映画館を出ると、
あたりはすっかり暗くなっていた。
昼間の賑わいはどこへやら。
街灯はぽつぽつと灯り、
道路に長い影を落とす。
祈月「……夜になってたんだ」
真人「映画、長かったしね〜」
ふたりはそのまま、街を離れた。
目指すは——
“今日の寝床”、つまり拠点。
ホテルや宿ではない。
進んだのは、山奥。
途中、雑木林を抜け、
舗装されていない道を踏みしめ、
野犬のように迷い込んだ山小道の先。
見つけたのは、ログハウス。
住民をサクッと処理し,
ふたりは中へと入り込む。
祈月と真人。
呪霊ふたりにとって,街中は娯楽の場所。
しかし,落ち着いて眠れる、
最も心地の良い場所は、
人の気配のない山奥。
そう——ちょうどこういったログハウスだ。
祈月「やっぱこういう所が落ち着く〜〜」
ベッドにばふっと倒れ込む祈月。
枕を抱きしめたまま、うとうとと目を閉じかける。
真人はというと、
改造人間を「杭」として使い、
シーツを壁に打ちつけて,
即席のハンモックを設置した。
真人「は〜〜、イタリアの山って広いね。
歩くの疲れた〜」
身体を預け、空中に揺られながら、
真人は本を開く。
本屋から調達した,
日本語に訳されたシェイクスピアの『リア王』。
劇的な悲劇。救いのない結末。
そこに丁寧に描かれた人間の心の機微。
真人好みの作品だった。
魂に触れるように、
ページをめくる指先は、どこか楽しげに。
ベッドに寝転がる祈月が、
ふと、ぼそりと呟く。
祈月「……でもさ。イタリア来て、本当、正解だったよね〜」
真人は目を上げ、そっと笑う。
真人「それ。宿儺の支配下とか、絶対嫌だし。
日本なんて、邪魔なヤツしかいないしさ」
ひと呼吸置いて、窓の外を見ながら。
真人「……ま、あとは、
このログハウスに天然温泉ついてれば完璧だったんだけどね〜」
祈月「そればっかりはね〜。
日本での、あの小屋みたいなのは、そうそうね」
窓の外では、夜空に月が浮かんでいた。
祈月「……明日また、探しに行こ」
真人「そーだね。
明日もまた、したいことすればいいんだし」
──日本の呪術界は、壊滅した。
宿儺は完全復活し、
羂索の“天元と日本人の超重複同化計画”も進行中。
この先、世界がどうなるか。
どこまでが壊れ、どう変わっていくのか。
誰にも分からない。
でも。それでよかった。
祈月と真人には、それでよかった。
過去を悔やむ必要も,
未来を憂う必要もない。
何にも縛られず、
何にも従わず。
ただ,“今”を楽しむ。
それが——
ふたりがこの世界に叩きつけた,答えだから。
END