TS転生創造神が世界と一緒にカードゲームを作って広めました 作:稲光結音
中学校入学の朝を迎えた。
だというのに両親はいない。『中学入学おめでとう。頑張れ』と書き置きとが残っているだけ。
この世界に来てから朝食を毎日作ってくれたのは陰だ。
陰と二人で食事を取って、二人で家を出た。
学園までは歩きで充分間に合う程度の距離。
人魔天機の話なんかしながらの初登校だ。
それでまあ、着きましたよ学園。
先生らしき人がね。体育館にまずは行くように促してくるんですけどもそれがまあ見知った顔。
このネタ一回やったから分かるね? あのクソでかい胸は女神様だよ。
あの神、教師までやってんのか。ちょこちょこ俺の前に顔出してくるのなんなの。
でまあ式が体育館で始まったんだけど、その前にチノとその両親にあったりして。その辺全部吹っ飛んだね。
なんでかって担任が女神だったから。作為的なものを感じざるを得ない。
それくらいで驚くなってのはまあ分かる。この世界ってそういうもんなんだねと受け入れろと。
でもね。
苗字は先、名前は生で先生(さきいきる)です。先生って呼んでね(はぁと)じゃないんだよ。
めっちゃ偽名。なんだあの人。いや神。
そういや巫女長やってる時も名前出さなかったな。なんのこだわり? というか誰か疑問に思って? 受け入れないで? はーいじゃないんだよなあ。はーいじゃ。素直か。
次に時間割。
テキスト、数学、理科、社会、奉納。
なんか変なの二つあるな? 同じクラスになれた陰に聞くと、テキストはだいたい国語でカードのテキストで言葉を学ぶ。奉納はデュエルのことらしい。
そんでまあ始業式の日だっていうのに授業があるとかいうあり得ない程の詰め込みカリキュラムで最初の授業。社会は歴史の授業で世界のはじまりから。
創造神が世界を作って、カードゲームを人間に与えたって話。女神は自分でその話する時どんな気分なんだろうな。
ちなみに人間の使う言語は人魔天機に書かれたテキストが始まりだそうだ。で、ここでなんで国語って言葉が存在しないのかというと女神のカードから言葉が始まったので世界共通語らしい。そりゃ英語の授業もないわけだね。
で、奉納の授業。つまりデュエルの授業なわけだけど初回は三つの宮からの勧誘が始まった。
つまり先輩達三名が後輩である俺達に対してそれぞれの宮である「魔の宮」「天の宮」「機の宮」について紹介してくれるらしい。
「我々『魔の宮』は一芸特化! 何か特技があるという一年生はぜひ入って欲しい!」
「私達『天の宮』は神を愛し、つまりは『人魔天機』を愛する心を何より貴びます!」
「自分ら『機の宮』はとにかく人数が多い! 人が多いからデュエルの相手には困らないデスよ!」
みたいな事を言ってたみたいだけど、ごめんだいぶはしょった。だって「人の宮」に入るの決めてたしあんまり聞いてなかった。
「人の宮」の紹介? なかったよ。なんかもう一人先輩はいたんだけど他の三人の熱心なパフォーマンスで時間取られて時間でーすってされてなにも出来ずに帰ってった。
で、放課後。その先輩のいる「人の宮」……なんか宮ってあんまり馴染みない言葉なのでここではギルドと呼ばせてもらおう。
人の宮ギルドへとチノを先頭に誘導して貰い、ギルド紹介をさせてもらえなかった先輩の元へとたどり着いた。
校舎を出て裏手の木造のボロい建物。恐らく旧校舎であろうところにその人はいた。
長い髪をした少女で、ロッキングチェアに座る彼女は神秘的な雰囲気をしている。
「どーも、九条センパイ。貴女のチノですよっと」
「ああ、チノくん。君も物好きだねぇ。本当にここに入るのかい」
「ま、そですね。ここが一番当たり障りがない」
一つ、頷いた。
「それは正しい。ほぼ活動していない宮だからねぇここは」
「で、俺様が入るって言ったら~、なんか友達も入ってくれるって言ってくれて連れてきました~。エイトくんと陰ちゃんです」
今度は首を横に振る。
「それは正しくないねぇ。友達ならなおさらこんなところに連れてくるべきじゃない。だが一応名乗っておこう。三年の九条下戸、この宮のマスターだよ」
「どうも。小栗エイトです」
「緋色陰です」
それで、と前置きした上で彼女は問いかけを続けた。
「なんで君達はここに入ろうと?」
「私はエイトくんの付き添いで」
「俺は、この宮で他の三宮と戦った方が面白いかなって思ったからです」
何にも興味がありません、という顔をしていたギルドマスターは少しだけ俺を見る。
「それは面白いねぇ。うん、君は面白い。気に入った。いいよ、好きにやりな。どうせ潰れかけの宮が何やったって本当に潰れるくらいしかデメリットはないからねぇ。
そんなのデメリットになりゃしない。好きに暴れるといいよ」
言質取ったわ。好きにしよ。
「ありがとうございます」
「せっかくなら三宮のマスター全員倒すくらいやってほしいねぇ、その気はあるかい?」
「そのつもりです」
しれっと言い放った俺に慌てたのはチノだった。
