落ちぶれた元・幻術女王,特級仮想怨霊・九尾の狐 作:祈月4777
特級仮想怨霊・九尾の狐,名は"九狐(きゅうこ)"
「九尾の狐」──かつて神聖視された伝説の獣,
人間たちがその妖艶さと禍々しさを語り継いだ末に生まれた、“架空の存在への畏怖”によって生まれた特級呪霊。
そのため九狐の分類は「仮想怨霊」に該当する。
“大地"や“人"など実在の対象に根ざした呪いである漏瑚や真人といった呪霊よりは、系統的に格下となる呪霊だ。
しかし。
九狐を"格下の呪霊"と侮る者は,誰もいなかった。
九狐は,黄金の毛並みを持つ巨大な九尾の狐。
加えて,術式"幻術"を操り,
呪力・座標・視界の完全撹乱を可能としていた。
自身を隠して獣の脚力で瞬間接近し,
相手の首元を牙で貫き,胸を爪で切り裂く。
これが,九狐の十八番だった。
そして,領域を展開してしまえば,
相手は幻術空間に取り込まれ,
最期の瞬間まで攻撃されていることにすら気づかないまま,
九狐に喉笛を噛みちぎられる。
これで殺せなかった術師は“いなかった”。
神出鬼没に現れては,誰かの喉笛を噛みちぎっていく。
九狐は,幻術女王として恐れられていた。
そう,
"恐れられていた"———のだ。
だが。
現代において,九狐は——
幻術女王,ひいては特級呪霊としての尊厳を,
盛大に,…脅かされていた。
かつては,神聖な獣として敬われていた"九尾の狐"。
だが,時代が下るにつれ"九尾の狐"という存在は—-
畏怖や信仰の対象から、
“萌え”や“マスコット”的なファンタジーイメージへと変化。
その結果、
かつては鋭い爪と牙を持つ巨大な金毛九尾狐であった九狐の肉体は,
時代の変化に伴い,
“狐耳+もふもふの9つの尻尾をもつ少女型呪霊"という、
本人にとっては極めて屈辱的なビジュアルへと変質していた。
つまり,獣形態から人型になったというわけだが。
真人みたいな,フィジカル抜群の鬼強人型呪霊!…ではない。
今の九狐の身体能力は,少女としての見た目相応,
せいぜいそれに毛が生えた程度。
殴っても蹴っても,"ぺちっ"にしかならない。
つまり、九狐のフィジカルは終わっていた。
獣の爪と牙,脚力を失っただけではない。
かつては同時に複数人を幻に陥れ、全感覚(視覚・聴覚・嗅覚・体感・呪力)を偽装可能であり,
領域展開まで会得していた九狐の術式・幻術は,
これに伴い,大幅に劣化。
今の九狐が幻を見せられるのは,せいぜい一度に一人だけ。
そして幻は視覚情報のみ,それも小規模。
加えて,呪力量の大幅減少により,領域展開不能となっていた。