夜の渋谷。
鉄骨と瓦礫に囲まれたその舞台で、三者の気配が激突した。
虎杖「……行くぞ、東堂!!」
東堂「当然だ、虎杖(ブラザー)!!」
息を整える間もなく、
再び真人に向かって走り出す虎杖と東堂。
タイミングは、もはや打ち合わせ不要。
ただ互いを信じて、動く。
だが、ここまで一切の攻撃を許されず、
若干頰を膨らませていた真人が、ニィと口角を上げた。
真人「……ったく、面倒な奴め……」
右足をゆっくりと引く。
そして、挑発するように両手を広げた。
真人「で、茶番は終わったか?」
そう言って,
腕を太い有刺鉄線のように変形し,
振りかぶって斬りかかる真人。
パンッ!!!
その攻撃に勢いが乗り切る前に,東堂が拍手した。
瞬間、虎杖と真人の位置が入れ替わる。
真人「……ッ!?!」
東堂の蹴りが、真人の側頭部に命中した。
真人「チッ……」
真人は吹っ飛ばされ,着地しながら舌打ちした。
魂に干渉できない東堂の攻撃はノーダメージだが,
真人にとって鬱陶しいことに変わりはない。
拍手ッ!!
再び入れ替わる。
今度は、虎杖と東堂が投げた瓦礫とが位置を交換する!
虎杖が飛んでくる!
真人(なんだこれ、まるで位置が読めない!)
だが、虎杖の拳はもう目の前に迫っている。
顔面に直撃する直前。
真人は腕でガードしつつトゲを生やし、カウンターで応戦!
ドチュッッッ!!
虎杖「うぐっ……ッ!!」
腕にトゲが深く食い込む。血が吹き出す。
それでも虎杖は拳を止めない!
虎杖「ッッッらぁぁ!!」
真人は即座に距離を取り、跳び退く。
真人(……ブギウギとのコンボ、かなり厄介だ)
虎杖は拳で魂に干渉してくる。
東堂は“位置替え”で防御も攻撃も予測不能。
加えて、改造人間を武器化して投げても──
真人(……攻撃の直前で入れ替えられたら、自分に直撃するのがオチ……!)
例えば、ランス型に変形した改造人間を投擲したとしよう。
だが、着弾の直前に“自分と相手の位置”が入れ替えられれば──
自分がランスで串刺しになる。
真人(この状況、正面突破は悪手……)
さらに、下手に東堂に触れて無為転変をかけ,
それにブギウギを合わせられた場合──
東堂と虎杖が即時入れ替わり、虎杖の魂に触れる羽目になる。
虎杖は宿儺の魂が同居しており、“無為転変は無効”,
触れた瞬間、宿儺のカウンターを喰らい殺されるリスク。
真人(いや、これはもう……接触そのものがリスキーだ!!)
ブギウギに翻弄され,思うように攻められず。
下手な攻めを打てば,自爆のリスクが高い。
ならば。
この局面を打開するのは、ただ一つ──
撹乱。
真人,一気に呪力を放出し、改造人間を多数解放!!
「じゃあ、鬼ごっこしよっか♪」
その声と同時に、場が“混戦”に変貌する。
数十体の改造人間が、
崩壊した渋谷の一角を埋め尽くすように出現。
建物から、地面から、柱の影から──
神出鬼没に飛びかかる。
虎杖「うおっ!!」
東堂「下がれ、虎杖(ブラザー)!!」
真人はその間に、戦場を縦横無尽に移動し始めた。
階段、天井、崩落したホーム、倒壊した電車の残骸。
構造の全てを利用して、姿を見せては消す。
小型化,流線型化などの変形を駆使し,
あらゆる物体や改造人間の影を駆け回る。
真人の位置を,虎杖と東堂に見失わせる狙い。
真人(あのブギウギのタイミングを、掴ませなきゃいい)
戦場全体を“攪乱フィールド”へと変える真人。
これは,
“奇襲”のための“撒き餌”だ。
一気に,戦場は混沌へと沈んだ。
改造人間の群れ、瓦礫の揺れ。
視界は悪く、音は飽和し、足場すら安定しない。
その中を縫うように、東堂と虎杖が応戦し続けていた。
だがその一瞬ーー
東堂の後方に控えていた虎杖が、
外周に湧き出した改造人間の対処に回る。
真人の近距離に残されたのは、東堂ただひとり。
真人(……今なら!!)
