ヒガンバナ   作:月ノ蛇

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tips:【異能】
異種族が出現し始めた2000年頃から、多くの人間に発現し出した能力。異種族の持つ力と似ており、一般的に先祖還りと知られている。2000年以前でも発現する人物は少数ながらいた為、過去に偉業を成した人物も【異能持ち】であったかもしれない。


追記:第一話の内容を一部変更しました。
設定「武器を出せる【異能持ち】は本能的に使い方がわかる」を削除しました。


1-2.それは迷わせる家故

「ふんっ!!」

 

太刀川の一太刀により入口の鉄扉は容易く切り捨てられる。扉と数mも離れているが斬れたのは異能の力か。

扉の先は地下へと続く階段のみ。階段以外に内装はなく、ここに入れと暗に示される感じだ。

 

「行きたくねぇ」

「ほらほら、鎬さんが率先して突入したんだからさっさといくよ」

「でも、なんか罠って感じがするんだよねぇ」

「未来ちゃん、日和ってるの?」

「はぁ?…行きます行きます」

 

私は渋々階段に足を踏み入れる。

 

ふと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

あぁ、そういえば辺り一面に沈丁花が咲いていたっけ。

 

 

 

 

地下は酷く入り組んでいた。まるで逐一構造が変わっているのではないかと錯覚するほどで、ほとんど迷路の類だ。雷羅や真澄が調べ上げて作った地図すらも当てにならない。

 

「本当に人いるのかな?誰とも会わないんだけど」

「こんだけ入り組んでたら会わないやろ。困ったなー。構成員いないと探してる娘について聞けへんしな」

 

そして、今は梓忌と2人っきりだ。まぁ、簡単にいうと迷った。ちゃんと鎬さんを追いかけてきていたはずなのだが、数分ほど走って探索しているうちに迷ってしまったのだ。地図も当てにならず、地下施設故に空気薄いのか酒に酔ったような感覚に陥る。

 

「…酸欠?」

「あー、そういえば頭クラクラしてきたわ。空気循環システム狂ってんかな?」

「早急に仕事を遂行する必要が出てきたね」

「人っ子一人いないのも気になるわ。あとはまぁ、なんだってこんなに花が多いんやろ?」

 

地上にもあった沈丁花以外に梔子、金木犀、ジャスミンに鈴蘭と季節を問わない植物が大量に育てられている。地下施設故に地上の自然が恋しくなるからだろうか?それにしては匂いの強いものが多い。それどころか多種多様の花の匂いが混じって酷いことになっている。

 

「この匂いのせいで頭が痛いのかも知れないわ」

「香水のキツイ電車に入った感じやね」

「それはわからないかも」

「あー、女性はそんなに気になんないんやな」

「それより、人か出口を探そう。このままじゃ、2人揃ってお陀仏よ」

 

壁に目印として傷をつけながら私たちは歩く。右を見ても左を見ても同じ景色で、目印をつけるくらいしか出来ない。目印をつけてもつけても同じところに出ないので進んではいるんだろうけど、どこまでこれが続くのかわからない。数十分は真っ直ぐ歩いただろうけど何も見えてこない。

途中途中の部屋を開けてみても全く同じ内装しかなく、いちいち見る気も起きない。

行けども行けども全く同じ景色で滅入ってしまう。腕時計に目をやってもすでに狂ってしまったのか、針はグルグルと回るだけだ。

 

「進むしかなさそうね」

「めんどくさいなぁ。おんなじ景色で見飽きたわぁ」

 

軽口を叩きながら進んでいく。いや、どう考えても進むしかないのだ。

 

 

 

 

場所は変わり、太刀川鎬は今広い空間へと立っていた。

 

「ふむ、分断されましたか」

 

辺りを見渡しても味方は鎬以外に誰もいない。対して、彼を取り囲むように十数人の男性がそれぞれ自分の獲物を持っていつでも戦えるように構えている。

 

「なんて酷い歓迎でしょうか」

「勝手に人の家に入る方が非常識ではなくて?」

「あぁ、これは宮妃煙緋さん。初めまして。私、探偵事務所『エンシス』所長、太刀川鎬と申します。お見知り置きを」

「これはご丁寧にありがとう。それで探偵さんがこんな僻地に訪れた理由は何かしら?何かした覚えはないのだけれど」

 