「ちょ、ちょっとエイトくん!? 宮のマスターってのはその宮で一番強いんだぜ! お前だって強いのは知ってるけど、そりゃ無理だ! せめて記憶とデッキがある頃ならまだしも今のエイトくんじゃ流石にさあ」
「無理だと思うか?」
「そりゃ無理よ! 経験もデッキもまるで不足してる! 勝ち目なんてどこにも……」
そう言って、俺を諦めさせようとする友人の言葉を遮った。
「チノ」
「……なによ」
「お前に【英雄】を見せてやる」
それは彼との勝負の時、トドメの連撃を繰り出す際に放った言葉。
説明するのは凄く恥ずかしいが――女神はよく自分の過去の言動をよくしれっとした顔で歴史の授業として解説できたな。
つまり、チノには三つのギルドを倒す俺という英雄を見せてやる、と言っているのだ。
「ふぅん」
「ほう」
「エイトくん……」
その場にいる三人が、感心した顔でこっちを見てくる。
恰好つけすぎたかと思ったが、そうでもないらしい。
「ま、そこまで言うなら信じてみますかね。やりたい相手がいるならまず俺様に話を通しな。連絡つけてやるよ」
「これでただの世間知らずならお笑いだけど、なんだか妙に説得力みたいなのを感じさせるねえ」
「かっこいいよ、エイトくん。頑張ろうね」
三人からの信頼を感じる。そして九条先輩がふふっと笑う。
「この宮にいるのは私一人だったけど、まさかこんな大型新人が現れるなんてね。
実に面白い。廃宮にもならなくて済みそうだ」
最後の人の宮マスターというのも悪くなかったのだけれど、そう彼女は言った。
「世の中の大体の事ってのはどうでもいい事で出来ている。だからこそ面白いってのは大事なことだ。
だから面白い君は大事だという事さ。もし本当に三宮のマスターを倒せたら……キスの一つでもしてあげようか」
「なっ……!」
そんな爆弾発言に驚きを見せたのは誰だったか。陰だったかもしれないし、チノだったかもしれない。もしかしたら両方か。
なんでそんな二人を見てないような思考をしてるかって? 俺が一番動揺してるから他の人気にしてる余裕がなかったんだよ。前世では完全無垢な童貞でしたから、はい。
「い、いや! あの! こっここ婚約者いるんで! はい! 大丈夫です!」
「そりゃ残念だねぇ。三宮のマスターを倒す男の彼女というのも悪くなかったんだけど。じゃあこうしよう。三宮のマスターを全員倒したらデュエルしてあげよう。
私が勝てば三宮のマスターを全員倒した君より強いということになる。楽して下剋上というわけだね」
「まあ、それならいいですけど」
目をパチクリさせて、彼女は驚いていた。
「おや、本当にいいのかい。勝って得るものもなし。負ければ栄誉を失う――メリットはないよ?」
「ちょっと何言ってるのか分からないですね。デュエルは楽しい。それだけで充分なメリットじゃないですか」
「――ふむ。君の考え方で言うならば世の中は面白い事で溢れているということになるね。私とは考え方が違うようだ」
そういうと彼女は揺られている椅子から立ち上がった。
「カードを拾ってくる。なにかいいカードを得られるかもしれない。人世界で拾えるのは種別:人のカードだけだからね。人デッキの強化にはちょうどいい。
ちょっとだけ、熱くなってきた」
人の宮のマスターが立ち去った後、チノに肘で小突かれた。
「やるじゃんエイトくん。九条センパイにああまで言わせるなんてな」
「そうなのか?」
「ああ。あの人は柳に風というか、なんでも受け流す人だった。たぶん色々諦めてたんだと思う。人の宮の復興とかそういうの。
でも、そんなあの人にも目標が出来た。三宮のマスターを全員倒したお前を倒すという目標がな。
エイトくん……あの人を裏切るなよ?」
そう言われると責任重大だが、やってやるさ。俺は主人公なんだからな。
「分かってるさ。それよりも、すまない」
「? なーにがよ」
「九条先輩と二人きりになりたかったんだろうお前」
「な、な! ななな!」
ノリの軽いやつだと思ってたが、九条先輩に関する事は真剣だった。その事から簡単に推測できることだ。
「ご、ごめんね……お邪魔だったんだ」
「陰ちゃんまで! やめろよーぅ! 俺様は九条センパイのあんな顔が見れただけで嬉し……これなんのフォローにもなってねえな!?」
そんな発言まで飛び出て、三人で笑った。
「いやでも待て! 待って! これで来年以降宮に人が入らなかったとしたらよ!? この三人でやっていくわけで……そしたら今度は二人の邪魔なの俺様じゃないの!?」
また三人で笑った。と、思ったが陰は笑ってなかった。
「――まあ」
「まあ!? まあって言った!? フォローしてよ!」
「冗談、冗談だよ」
本当かー? そう言って陰をからかうチノ。
大丈夫さ。なにせ、別に三ギルドを倒すだけが目的じゃないからな。
人の宮を復興するところまで含めて、完全なハッピーエンドにしてみせる。
主人公なら、それくらい出来て当然だろ?
神は許さなかった。
その辺で拾ってきたカードを積み上げてどれだけの高さに出来るのか、という本来とは違う遊び方を。
それを神はバベルと呼び、禁じた。
後のスマホによるカード一括管理はこれが理由だと言われている。
――歴史の教科書より。