマ・フィウミチーノ空港に到着したのは、
現地時間で午後3時過ぎ。
祈月「……ついたぁ〜〜!!」
真人「ふふ、空気ちょっとあったかいね〜」
乾いた風。どこか香辛料の匂いが混ざったような空気。
観光客の喧騒。
そして眼前に広がる——ローマ。
ふたりはそのまま、
空港の入国審査ゲートを、
ただのオブジェと言わんばかりに
歩いて突破。
係員A「……!?」
係員B「……なんか、ゲートの感知が…」
係員C「……風じゃない?」
——まあ、見えないし。
堂々と素通りし、
ロビーを抜けた祈月と真人が向かったのは。
「地元民が集う人気ピッツェリア」。
イタリア語の看板など読めないが,
直感と嗅覚だけで選んだピザ屋。
本来,呪霊に食事は必要ない。
呪霊の肉体は呪力で構成されており,
それは自己補完の範疇,削れても自然回復するためだ。
だが、祈月や真人は、人型であるためか,
人間に近い味覚を持つ。
だから、特に空腹という感覚はないが。
食事は,嗜好品なのだ。
ピザ屋に入ったふたり。
しかし一般人から見えない以上,
注文など出来ようはずもない。
——それはいつものこと。何も問題ない。
祈月「ピザ屋来たのに席座る気ゼロだもんね,あたしたち?
厨房直行だもん」
真人「そりゃ,呪霊だし?
不可視の特権フル活用でしょ☆」
そう,ふたりはスッと厨房にダイレクト侵入。
当然、誰にも気づかれない。
厨房では、店員が「マルゲリータできたよ!」
と鉄板を掲げたその一瞬の隙に——
祈月「いただきまーす」
真人「もらうねー」
すっと鉄板からピザが消える。
それは,煙のように。
ふっ,と。
店員「……ん?あれ!?!?ピザ!?!?」
次の瞬間、厨房の奥から聞こえる悲鳴。
店主「オイ!!ダリノ・ピッツァ!?!?!」
そんな喧騒はどこ吹く風と。
祈月と真人はカウンター横の壁にもたれかかり,
出来立てのピザにかぶりついていた。
祈月「……っ、うまっ!!」
真人「やっば……チーズが…とろとろなのに、
バジルもちゃんと主張してくる……」
祈月「天才じゃん!?ここの職人!!」
真人「イタリア、……来てよかった〜〜」
ふたりの目がマジだった。キラキラしてた。
複数枚のピザをぺろりと平らげた後、
真人は口の端にチーズをつけたまま、にま〜っと笑い。
真人「祈月,次はジェラートね」
祈月「OK〜,はしごする感じね〜」
ふたりは満足げな様子でピザ屋を後にする。
——え?お会計?
知らない子ですね⭐︎
——そして。
祈月と真人が,ピザ屋をあとにしてすぐ、
通りを一本曲がったところ。
祈月「……ね、あそこ……」
祈月が指差したのは,こぢんまりとした店。
ガラス越しに見えるショーケース。
そこには,カラフルなジェラートがずらり。
真人「うっわ、あれ絶対おいしいやつじゃん……」
正面からスッと入店。
中には爽やかな甘い香りと、冷気。
制服姿のスタッフが笑顔で注文を受けていた。
だが,呪霊など見えないスタッフ。
当然,目の前を通り抜けるふたりの呪いには気付けない。
それでいい。
既定路線。
──セルフサービス開始☆
ふたりは,奥の調理スペースに堂々と侵入。
ショーケースの裏からアイスディッシャーを拝借し、
ガラス越しに見ていたフレーバーの山へ突撃する。
真人「俺、ティラミスとピスタチオね〜」
祈月「じゃあ,あたしはレモンとラズベリーと
……あとこの紫の!名前分かんないけどキラキラしてるやつ!」
ドォン。
ドォン。
——盛る盛る盛る。
コーンの上に、てんこ盛りのジェラート。
もうバベルの塔。重力を舐めてる。
祈月「……うま……このラズベリー、
ちゃんと粒入ってる……♡」
真人「このティラミス、粉のとこもちゃんと苦くて……
あー、これ絶対本物〜〜!!」
店員たちは、ショーケースからなぜか減ってゆくジェラートに首をかしげるが、
誰も“盗人”の姿を捉えることはない。
──そして、頭一個分ほどのジェラートタワーを
ぺろぺろと舐めながら。
街を闊歩し,あちこち寄り道しつつ,
路地を曲がったその先。
真人「……あ」
指差した先にある、白塗りの建物。
重厚な扉と古風な看板。そこには──
真人「"cinema"…祈月,あそこ映画館だよ。行ってみよ」
祈月「え?真人,イタリア語わかるの??」
真人「いや、簡単な単語だけ。文章とかは無理」
「でもさ,言葉分かんなくても、
映画って動きと音だけでも面白かったりするじゃん?」
祈月「あ~、確かに!言語の勉強法にも,
そういうのあったよね〜!」
ふたりはそのまま、
ジェラート片手にふわりと宙に跳ねるように入場。
当然、チケットなどない。
もちろん誰にも見えない。
上映スケジュールも適当。座席も当然、自由席。
空いてるシートに、ふたり並んで着席。
祈月「えーっと、なんの映画か分かんないけど……」
真人「いいじゃん、映画なんてノリで見るものだよ〜〜」
巨大ジェラートをポップコーンがわりに。
ローマでの映画鑑賞会が,始まろうとしていた。