祈月は、走っていた。
渋谷の街を、踏み抜いたアスファルトを蹴りながら、息を荒げて。
祈月「……はあっ……君、大丈夫……だから……!!」
腕の中には、脚を失い、意識も途切れかけの真人。
その体はボロボロだが、魂だけはかすかに震えていた。
“生きたい”と、まだ叫んでいた。
──それだけで、十分だった。
ドンッ!!!
突如、地下から,うねりが突き上げる。
建物の壁が、膨張するように歪み、地面から何かが“生えて”くる。
背後から、地面から、道路の両側から――
無数の“異形”が出現した。
それは、羂索の呪霊操術に取り込まれた、
呪霊たちのなれの果て。
もはや自我もない、ただの戦闘ツール…従属呪霊。
羂索(追跡しながら、遠方から)
「君の介入は……予想外だ」
「長年単独行動だった君が、まさか真人を助けるとは。
……完全にノーマークだったよ」
「だが――逃げ切れるのかい?」
「その“真人”は、もう“私のもの”なんだよ?」
「さあ、観念しなさい。……それとも、君は“混沌”になり得るのかな?」
祈月「……“真人”? ……それが、この子の名前……?」
祈月の顔が、ふっと綻ぶ。
「……いい名前じゃん」
羂索「名前すら知らずに……!? ならば未接触……?
では,なぜ——??」
そのときだった。
ズンッ!!!
彩城魔壁、展開!!!
祈月が背後に伸ばした掌,その先から、桃色の縁取りを持つ薄膜が、後方に次々と展開されていく。
後方から迫る呪霊の一体がバリアに触れた瞬間――
ギュンッ!!!
「ギャアアアアァァッ!!」
真っ二つ。
だが、止まらない。
呪霊操術の従属呪霊は、群れで来る。
倒しても、倒しても、次が湧く。
祈月(あいつ,術式は呪霊操術……距離を詰められたら……吸収射程に入る)
(次、吸収されたら……今度こそこの子,"真人"は……)
歯を食いしばる。
下駄が脱げている足裏はもうズタズタで、裂けて紫の血が染み出している。
だが、祈月は気づかず走る。跳ぶ。逃げる。
祈月「退けッッ!! 全部、斬るッッ!!!」
逃走経路に、左右へ扇形にバリアを展開。
跳躍し、呪霊たちの移動を誘導し、その軌道上に罠のように設置していく。
"真人"を抱えて逃げ切るために,全神経が研ぎ澄まされてゆく。
真人は、意識朦朧としながら、祈月の魂を感じ取っていた。
(君......なんで......俺を......)
(でも、この魂......触れた瞬間、わかった)
(俺の魂と惹かれあって、共鳴している)
祈月の真骨頂──,
座標と動きの先読みによる切断バリア誘導戦術が冴え渡る。
羂索「彩城魔壁……月の呪霊は切断術式に昇華したと聞いてはいたが、まさか……ここまでとは!!」
しかし。
ズズッ……!!
その指先を動かした瞬間、
空間に“穴”が開いたように、新たな従属呪霊が召喚される。
従属呪霊たちが、四方八方から現れ――
一斉術式・発射開始ーー
ビーム弾,地面を這う追尾呪術,爆裂飛礫。
祈月、一瞥し,しかし表情は変えず,
祈月「彩城魔壁・広範囲多重展開ッッ!!」
ズシャアアアアッ!!!
バシュゥッ!
パッと咲く桃色の薄刃。
バリアが街路を覆い、建物の断面に広がる。空中にも重なるように配置。
・蛇型呪霊:バリア接触→真っ二つ
・飛行型:ビーム発射直後 →撃墜
・大型呪霊:前脚がバリアにめり込む →千切れ絶叫
羂索「……月の呪霊、行動原理が掴めん……。予想外……理解不能……」
「これは……!」
だが。笑っている。
羂索「……だが、まだだよ」
──その時。
マンションのベランダから別の建物へと跳躍していた祈月の足元を,
突如、エイのような呪霊が現れ、掠める。
祈月「!?!?」
身体が揺らぎ、体勢を崩す。
次の瞬間、地面から伸び上がってきた爬虫型呪霊が、祈月の左脚に噛みついた。
ガブッ!!
牙が食い込み、肉を裂こうとする。
その隙に、真人の吸収を狙う羂索の気配が――迫る。
祈月「あっ,うそ,うそっ…!!」
だが祈月、即座に状況を判断。
脚が食いちぎられる前に、咄嗟に、
地面から這い出ている爬虫呪霊の胴体へと意識を集中。
祈月「……彩城魔壁・下層一線ッ!!」
ズシャッ!!
斜めに伸びるようにバリアが展開。呪霊の胴体を断つ。
切断の痛みに咆哮をあげる爬虫呪霊。
それにより口が開き、祈月の脚が解放される。
左脚の皮膚は爬虫呪霊の鋭い歯で裂かれ、血が吹き出していた。
祈月「ッッ…ぅうぅ…!」
痛みに顔を顰める。
だが、止まっている暇はない。
すかさず,空中に"切断効果のない”厚めの彩城魔壁を生成。
祈月「足場……っ!!」
そのままバリアを足場にして跳躍。
コンビニビルの屋上へ、さらに飲食ビルの屋上へと飛び移り、再び羂索との距離を取る。
祈月「はあ,……はあっ……このまま、逃げ切るッ……!!」
──そして逃走は、なおも続く。
バリアを撒き、召喚される呪霊を切断し,羂索の追跡を牽制しながら。
祈月は、腕の中の真人を抱え直し,己の限界を超えて走っていた。