鎬の嘆きに反応するのは1人の女性。このむさ苦しい空間に咲く一輪の花。彼女は鎬を取り囲む男性を掻き分けて歩いてくる。浴衣に意匠の凝ったアクセサリー、酷く整った顔に扇子を仰ぎながら歩く様子はさながら遊女だろうか。香水をしているのか時折花のような甘い匂いが鎬の鼻腔をくすぐる。

鎬は腰の刀に手をかけながら素直に目的を説明する。

 

「はぁ、ご冗談を。私共の目的は貴女方に誘拐された人物の救出ですので、それが達成されれば素直に帰りますよ」

「それは許可できないことね」

「貴女がここのボスである以上そうでしょうね。では────────」

「「殺し合いましょう」」

 

一瞬にして空間内の殺意が増幅する。

 

「皆さん、やっておしまい」

「肉壁如きでどうにかなるとでも?」

 

煙緋の合図と共に鎬を囲んでいた男性が一斉に襲いかかる。それぞれ刀や薙刀、銃や拳、ありとあらゆる武器を用いて鎬を殺そうと純粋無垢な殺意を向ける。

 

「うざってえ」

 

鎬は一言ぼやくと刀を抜く。鎬を中心に一陣の風が巻き起こり、一瞬の後彼を囲んでいた男性は全員地面に伏せることになった。誰1人これ以降立ち上がることはない。全員が綺麗に首を断ち切られているのだから。血が流れることなく首と体が離れ、その場に倒れ伏している。

 

「で、誘拐した人は何処だ?」

「はぁ、この程度の実験体じゃあ効果がありませんわね。次です」

 

つまらなそうに扇子を仰いでいた煙緋はパンパンと手を叩く。それと同時にガゴンと天井から異音が鳴り、2体の異形が落ちてくる。

それは人間に人間を何体も混ぜたような異形。手は数mある巨体の全身から何十本も生え、下半身が手に埋もれている。頭と思わしき部分にある幾つもの目がギョロリとそれぞれ全く異なる方向を見る。全身に生えた口からは常に呻き声が漏れる。これは、生命を冒涜するかのような異形だ。

 

「幾つもの実験体を以てしてもこの位しか造れない異形なんだ。とくとご覧あれ」

「……チッ」

 

扇子を仰いで煙緋は嬉しそうに話す。その表情は喜びそのもの。自分の発明品を発表できて嬉しいと言った様子。

対照に普段の好々爺な表情とは裏腹に害意と殺意を滲ませた視線を鎬は煙緋に向ける。

 

たすけて、いたいひどいつらい、たすけて

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ

 

声にならない声と共に異形のバケモノは鎬目掛けて一目散に突進する。その巨体から繰り出されるものとは到底思えない。まるでリミッターを外されているようだ。バケモノな時点でリミッターもクソもないのだが。

 

「それは、大量の素材を混ぜ合わせることでタフネスを追求した逸品。裏社会にすら名が轟く太刀川鎬さんはどうするのかしら?」

「黙っとけ、ゴミ虫が」

 

鎬の刀に風が纏わりつく。風の密度はみるみるうちに上がり、目ですら見えてしまうほどに風は膨れ、纏わり、その存在を誇示していく。

異能名【風斬刃】。風を操り、あらゆるものを切断する【異能】である。

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!

「すまんな。死んでくれ」

 

鎬は基本的に自身の【異能】で生み出した風を刀に纏わせて戦う。彼の卓越した刀剣の技術に凡ゆるものを切断する【異能】が加わることで非常に厄介な攻撃へと昇華する。鎬はこれを基本攻撃にしている。

 

「───〝風斬刃・一閃〟」

 

鎬が振り抜いた刀はバケモノに届くはずのない距離にも関わらず、問答無用に切り捨てる。

 

「………さあ、誘拐された人たちは何処にいる?答えろ」

 

鎬はその刀の切先を向ける。それは威圧であり、脅しである。低音の声を出し、ジリジリと距離を詰める。

対して煙緋は手持ち無沙汰故に舐めていた飴をガリッと噛み砕く。

 

