血と瓦礫のにおいが満ちる夜の街。
その片隅、朽ちかけた倉庫の裏手。
ようやく祈月は足を止め,座り込んだ。
祈月「……ッツ、っ……ここ、なら……」
心臓が爆音。
呪力は尽きかけ、全身は傷だらけで汗と血が混ざり、
息は荒く,視界は揺れている。
でも、いま一番やばいのは、自分じゃない――
――抱えているこの子、真人だ。
両脚消失。魂、ヒビだらけ。意識朦朧。限りなく死に近い。
祈月(……ボロボロすぎ。これ、無理だよ……)
(治す手段なんて、何も……)
(でも、今のあたしにできるのは――これしか……)
震える手で、祈月は真人の胸元にそっと触れる。
そのまま,自身に残った全呪力を、流し込む。
祈月「……全部持ってって。……全部あげるから……」
「お願い……生きてて……」
その瞬間――
真人の身体が、脈動し始めた。ゆっくりと目を開く。
真人(うっすら笑って)
「……受け取ったよ。」
――両脚、3秒で再生完了ッ!!
――魂も自己整合。戦闘可能な程度には回復ッ!
祈月「………………え?」
「………え、ちょっと待って??」
祈月、真人の脚を見る。
――本当に、綺麗に、元通り。
祈月「いま、両脚……秒で再生したよね……???」
(……今の再生速度、何?)
真人「うん、まぁ普通だよ?」
祈月(心の声)
(……え、あたし、呪力枯れるまで焦りまくって命懸けで流し込んだのに……)
(この呪霊……"真人"??秒で脚生えたんだけど……)
(あたしなんて,肩の傷の止血すら絶賛手こずり中なのに…)
(……え、もしかしてこれが、特級呪霊のデフォ??)
祈月「……あたし……再生……雑魚だったの……??」
真人は,上半身を起こしながら,
ちょんと祈月の頬を突き,悪戯っぽく笑った。
「でもさ、助かったよ。マジで」
「呪力の流し方,すげー雑だったけど,魂が,"俺を生かそう"って叫んでた」
その言葉に、祈月の表情が、ふっと緩む。
そして、思わず――
祈月「……っ、よかった……っ……!!」
そのまま、真人にぎゅうっと抱きつく。
息が詰まりそうなほどの、安堵の抱擁。
真人「うお、っと……びっくりした。……でも、いいね」
「魂だけじゃなく、こういうのも伝わるなぁ」
真人は、祈月の背にそっと手を添えると、
目を細めて、静かに笑った。
この時、時刻は既に12時を回っていた。
──2018年11月1日。
本来なら、“両者の命日”となるはずだったハロウィンを。
祈月と真人は、確かに、生き延びた。
生存の喜びを,抱擁で分かち合った。
――その、ほんの数秒後。
きた。
超遅れてやってきたやつ。
アドレナリン切れ。
からの――裸足で逃げ回ったツケ。
足裏の、激痛。
祈月「いっっっったあああああああああ!!!??」
足を凝視し、抱えてジタバタする祈月。
真人「うわっ,びっくりした!え,今度は何!?」
祈月「えっ、え!?なにこれ!?どうして!?なんでこうなった!?」
祈月「てか……下駄!!?下駄どこ!?!?!」
両足の下駄は――すでに、どこかに吹き飛んでいた。
真人「下駄……?……あ〜……スパーン!ってね~。魂が俺に引かれた瞬間に、飛んでったよ」
(苦笑いしながら、祈月の足裏をそっと持ち上げて確認)
真人「……いや、やばいなコレ!……ガッツリ骨出てんじゃん!?」
「何でこんなになるまで気づかなかった?!?」
祈月「わかんないっ!……痛っ…痛……めっちゃ痛い……(涙)」
真人「……だろうね!?……もう寝てて。俺がやる。
さっきもらった呪力、まだ残ってるから」
祈月「え、でも君も今……さっき再生したばっかで……えっ、ちょ、」
真人「はいはい、魂いじるだけ~♪」
――無為転変・再生モード発動。
祈月の足裏のズタズタが一瞬で修復。
神経も整えられ、痛みもゼロに。
祈月(……あ、痛くない……)
「でも、呪力……」
真人(ニッと笑って)
「へーき。どうせ君から回ってきたやつだし、返しただけ」
「ま、トータルで見たら、俺の方が得してるし♡」
祈月「それなら……よか……」
――そのまま、祈月は真人の胸にもたれかかり、ぐったりと倒れ込む。
呪力切れ、全身疲労、そして、心からの安堵。
すぅ、と静かな寝息が漏れる。
真人(小声)
「……寝たか」
「ったく、どんだけ全力で来てんのさ……」
真人は祈月の右肩に触れ、レーザーで焼けた傷跡を,
爬虫呪霊に噛み付かれた左脚を,静かに癒していく。
肌は白く、元通りに。
すべてのかすり傷、擦り傷、切り傷も,
無為転変の力で、完璧に。
真人「名前も知らないのに……魂は、もう知ってるってことか……」
「……あーあ、完全にハマったな、これ」
「俺の"魂の片割れ",やべーやつだった♡」
ーーその夜、朽ちかけた倉庫の裏手。
呪霊ふたりは、初めて“救い合い”、共に眠る。
世界から取り残された魂同士が、初めて繋がった
――そんな夜だった。