小型化し,改造人間の陰に身を潜めていた真人が、
静かに口角を上げた。
喉の奥で印を組む。
「領域展開──」
────
一瞬。ほんの0.2秒だけの領域。
「《自閉円頓裹》」
視界が、一瞬だけ反転する。
真人が領域に内包したのは,東堂のみ。
領域内は結界により外界と隔絶される。
東堂が,"領域外"の虎杖を,"領域内"の自分と
入れ替えるのは不可能。
虎杖は気づいたが——
わずか0.2秒の領域,割り込みは間に合わない。
景色が歪み、術式が確定する。
0.2秒領域では,殺しきるのは不可能。
だが,部分破壊なら可能。
真人(コイツの魂——左腕を破壊する!!)
バギィッッ!!!
まるで“中から破裂する”ように、東堂の左腕が爆ぜた。
東堂「ぐっ……ぁあッッ!!」
激痛が走る。
筋肉の制御が抜け、膝が落ちかける。
真人は即座に動いた。
(今の俺は、術式焼き切れ中──無為転変は使えない)
(でも,叩く手はもうない,ブギウギは封じた)
(フィジカルだけでも、“殺しきれる”!!)
真正面から、東堂の懐に一直線に突撃する真人!!
狙うはトドメ。
だが。
その瞬間,東堂の首から,ロケットペンダントが落下した。
地面に落下し,パカっと開いたペンダント。
次の瞬間、真人の視界に入ったのは……
ちょうど閉じた時にキスをするように入れられた,
満面の笑みを浮かべた虎杖と高田ちゃんの写真。
真人「は………!?」
あまりの意味不明さに一瞬脳がバグる真人,
その刹那ーー
パンッッ!!
真人の掌に,東堂の掌が…叩きつけられていた。
東堂の,最後の賭け。擬似拍手。
真人「!!?しまっ──」
目の前。
虎杖と東堂が──入れ替わっていた。
──“狙っていた”はずの東堂はいない。
──そこにいたのは,虎杖。
そして,拳と共に迫る、黒閃の予兆。
黒い火花が爆ぜる。
虎杖「"黒閃”ッッッ!!」
ズガァァァァアァンッッッ!!!!!
虎杖の拳が、真人の腹部に,
臓物を捩じ切らんとするように叩きつけられた。
魂がぐわんと揺れ,ひび割れる。
真人「がッッ……ああああああッッ!!!」
白目を剥く。息ができない。
大量の血が,口までせり上がる。
そして、その身体は吹っ飛ばされ,
地面に激突し、受け身も取れず,数回転がる。
さらにそのタイミングは――領域展開直後,
無為転変、術式焼き切れ中。
つまり、魂の防御が使えない瞬間だった。
魂の形が、大きく、破壊された。
地面に倒れた真人は、身をよじって呻く。
その身体はもはや変形すら安定せず、
“魂の輪郭”が、暴れ、ブレている。
真人(……ダメージ……デカすぎ……)
(ふざけやがって…あのゴリラ…)
視界が霞みかける中、真人は見た。
倒れた東堂が、片膝をつきながら
──かすかに微笑んでいた。
東堂(……左腕を失ってすぐだったからこそ……)
(“自分の手 + 他人の手”で、ブギウギの条件が一時的に成立した……!)
最後の“奇跡”を──掴みきったのだ。
だが、その代償も大きかった。
真人の掌に一瞬とはいえ触れた右手が、
局所的に魂を破壊される。
皮膚は焼けただれ、指先は崩れかけ、
術式の中枢は粉砕される。
東堂(…これで、俺の役目は終わりだ……虎杖(ブラザー)……)
ふらりと、倒れ込む。
虎杖「……ッ!! 東堂ッ!!」
かすれた声とともに、血まみれの手が拳を握り直す。
虎杖「あとは任せてくれ……ありがとう,東堂……!!」
東堂は微かに笑いながら、意識を手放した。