「はぁ〜、つっかえねぇですわね。どれもこれも簡単にやられるだなんて、一体幾らかけたと思ってるんですの」

「そうか。じゃあ、さっさと吐いてもらおうか。こっちだってお前さんたちを捕まえようなんざ、はなから考えてねぇんだ。誘拐された人を助けたらそれでいい。お前らを捕まえるのは警察の仕事だしな」

「あー!!面白くない!!……はぁ、一時撤退としましょう」

 

煙緋が子供のように癇癪を起こす。しかし、数分すればビクッと体が跳ね、冷静さを取り戻す。

そして、冷静になった煙緋が手を叩くと辺りに甘ったるい匂いが充満する。それと同時に煙緋のいた部分が沈降するかのように動いていく。

 

「はっ?!待て!!」

「夜はまだまだ長いです。もう少しだけ夢を見させてくださいね」

 

鎬の手が届く前に煙緋は姿を消した。煙緋のいたところはただの壁に変わっている。また、辺りに充満した煙のせいで鎬の姿も煙の中に掻き消えていくのであった。

 

 

 

 

「煙草が恋しいよぉぉ。もう吸っちゃおうかな」

「ヤニ切れるの早くね?」

「違うの。今日、面接だから朝から禁煙してたの。………うー、もういいや。吸お」

 

あれから20分経ったがいまだに進展はない。私の手は遂にポケットに仕舞っていた煙草に伸びる。

 

くっ、今は仕事中だし吸っちゃいけない…でも、もう耐えられないし。くっ。…………あれ、前職でも普通に勤務中に吸ってたよね。

 

一度決壊してしまった欲は止まるところを知らず、流れるように煙草を取り出す。真っ白な箱を開け、中に入っている煙草を一本取り出す。あー、これ吸ったらあと一本か。予備を持ってこなかったことを悔やみながら、私は煙草を咥え火を付ける。

 

「うわ、美味しっ!!」

 

朝から摂取してこなかったニコチンが全身に行き渡るような感覚を覚える。この空間に広がるのとは違う甘い匂いが鼻腔をくすぐり、紫煙が立ち上がる。だんだんと頭がシャッキリしたような気持ちになる。

 

「ん。あー、…………てか、この床壊せば良くない?」

 

遂に脳みそにまでニコチンが染み込んでしまったのか、普段なら考え得ることのない提案をしてしまう。

 

「遂に頭までいかれちゃったかぁ」

「ちがわい!!いや、ほら。どれだけ道なりに行っても意味ないならぶち壊すのが一番かなーって」

「それはね………そうだけど。ここ地下なんよ。そんなんしたら生き埋めなるわ」

「ほら、それは行き当たりばったりで」

「阿呆か?せやけど、まぁ。やってみる価値はあるな!!」

「でしょ!!」

「それじゃあ、危ないから離れといてな」

 

梓忌はそういうと右手を前に出す。正面は廊下の先で右手の標準は少し前の床に向けられている。

 

「さぁ、やるか。〝武器群(ウェポンズ・アーミー)〟」

 

梓忌の右手からニュキッとミニガンの前方部分が出現する。そして、それはガガガガガガと小気味良い音を立てて床を抉り取る。

 

「いつ見てもチートみたいな性能してるよね」

「そりゃあもう、これで食ってるみたいなもんやし」

「てか、なんでロケランとかグレランとか出さない訳?」

「は?馬鹿?こんなとこでロケラン使ったらどうなるかわかってるよね?2人揃ってお陀仏やろ」

「そっか、確かに」

「はぁ…………あ、穴あきおった」

 

見ると、床には大きな穴とその下に空間があるのが見える。

 

「しゃっ。未来ちゃん!突入しよや」

「レッツゴー」

 

カスほど軽い掛け声と共に2人は下の空間を確認するまでもなく気軽に突入した。




太刀川 鎬
異能名:風斬刃
能力:凡ゆるものを切断する風を生み出し操る。切断面は非常に綺麗で、生物を斬れば相手は痛みを感じることはなく、体液は一滴も落ちない。
原初:鎌鼬
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